5-25 ブランコと最新ヘルメット
本日もよろしくお願いします。
賢者たちは村の開発や人形作りばかりをしているわけではない。
ミニャや子供たちを楽しませるのも重要なお仕事だ。
さて、村の敷地にはあえて残されている広葉樹が複数ある。
夏の日差しを遮る涼みスポットとして使われたり、賢者たちの見張り台になっていたりする。
本日は、ミニャたちがお勉強をしている間にその木で賢者たちが何やら作っていた。
2本のロープに1枚の板。そう、ブランコである。子供は多いので、太い枝を2本選んでそれぞれに1つずつ作った。
難しい物ではないのであっという間に完成し、賢者たちはさっそく乗ってみた。
『リッド:体が小さすぎて全然動かない! うぉおお、動いてよー!』
反動をつけるのが難しい模様。
というか、子供とはいえ人が乗るための設計なので、リッドはロープすら掴めず、板の上でジタバタするだけ。
『工作王:仕方ねえヤツだな。ほら、退け。一人ブランコの異名を持つ俺に任せな』
『サカタ:普通一人で乗るものなのにすっごい悲しい響きだな』
『サガ:工作王が夕暮れ時にしょんぼりしながら乗ってる情景が浮かんだ』
同情されながら工作王がトライ。
リッドがやっているのを見て、板の上でジタバタしているだけではダメだとわかっているので、片方のロープを持って何とか反動をつけてみる。
が、ダメ……っ!
『リッド:なにが一人ブランコさ。工作王にはがっかりだよ』
『工作王:いや、俺の知ってるブランコじゃねえわ、これ』
生産賢者たちは意地でもブランコを成功させるべく、あれこれ始めた。子供たちはお勉強しているのに、良い大人が。
すると、お仕事中の賢者たちがぞろぞろと集まってきた。賢者は基本的に大体の任務がホワイトなのである。
『覇王鈴木:おっ、もうできたのか?』
『サバイバー:良い感じじゃないか。絶対に喜ぶよ、これ』
『ブレイド:俺たちからするとハイジのブランコだな』
賢者たちは巨大なブランコを見上げてワクテカした。
『工作王:だけど安全性を確かめるために俺たちで試そうと思ったんだけど、体が小さいから反動がつかないんだ』
『覇王鈴木:この軽い体で安全確認もなにもないと思うが』
『工作王:それ言っちゃおしめぇだよ』
つまり、やりたいだけである。
『サバイバー:手伝ってあげようか?』
『工作王:嫌な予感しかしないヤツから提案が出ちゃった。よっしゃ、覇王鈴木! いっちょやってくれ!』
『覇王鈴木:それ殺人パスだぞ。だけど俺の中の男子がやりたいと叫んでいる。これが童心か……』
『リッド:ひゅー、さっすがーっ!』
『覇王鈴木:でも、俺たちなら5人くらい乗れるし、みんなで乗ろうぜ』
『工作王:はははっ、なに言ってんだよ。デスペナ喰らうのは一人の方が良いだろ』
『覇王鈴木:バカなの!?』
『ブレイド:もしもの時は俺がフライかけてやるよ』
『覇王鈴木:それならお前がやればいいと思うんだけどなぁ。じゃあブリザーラ、一緒に乗ろうぜ!』
『ブリザーラ:オイラっすか!?』
『覇王鈴木:初日に鳥に攫われた実績があるし、ブランコなんて今さらだろ』
『ブリザーラ:それ黒歴史なんすけど。んー、じゃあ仕方ないっすね!』
というわけで、覇王鈴木とブリザーラがブランコの座席によじ登った。
『覇王鈴木:なあ、砂場とかないの?』
『工作王:お前天才かよ。何か足りないと思ったらそれだ。あとで作るわ』
『覇王鈴木:いま作れや!』
『ブリザーラ:気づいたんすけど、安全性を確かめるだけなら、オイラたちを板に縛ればいいんじゃないっすか?』
そんなことを話していると、2人が乗る座席に水の鞭が巻き付いた。
2人はハッとして板にしがみつき、その場にいる賢者も生配信を見ている賢者もワクテカ。
『サバイバー:いくよー』
サバイバーが鞭を引く。
ギュンッと板が加速し、50cmほどブランコが振れた。
『覇王鈴木:うぉわああああ!』
『ブリザーラ:ひぇえええええ!』
サバイバーが水の鞭を伸ばすと板は逆方向へ振れ、こっちに戻ってくる際に再び鞭が引かれる。1m、1.5m、2mと降り幅が大きくなり、賢者たちは指を差して笑って大喜び。男の子ってホント馬鹿ね。
十分な勢いがついた瞬間、覇王鈴木とブリザーラの手が揃って板から剥がれて前方にすっ飛んだ。
『ブリザーラ:ぎゃあーっ!』
『覇王鈴木:ぶ、ブレイドさーん!』
『ブレイド:ふ、フラーイ!』
飛行の魔法をかけられた覇王鈴木とブリザーラはスイーッと旋回して戻ってきた。
『覇王鈴木:超楽しかったわ!』
『ブリザーラ:最高だったっす!』
楽しかったらしい。
そうなると自分もやってみたい生産賢者たち。
しかし、サバイバーたちはこれからお仕事に行くので、ターザンを作って楽しんだ。
お昼ご飯を食べて、ミニャたちはさっそくブランコを発見。
「ブランコだーっ!」
ミニャは目をキラキラさせて言った。
ミニャはブランコを知っているようだ。地球でも世界各地に紀元前からある遊具や儀式具なので、特段不思議ではない。
しかし、他の子供たちは知らない様子。町には公園もなかったし、むしろ土地に余裕がある村育ちの方が知っている知識だったようだ。
