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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第5章

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5-31 女神の月6 魔法の手解き

本日もよろしくお願いします。


 宴会の途中で、ミニャが子供たちを引き連れてニャロクーンの下へやってきた。先頭を歩くミニャちゃん陛下のボス猫っぷりたるや。


「ニャロクーンさん。魔法ってどうやるの?」


「ふむ。子供らに教えても?」


『クラトス:えーと……ええ、お願いします』


「では、すまぬが、水が入ったコップを用意してほしい」


『クラトス:わかりました』


 お喋りしていた賢者たちに許可を貰い、ニャロクーンが子供たちに魔法を教えることになった。

 扇形に座る子供たちの前にニャロクーンは座り、話し始めた。


「女神様から魔法を授かったお主らは、すでに何かができそうな気がしていると思う。どうだ、そういった気持ちになっているだろう?」


「なってる!」


 ミニャが言い、子供たちも頷く。


「その気持ちが魔力であり、魔法が使えるということだ。あとはその気持ちを体の外に解放すればいいだけのこと」


「マールちゃん、できそーお?」


「ちょっとわかんないかも。ミニャちゃんは?」


「ここまで出てきそう」


「それ私もー」


 ミニャは「ここまで!」と喉を指さした。気持ちが喉元までこみ上げるなんてことはあるが、そんな感じの熱を感じるのだ。他の子供たちも同じようだが、実際に形にできなくてもやもやしているようだった。


「魔法を使ったことがない者は、どうすればいいかわからなかろう。まずはそうだな。闇属性を持つ娘、お主、前に出てきなさい」


「おー。アメリアちゃん、頑張って!」


「は、はい!」


 アメリアは少し不安そうにしながら前に出てきた。

 見学するメイドさんや兵士も少し不安そう。


【130、名無し:このネコは、ミニャちゃんファーストの精神がない!】


【131、名無し:いや、女神の使徒が見本なのを避けたんじゃないかな。ミニャちゃんならできて当たり前だって、子供は思っちゃうしさ】


【132、名無し:それはあると思うな。世間の女神の使徒への崇拝度は高いからな】


【133、名無し:それよりも魔法ってどう教えるんだろう】


 スレッドではそんな話をしながら、どんなふうに魔法を教えるのかワクワクした。


「アメリアという名か。では、アメリアよ。お主は水の属性を得られたか?」


「はい。得ました」


 属性は1人1つではない。多くの人が複数を得、特に水属性は大体の人が手に入る。闇属性を得たアメリアも水属性は持っていた。


「よろしい。では、両手をギュッと握りしめることはできるかね?」


「え……? は、はい、できます」


 アメリアは言われるままに両手を握った。ミニャたちも同じようにギュッと握って、手とニャロクーンを交互に見つめる。その手は、人を殴る拳の形ではなく、親指を人差し指の横に添えた握り方。


「そう、アメリアは手を閉じるのが簡単だと知っている。では、その手を開くことはできるかね?」


「は、はい。できます」


 アメリアは首を傾げつつ、パッと手を開いてみせた。


「やはりお主は閉じた手を開くのが簡単だと自信を持っている。では、手を上げることはできるかね?」


「で、できます」


 アメリアは手を上げた。


「それも簡単にできると自信を持って言い切れる。その腕を回すことはできるかね?」


「できます!」


 それからもニャロクーンは多くの人が簡単にできる指示を繰り返す。

 気づけば、アメリアは賢者たちが用意した水入りのコップを持たされていた。


 ニャロクーンは言う。


「そのコップの水を地面に捨てることはできるかね?」


「できます」


 アメリアは揶揄われているのかなと不安に思いつつ、コップの水を地面に流そうとして、水が服に跳ねるのを心配した。


「んっ!」


 だから、ちょっと離れた場所に落ちるようにコップの水を捨てた。


「お主は水が地面に落ちると泥を撥ねると思い出した。お主は水の理のひとつを知っていた」


 ふいに、アメリアの近くに水の大玉が現れた。ニャロクーンもまた水属性を操れるようだ。


「その水の玉からそのコップで水を掬うことはできるかね?」


「わ、わかりません」


「では、やってみるがいい」


 アメリアは恐る恐るコップを水球に近づけ、水を掬った。簡単に掬えるが、コップの外側はもちろん、手も水に濡れる。


「いま、お主はその水の玉が安全なものであり、水を掬うことができると知った。では、そのコップの水を捨てることはできるかね?」


「できます」


 アメリアは先ほどと同じようにコップの水を捨てた。

 それから、数度、水を掬い、捨てることを繰り返させると、ニャロクーンは言った。


「我はお主が当たり前にできることしか言っていない。で、あるならば、次に問いかける質問もお主は簡単に行なうことができる。お主はそれに対して、体を動かすのと同じように自信を持たなければならない。魔法というのは、使えるという自信によって生み出されるのだから」


