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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第5章

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5-20 幽霊調査3

本日もよろしくお願いします。


 ロリエールと闇の福音が切り裂いた髪の毛は、地面の上でのたうち回ると、やがて塵のように消えていった。


「攻撃の圧が弱いな。これならダンジョンの魔物の方がよっぽど強い」


「私たちが修行して強くなったのもあるでしょうが、相手も自分を傷つける魔法使いなんて初めてでしょうからな。どうしていいかわからないのでは?」


「そうかもな」


 油断なく周りを警戒しながら言った2人の言葉に、女性は思い出したように息を吐きだした。


「魔力は?」


 髑髏丸が問う。


「まだまだ余裕だ」


「私も同じですぞ」


 2人の返答を聞き、髑髏丸は考える。

 その視線を幽霊たちに向けた。向けられているのは丑の刻参りルックの幽霊ではなく、若い男性の幽霊たち。


「とりあえず、車まで戻ろう。2時間もすれば援軍が到着する。除霊はそれからで遅くない」


 髑髏丸はそう決断し、2人もまたそれを了承した。

 先ほどのニーテストとのやりとりで、援軍が派遣されることを告げられていた。目的のひとつである『女性に自分の置かれている状況を理解させる』は達成されたので、この場で援軍を待つ必要もない。


「立てるか?」


 問われた女性はすぐに立ち上がろうとするが、腰が砕けて立ち上がれない。それでもこんなところに一人で残されたくないのだろう、もがくように腰を上げようとする。


「仕方ない。ロリエール、頼む。ヤミノは殿を任せた」


 ロリエールは女性の横で腰を屈めた。


「嫌かもしれませんが、抱えますぞ」


「え、ひゃ!?」


 ロリエールは女性の膝裏と背中を支えて、軽々と持ち上げてしまった。


【200、ハナ:キャーッ( *´艸`)】


【201、ホクト:こんなん惚れてまうやん!】


【202、ルナリー:お姫様だっこですよ!】


【203、名無し:せやろか? オークに拉致られた女呪術師に見えるぞ】


【204、ネムネム:あたしだってお姫様抱っこくらいできるし(; ・`д・´)昨日もお布団運んで疲れなかったし!】


【205、名無し:お前は女子女子する側だろうがwww】


【206、名無し:ネコミミプイキュア仮面のくせに!】


 スレッドではキャッキャ。

 しかし、こちらではシリアス。


「あ、あ、あの。わ、私、濡れていて、き、汚くて……だ、だけど置いていかないで……っ」


「置いてなんか行きませんから安心してくだされ。それに、湿った腐葉土に座っていたのですから濡れているのは当たり前です。ああいう暗い森は水はけが悪いですからな。だから、気にしなくて結構ですぞ」


「……っ。ご、ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい……っ」


 わかっているであろうにそう言ったロリエールの優しさに触れて、女性は目元隠して泣き始めてしまった。あるいは情けなさからか。


【209、ホクト:こんなん惚れてまうやん!?】


【210、名無し:こんなん惚れてまうやんbotがいるぞ】


【211、名無し:か、勘違いしないでよね! ロリエールさんはゴブリンの死体にだって優しいんだから!】


【212、名無し:でも、俺、こんなにさらっと優しい嘘つけないと思う】


【213、ジャパンツ:わかる。元気づけるつもりで、『ご褒美だから大丈夫だよ。うーん、マンダム』とか言っちゃいそう】


【214、名無し:キモさの英才教育でも受けて育ったんか?】


【215、名無し:コイツ、女に慣れてるような感じなんだよな】


【216、名無し:逆に蜘蛛の巣に掛かったチョウチョくらいに見ている可能性もあるぞ。そう信じたい……っ!】


【217、名無し:ネコミミプイキュア仮面のくせに!】


【218、名無し:ネコミミプイキュア仮面のくせにbotもいるんだよなぁ】


【219、ハナ:えっ! 入り口が無くなってますよ!?】


 生配信を見ている賢者がそれに気づいたくらいなので、当事者たちもまた階段に続く道が無くなっていることに気づいていた。


「マジか。案外強力な悪霊なのか?」


「強力なのはその通りだろうが、チャンネルが合ってしまったのが原因かもな」


「どういうこと?」


 髑髏丸の推測に、闇の福音は首を傾げた。


「お前の家にいた被害者の幽霊も死者の声をかけて俺たちを認識することで、初めて俺たちとチャンネルが重なった。言葉を聞かせられるということは、つまり現世への干渉力が増したとも言える。霊視で幽霊自体を見られる俺たち限定で言えば、干渉されている度合いはさらに強い。それが悪霊だった場合、フルの干渉度を得ると、十全に力を発揮できるのではないかと考察した」