「ミニャお姉ちゃん、ブランコってなぁに?」
「うんとねー、賢者様、乗っていーい?」
『工作王:もちろん。仲良く遊ぶんだよ』
「わかった!」
賢者から許可を貰い、ミニャは質問をしてきたパインをブランコに座らせた。ミニャがやるものだと思っていた賢者たちは驚いた。
「地面に足を挟まないようにね。しっかりロープを持ってるんだよ」
「う、うん!」
ミニャから注意されて、パインはこれから何が始まるのか理解したようで、尻尾を微妙にパタパタ。しかし、そのパタパタが全力に変わるのに時間はかからなかった。
ミニャがパインの背中を押してあげた。
「わふぅー! んー……わふぅー! ん……きゃふー!」
後方へ引いて「んーっ」と溜め、前方へ行ってキャッキャ。前に行くのが好きらしい。
「る、ルミーも! ルミーもやりたい!」
ルミーがピョンピョンした。
「賢者様。あっちも使っていい?」
スノーが問うので、賢者は頷いてみせた。
スノーはルミーを乗せて、背中を押してあげる。
「ミニャお姉ちゃん、ありがと!」
「楽しかった?」
「うん!」
1分くらい楽しんだパインはニコパ。ミニャも優しくニコパ。
ミニャは次にマールを乗せてあげた。マールもキッズ枠なのでキャッキャ。
スノーたちの方では、ビャノやラッカも乗って楽しんでいる。
ミニャの中で、スノーやクレイくらいの歳になるとお姉さんお兄さん枠なのか、マールの次は自分が乗った。
「一人で乗る時はねー、こうやるんだよ」
ミニャは足で反動をつけて、スイスイと漕いでみせた。さすが運動神経抜群。
そして十分に勢いがつくとブランコから飛び降り、4mくらい飛んでシュタッと砂場に着地すると、ビシッと両腕を上げて決めポーズ。完全にお転婆ガールのプレイスタイルだ。
「ミニャちゃんすごーい!」
「ふぉおおお、かっけーっ!」
マールとビャノが感心する。特にビャノはヤンチャ属性があるので、真似しそう。
『ネコ太:ぴ、ピピーッ! 危ないからジャンプして降りるのは禁止です!』
平成生まれな賢者に注意された。
女神の月の前日。
飾りつけをすることはないようなので、ミニャたちは明日にワクワクしつつも普通に過ごした。
午前の授業が終わり、教室からみんなが出て行く前に賢者がミニャに言った。
『ネムネム:ミニャちゃんたちにプレゼントがあります! だからまだお外に出ないでね』
「にゃんですと! みんなー、まだお外に出ないでー! 賢者様が何かくれるんだってー!」
お昼ご飯までブランコをやりに行こうとしていたキッズたちは、すちゃりと居住まいを正した。
それを確認して、教室であるミニャの家に賢者たちがぞろぞろと入ってきた。
賢者たちが協力して運んでいるのは、ネコミミヘルメットとリュックサック、木と石で作られた水筒であった。
子供たちにはヘルメットやリュックをすでに渡しているが、これらはここ最近たくさん手に入った素材で作られた最新バージョンである。
「新しいヘルメットだ!」
ミニャは最初に貰ったヘルメットから何回かバージョンアップしているので、すぐに理解した。
「わぁ、青いワンワン!」
「ルミーも青いワンワン! お姉ちゃっとお揃い!」
しかも今回は塗料がたくさん手に入ったので、ヘルメットは色付きである。
しかし、見た目が良くなっただけではない。内張りの緩衝材を包む布も吸水性が高い布を選び、被り心地とフィット感が向上。
「ミニャの三毛猫さん!」
「マールのは緑の猫さん! 可愛い!」
ミニャのヘルメットはデフォルメされた三毛猫の顔が描かれた可愛らしい物。マールは緑色の猫である。2人はさっそく被って顔を見合わせると、んふーと満足気。
さらにリュックもバージョンアップ。
今までは家庭科で学生が作るようなリュックだったが、今回は内部に骨枠などが入って型崩れしないようになっており、背負い紐や背中の部分には緩衝材が入っている。日本の物に近い性能のリュックサックになっている。
ただし、ジッパーは再現できていないので、フタをボタンで留めるタイプになっている。
「こっちにも猫ちゃん!」
フタにも猫ちゃんの顔があり、ミニャはニコニコだ。
一方、年長組やクレイも同じようなタイプのヘルメットとリュックサック。
あまりネコミミヘルメットが恥ずかしいという感情がないようで、喜んでいた。
「賢者様、ありがとう!」
ミニャのお礼に続いて、子供たちからも口々にお礼をする。
工作班の賢者たちはニコニコだ。ペイントフィギュアに宿っているので今までのように内心ではなく、表情にちゃんと出ていた。
『ネムネム:明日はダンジョンに入るから、そのリュックに水筒と簡単なお弁当、女神様へのお供え物、汗を拭く手拭いの4つを入れていくんだよ』
「おーっ! にゃるほどねぇ!」
ミニャは賢者の言葉を子供たちに伝えた。
そう、これらはダンジョンに入るための新装備なのだ。
子供たちは新しい装備を持ち帰り、その夜はワクワクしながら眠りにつくのだった。
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