「っ!」


「アメリアよ。手の平から水を生み出すことはできるかね?」


「ふみゅっ!」


 アメリアは喉から変な音を出して、コップを持っていない方の手を前に出した。


「水さん、出てきて。えい!」


 アメリアの体がたった今まで触っていた水の冷たさを、アメリアの脳が捨てた水が飛んでいく様を思い出す。

 すると、アメリアの体の中から何かが少し抜け落ちて、手の平から水が出た。水はアメリアがコップで捨てた時のように前方に弧を描いて飛んでいき、地面を濡らした。


「わぁ!」「「「おーっ!」」」


 アメリアの喜びの声と子供たちの歓声が重なった。

 殊更喜んでいるのはクレイやメイドさん、兵士たちだ。妹あるいはお嬢様の初めての魔法に感動している様子。


「それが魔法である」


「すごー。アメリアちゃん、簡単だった?」


「は、はい。手を握るのとあまり変わらないんだって思いました」


「へえ!」


 と感心するミニャだが、ミニャも特に意識せずにミニャのオモチャ箱を発動し続けている。


「では、ミニャ殿たちもやってみようか」


 それから子供たちも同じように魔法にチャレンジ。

 アメリアの時と同じように、ニャロクーンに言われるまま体を動かし、水を捨てていく。


【310、名無し:普通の魔法は使えることを信じなければならないのか】


【311、名無し:あとは想像力も関係しているかも。水を捨てるって行為は、割と思い切りが必要なんだってアメリアちゃんを見て思った】


【312、名無し:たしかにアメリアちゃんはちょっと躊躇ったよな。セーブする心は魔法の発動を阻害するのかも】


【313、名無し:満腹度を消費するわけだし、心のセーブはあるかもね】


【314、名無し:ニャロクーンさんはかなり良い師匠になるんじゃないか?】


【315、名無し:俺たちと同じ陰キャだと思ったのに!】


【316、名無し:自分の子供や孫に魔法を教えただろうからな。俺たちとはちょっと違うと思うぜ?】


 賢者たちがスレッドで考察しているうちに、ミニャがチャレンジ。

 賢者たちが足元で両手を握りしめて見守る。


「んー、にゃ!」


 にゃっと両手を突き出すと、バシャッと水が出てきた。

 アメリアのように弧を描かず、水は足元に落ちるストロングスタイル。必然的に、泥を撥ねて足首が汚れた。


「きゃぷーっ!」


 謎の声を上げて喜ぶミニャは、泥が撥ねても気にしない。

 同じく泥が撥ねた賢者たちだが、やはりミニャが魔法を使ったことにピョンピョンと我がことのように大喜び。


「賢者様、モグちゃん。ミニャ、魔法使えるようになった! 見て見て!」


「ももぐぅ!」


『ネコ太:ミニャちゃんすごーい!』


『覇王鈴木:これは未来の大魔法使いだな!』


 ミニャは魔法を使ってみたいと賢者たちに話していたので、それがやっと叶って、賢者たちも嬉しかった。だから、ミニャちゃん陛下が生み出した初物泥水で汚れるのは、むしろご褒美なのである。


「うーん、さすが女神の使徒の師匠ですね」


 そう言ったのはコーネリアだ。


「生活魔法でも、普通は使えるまで数時間は教えるものですけど」


 逆に賢者たちは数時間で使えるんだと思った。

 後で知るが、中には1週間くらいかかる者もいるようだが、基本的にはあまり苦戦しないようだ。


 そんなコーネリアの呟きを拾い、ニャロクーンが言った。


「最初の一歩に限って言えば、魔法は幼いうちに覚えさせた方が楽なのだよ。特に子供の集団は一人が使えるようになると、その自信が一気に伝播する。逆に、劣等感を持つ年齢や理屈をごちゃごちゃと考える年齢になると、最初の一歩で躓くことがある。まあ、その代わりに、早いうちに魔法を覚えさせると年中腹をすかせた子供が出来上がるがな」


「なるほど。王国では自制を覚える10歳程度まで通常は覚えさせません。仰る通り、幼いうちに魔法を覚えさせるとお腹を空かせる子が増えて一般家庭だと食費が掛かりすぎるから、あまり好まれていないようです」