「つまり、俺たちが蒔いた種じゃね?」


「俺たちだけで言えばその通りだが、チャンネルは自然に合うこともあると思う」


 髑髏丸の考察を聞き、闇の福音は女性を見た。


「彼女もそうだが、この森の幽霊には丑の刻参りなんてしそうにない若者が何人も混じっている。おそらく肝試しに来た大学生とかそのあたりだろう。あくまでも俺の推測にすぎないが、彼らは自然と悪霊の声を聞き、姿を見てしまったことで、悪霊からの干渉を許してしまった者たちの末路なのではないかな」


「なるほど……呪われたってことか。でも、俺はマイホームの悪霊の声を聞いても大丈夫だったけどな」


「お前は呪い耐性でも持ってるんだろ。普通はあんな家には住めん」


「マイホームをバカにしないでくれます?」


 髑髏丸の考察を聞いていた闇の福音は、闇の剣を構えた。

 その視線の先には、青い炎を纏った骨だけの犬が3匹いた。


 同じものを見ている女性がロリエールの胸元の服を掴んで震えるので、ロリエールは「大丈夫ですぞ」と安心させた。

 そんなやりとりが背後でされているとは知らずに、闇の福音と髑髏丸はスケルトン犬に相対する。


「地球にアンデッドだと?」


「こんなヤツらが出たら大騒ぎだし、ここは異界なんだろうよ。ちょっとここは俺に任せてくれ。無理そうなら交代で」


 闇の福音を手で制して、髑髏丸が前に出る。


 髑髏丸は執事服のジャケットの内側に右手を入れ、銀色の拳銃を取り出した。

 彼岸花を抱えつつ銃を構える髑髏丸の姿に、闇の福音を筆頭に賢者全員がギョッとした。

 髑髏丸はそれに構わず、引き金を引く。


 ピューッ!


 水鉄砲だった。


 しかし、その効果は劇的だった。

 薙ぎ払うように撒かれた水が地面に付着して2秒ほど経つと、スケルトン犬たちの青い炎が怯んだように大きく揺らぎ、慌てた様子で森の奥へと逃げていったのだ。


「おいおい、なんだそれは? ゴートゥーヘルか?」


「七日間戦争って……古いネタを。こいつは女神の森の水とルミーナ草で作った芳香蒸留水。退魔の魔法薬だ」


「そうか、ルミーナ草か。考えたな」


 髑髏丸はニヤリと笑い、くるくると銃を回した。銃口についた水が撥ねて顔に付着し、髑髏丸はもうこれはやらないと決めた。


 ルミーナ草は花弁から魔物が嫌う香りを発する。

 ルミーナ草の加工は難しいのだが、芳香蒸留水にするアイデアは木属性の中条さんがかなり初期の段階で発見しており、ミニャンジャ村では今でも香りをしみ込ませた布が各家の天井に吊るされていた。


「今日のために採取しに行ったんだ」


「変換ポイントは?」


「自由時間と材料全部込みで1239ポイント」


「たっか!」


「まあ、俺もいつまでも野次馬じゃ申し訳ないからな。検証は大成功ってところだ」


 髑髏丸はロリエールと抱えられた女性に向き直り、背負っていた片ひもの肩掛けのカバンを降ろした。


「お前さんのことはいまからヴィヴィと呼ぶ。そのつもりでいてくれ」


「ビ、ビビ?」


「Vの方のヴィヴィだ。本名を言ってはいけない理由がここにはあるんだ。俺たち3人も本名は使っていない。だからお前さんも気をつけろ。いいな?」


 状況が状況なだけあって、きっと悪霊に名前を知られてはいけないのだとヴィヴィは考え、必死に頷いた。しかし、もちろん本当の理由は生配信に本名が流れるのを防ぐためである。


「お前たち、今のうちに補給しておけ」


 闇の福音とロリエールに、コンビニの袋が渡された。


「おっ、ありがてぇ」


「すみませんな。ありがたく」


 中にはパンやドリンクが入っていた。魔力の回復には食べ物を食べなくてはならないのだ。だから、2人も自前のカロリー食品を懐に忍ばせていたりする。


「ヴィヴィ殿も飲みますかな?」


 ロリエールが水と紅茶を差し出すと、ヴィヴィは水を受け取った。

 お礼を言うヴィヴィだが、目が充血し、瞼が涙で腫れあがり、ロリエールに見上げる形の眼差しは痛みが伴うものだった。


「目が痛みますかな?」


「す、少し……でも、大丈夫です」


「それなら」


「ロリエール、待て」


 ロリエールがこの後に何をするのか気づいた髑髏丸は、腰についた作業用ポーチからコンパクトミラーを取り出し、ヴィヴィに渡した。


「鏡だ。自分の顔を見ろ」


 言われるまま、ヴィヴィは自分の顔を見た。

 涙で目の周りが腫れ、肌も唇もボロボロだ。もう誰に見せるわけではないけれど、好きな人のために綺麗になりたいと頑張っていた頃の自分を想って、悲しくなった。


「簡易的なものですが、治しますぞ」


 そう言ったロリエールを見上げて、ヴィヴィはキョトンとした。

 髑髏丸はこれを見越して鏡を渡したのだ。自分たちの行動全てを余すことなく信頼に変えるために。回復魔法も治っている様が見えなければ実感は湧きにくい。


「鏡を見ていなされ」


 ロリエールはヴィヴィの頭に手をかざす。

 すると、優しい光が顔を包み込み、目元の腫れや唇の裂傷が消えていった。それと同時に、ジンジンと痛く開きにくかった瞼が自然に開けるようになり、視界がクリアになった。


「ま、魔法……わ、私は幻覚を見ているんですか?」


「ふっ。人を呪うためにこんなところまで来たのに、本物を見たら自分の目と頭を疑うのか?」


 疑うヴィヴィに、髑髏丸はおかしなものを見るように笑った。皮肉屋さんである。


「そ、それは……だけど、こんな奇跡みたいな話……この暗い神社で見ている最後の夢なのかもって……だって、私、もう何もなくなっちゃったから……」


 女性は俯きながら涙を拭う。

 そんな女性の傍らに膝をついてロリエールが言う。


「ヴィヴィ殿。私たちの仲間になりますか?」


「な、かま……?」


「はい。一人ではもう楽しい人生を歩めないと思うのなら、最高の主と愉快な仲間と共に歩めばよろしい。私たちの仲間になれば、過去のことを笑い飛ばせてしまえるほど輝かしい日々が送れると、私が保証しますぞ」


 保証すると宣言したロリエールはその言葉に嘘がないと言うように、プイキュア仮面を外した。

 仮面の下から現れたのは、薔薇を背負ったイケメンなどではない。ただのどこまでも優しい目をしたネコミミデブ。


「ひ、ひぐ……ひぅぐ……うぁああああんあんあんあん!」


 だが、心を傷つけたヴィヴィには太っちょだとかネコミミだとかは関係なかった。優しい言葉をかけられて、ロリエールの左袖をギュッと掴んで子供のように泣きだした。


 ロリエールはそんな女性の手に自分の手を重ねて、光の回復魔法をかけてあげた。荒れ果て、ひび割れだらけだった手の傷が温かな光の中で癒えていく。


【280、ホクト:こんなん惚れてまうやん!】


【281、名無し:圧倒的、聖者! 圧倒的、父味!】


【282、平和バト:やっぱりロリエールさんは凄い人ですぅ!】


【283、名無し:み、みんな騙されないで! ロリエールはこういう時のために台本を用意しています! ルール違反です! 頼む、そうだって言ってくれよ……っ! お前はこっち側だろうがよぉ!】


【284、闇の福音:どうしよう、ロリエールの背中が凄くカッコイイ件。ドキドキする】


【285、名無し:闇の福音が堕ちてて草】


【286、名無し:闇の福音は何してんだよ! 中二病で恋させろや!】


【287、闇の福音:無茶言うなw バイトでおばちゃんと話す時だって俺はおどおどしてたんだぞ】


【288、名無し:それは俺にも効くからやめろ】


【289、名無し:いや、おばちゃんは割と無遠慮にグイグイくるから、逆に話しづらいところはある】


【290、髑髏丸:やることがいっぱいあるし、泣かさないでほしいんだけどなぁ】


【291、名無し:お前は空気を読めwww】


【292、名無し:一番他人がどうでもいいって思っている人は髑髏丸だった件www】




「泣いてスッキリさせてやりたいところだが、そろそろ次の話に移るぞ」


 再びやってきたスケルトン犬を追い払った髑髏丸がドライに言うと、ヴィヴィはハッと顔を上げて涙を拭った。

 話を聞かなければならないと思う心に反して、ハラハラととめどなく涙が流れ、何度も目元を拭う。だけど先ほどまでと違うのは、もう涙を拭うことで瞼にも心にも痛みが生じないこと。