「そうであろうな。我が生きていた時代も食費で頭を悩ませる者は多かった」


 大人たちがそんな話をする一方で、子供たちは魔法が使えてとても嬉しそう。ミニャを中心にして、キャッキャしている。


「ふぉおお。これがスラムの時でも使えていたら……」


 スノーも水を生み出して感慨深げ。

 スノーは朝早くに井戸に水を汲みに行っていたので、これができると大分違う。


「んー、おみじゅ! わふーっ!」


「あーっ、ルミーったら、びちゃびちゃ!」


「お姉ちゃんも!」


 小さなルミーやパインだってできちゃう。

 両手を突き出しておみじゅを出して、足元をびっちゃびちゃにしている。


 それぞれが3、4回水を出したところで、ニャロクーンは魔法を止めさせた。

 子供たちはぬかるんだその場から少し場所を移動して、ニャロクーンの話を聞いた。


「魔法を使うと、腹の辺りから何かが抜け落ちたのを感じられたのではないかな?」


 子供たちはお腹を押さえて頷いた。


「それが魔法を使うということだ。魔法を使えば腹が減る。いまのお主たちだと、10回ではっきりと腹が減ったと思い、20回も使えば目を回す者も現れよう」


 そんな話を聞いたことがある年長者の顔と初めて知った年少者の顔。


「お主たちは水だけでなく、いくつかの属性を得たわけだが、魔法の修練は空腹との戦いになる。ゆえに、持っている属性を全て鍛えるというのはなかなか難しい。我はお主たちが持つ属性の使い方を一通り教えるが、どの属性を伸ばすのか決めるのはお主ら自身だ」


「どうやって決めればいいの?」


 スノーが手を上げた。


「急ぐではない。まず、お主たちは自分が使える生活魔法を全てしっかりと使えるようにならなければならない。そうして、使っていて楽しい、便利、必要と、理由はなんでもいいが、鍛える属性を選択するのだ」


 子供たちはふむふむと頷いた。


「だが、お主らが使えるようになった属性の中にも才能の良し悪しがある。この属性を鍛えたいと思っても、生活魔法からほとんど成長しない才能もあるというのは覚えておくように」


 それを聞いた子供たちは少し不安そう。

 好きになった属性に才能がなかったらどうしようと。


「それとだ。水と同じ要領で自分が得た生活魔法を使えるはずだが、それは大人や賢者殿、あとは我が見ているところで使うように。特に火属性を得た子は、下手に使うと家を燃やし、家人にケガをさせることもある。これは忘れてはならんぞ」


「はーい!」


 火属性を得たミニャは元気にお返事した。

 他にも火属性を得た子はおり、その危険性をちゃんと理解している顔。暖を取るのも炊事をするのも薪に火をつける文化なので、火の怖さは子供の内から知っているのだろう。


【665、名無し:ちゃんとお返事できて偉い(*^▽^*)】


【666、名無し:俺の姪っ子なんて、この前、左義長に連れていって初めて火の実物を見たって言ってた。ちな6歳】


【667、名無し:それマジ? 四大属性だぞ】


【668、名無し:四大属性www そうだけども】


【669、名無し:今ってIHコンロが多いし、割とあるんじゃない? 俺だって日常で滅多に見ないし。ミニャンジャ村は別だけど】


【670、名無し:ミニャちゃんたちが知っていることを知らない日本の子供は多いんだろうな】


【671、名無し:考えてみれば、私も本物の火を見たのって、誕生日ケーキに刺さったロウソクの火だったかも】


【672、名無し:すまん、左義長ってなに?】


【673、名無し:正月飾りなんかを燃やす行事だよ。呼び名に地域性はあるが、どんど焼きや道祖神祭が一般的なんじゃないかな。北陸の方だと左義長という】


【674、名無し:あー、あれね。昔、クラスメイトが参加しているのを遠くから見たわ】


【675、名無し:悲しいエピソードの宝庫かよ】


 その後、子供たちは魔法を使って少しお腹が減ってしまったので、また賢者たちに串焼きを焼いてもらった。好きなタイミングでまた焼いてもらえるのもバーベキューの醍醐味。

 魔法が使えて嬉しくて、美味しい串焼きをウマウマする楽しい一日になるのだった。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
〉ミニャちゃん陛下が生み出した初物泥水で汚れるのは、むしろご褒美なのである。 お、おう…。これ、ちょっと業が深くない…?w キッズヂカラと言うより、なんか変態ちっくなんだけども…ww 賢者のあいき…
どんな話題からでもトラウマ出てくる賢者たちよ
腹ペコキッズが激腹ペコキッズに さっさとダンジョンを開発しないと玉米を買う金がなくなりそう
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