「ヴィヴィ、仲間になるのならスマホの検索画面でこの文字を入力しろ」


 髑髏丸は招待コードが浮かび上がっているチケットをヴィヴィに渡した。

 ヴィヴィは鼻をすすりながら言う。


「これは……?」


「今から説明することを疑うな、信じろ」


 ヴィヴィは頷いた。


「俺たちはパトラシアという異世界に行く術と、異世界へ招待する術を持っている。俺たちの魔法も異世界に由来している。そして、招待する術がそのチケットだ」


「異世、界……ま、マンガみたいなヤツですか?」


「ちょっとサバイバル味が強いが、その認識で大丈夫だ。とにかく、あっちへ渡れば悪霊は干渉する術を失い、お前さんは安全になる。普通なら多くのことを説明してから送り出すところだが、状況が状況だ、詳しい話はあっちにいる俺たちの仲間から聞いてもらいたい」


「わ、わかりました」


 ヴィヴィは言われた通りにスマホで登録を済ませた。

 属性は光。各属性で何ができるか調べるほどの時間がなかったヴィヴィは、ロリエールを見て決めた。

 新人賢者ヴィヴィの誕生であった。


 賢者登録が済むと、ヴィヴィの視界に新しい情報が浮かび上がった。

 ロリエールたちが使っているウインドウである。


「そ、それは?」


「これはウインドウという力ですぞ。ヴィヴィ殿もいずれは手に入ります」


「それも向こうで聞いてくれ。いよいよ森の雰囲気が変わったからな」


 森の暗闇が深くなり、ザザザザッと茂みが揺れる音がそこら中からする。時を同じくして、ヴィヴィのスマホにピコンと賢者の個別召喚要請が入った。


「イエスを押せば異世界に行ける。押せ」


 髑髏丸がそう指示を出すが、ヴィヴィは躊躇った。


「ろ、ろ、ロリエールさんたちは?」


「ヴィヴィ殿が異世界に行ったら、除霊を開始します。悪霊に囚われた憐れな霊たちを放ってはおけませんからな」


 ヴィヴィはロリエールたちや森の幽霊たち、神社の裏の暗がりへと順番に視線を巡らせた。幽霊や暗がりはとても恐ろしい光景だったが、ヴィヴィはスマホを持つ手をギュッと握りしめた。


「あ、あの、足手まといなのは十分にわかっています。でも、でも、私も連れていって貰えませんか?」


 3人は顔を見合わせ、髑髏丸が代表して問う。


「それはいったい何故?」


 その問いに、ヴィヴィは自分の足で頑張って立ち上がり、言った。


「な、仲間になろうって、言ってくれたから……きょ、今日のことを最後まで知っておきたい。ロリエールさんたちの本当の仲間にしてもらうために」


 そんなことのためにこちらにリスクを背負わせるのか、と言えばそれまでだが、3人にはヴィヴィの心情が理解できた。


「ロリエール、ヤミノ。メインで戦闘するお前らが決めろ」


「俺はいいぜ。ミニャちゃんの勇気を見て武者震いした俺たちと同じ目をしているしな」


「ふふっ、たしかにそうですな」


 ヴィヴィの瞳は、試練を乗り越えて変わりたいと心の底から願う人間のきらめきを宿していた。3人にはそれが、モグやグルコサのために勇気を振り絞ったミニャを見て、魂を震わせた自分たちと同じ目の輝きに思えたのだ。


「では、決まりだ」


 髑髏丸が、彼岸花の、そして自分の顔を隠していたオペラマスクを外した。

 それを見た闇の福音は、最高に渋い演出じゃんと笑いながら、道化の仮面を外す。


「除霊を始めるぞ」


 素顔を晒した髑髏丸の言葉に、3人は力強く頷いた。


読んでくださりありがとうございます。


3話で終わらせる予定でしたが、長くなっちゃった!


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― 新着の感想 ―
くっ…!? ロリエールのくせに…!! 色んな挫折を味わい、痛みを背負った賢者達だからこそ、人に痛みに寄り添い、ミニャさんを支えられるのだろうなぁ…。
悲報 覇王鈴木の妹は惚れっぽかった
ロリエール株爆上がり中!
感想一覧
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