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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第5章

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5-15 陶芸教室

本日もよろしくお願いします。


 5月5日。

 ニーテストが引っ越しでお休みのその日、ミニャンジャ村は生憎の雨。

 というわけで、本日の午前はいつものように学校で、午後からは体験学習になった。


 前日の4日には、賢者たちが凄い発明をしている。

 ペイントフィギュアだ。


 昨晩にミニャには見せたが他の子供たちには見せていないので、本日が初披露となる。


「あーっ、賢者様に色が付いてる!」


 賢者の変化に気づいたマール。

 他の子供たちもほっぺをくっつけるようにして、賢者様をまじまじと見つめる。


 注目を集めた賢者は予定通り、近衛隊の女子。

 腕をパタパタ振るって、笑ってみせる。


「笑ったぁ!」


「可愛い!」


 子供たちにも好評な様子。

 これなら謎の存在ではなく、いい友達やいい先生にもなれるかもしれない。


 午前中のお勉強で、子供たち全員が数字をマスターした。

 マスターというか、自分が数えられる数とそれに対応した文字をちゃんと覚えられた。あとは忘れないように、たくさん数字を使わせればいい。


 この世界、というかサーフィアス王国にはすでにゼロの概念はあり、使っているのも10進法。なので、賢者たちとしても授業計画をたてやすかった。


 ご飯を食べて午後。


 ミニャンジャ村には予備の家がいくつかあるが、その1つにみんなで集合した。

 家の居間には、ローテーブルの上に5台の謎の装置が置いてあった。


「にゃんだこれ!」


「にゃんだこえーっ!」


「にゃんこえーっ!」


 子供たちはにゃんだこれ三段活用を使って謎の品物に興味津々。


「わぁ、これ、ろくろですよ!」


 シルバラが見切った。


「ろくろ!」


「ろくろってなにぃ?」


 ミニャはむむむっとし、パインは大きな声で質問する。


「えっと、前にみんなで人形を作って焼きましたよね? あれと似ていて、このろくろではお皿やお茶碗が作れるんです。最後には焼かないとダメですけどね」


「にゃんですと!」


 シルバラが見破ったように、それはろくろであった。


『ふともも男爵:それじゃあミニャちゃん。説明します!』


「お願いします!」


 まあ、難しい話ではない。

 回転する機構を持った円盤に粘土を載せ、円盤を賢者たちがぶん回し、ミニャたちが粘土をしゅるしゅるする。


 このろくろは難しい機構は一切搭載しておらず、週刊誌程度の大きさの台の上に回転する円盤が乗せられているだけで、その円盤を賢者が横からぶん回すだけの仕組みになっている。つまりは賢者式ろくろである。もちろん、子供たちが自分で回しながら使用することもできる。


 試しに賢者がろくろを回した。


「くるくるしとる!」


「「「わぁ!」」」


 ミニャはむむぅと状態を実況し、子供たちは感心する。


 賢者の一人がふと気づいた。

 ミニャが円盤の中の何かを目で追っていることに。


「みゃー」


 ミニャはすぐに目をくるくるさせ、くてっとした。

 それと同時に、「も、もぐ……」とモグが、「きゅー」とイヌミミ姉妹もコロンとひっくり返る。


『胡桃沢:み、ミニャちゃーん!』


 本日の保健医賢者さんが3人と1匹にすぐに回復魔法をかけてあげようとして、やっぱりやめる。目を回すのもまた経験なのだから。


 しばらくして、起き上がったミニャたちに保健医賢者さんは言う。


『胡桃沢:くるくる回っているのを目で追っちゃダメですよ』


「んっ、ミニャ、わかった! 2人とモグちゃんもこれ見てちゃダメだからね?」


「「くーん」」「もぐぅ……」


 ミニャが指差した物は、ちょっとした黒い点だった。獣人っ子やモグは動体視力が良すぎるのか、それを見つめて目を回したようだ。

 モグは目を回す陶芸には興味を示さず、コロンとヘソ天で転がって寝始めた。所詮は獣である。


 そんなアクシデントがありつつ、シルバラが知ってそうなので実際にやらせてみた。


「あ、あわ……あ、あたし、やったことは……」


 やったことはないらしい。

 ただ知識はあるようで、賢者がサポートしてあげるとすぐに原理を理解した。


 賢者特製の粘土がろくろの上でしゅるるーと形を変えていく。


「わぁ!」


 シルバラはとても嬉しそう。


 地球の過去の時代で、職人の道具をその工房と無関係な子供が触れたか考えると、おそらくは無理だっただろう。シルバラもそれと同じで、やっているところを見たことはあるが、決して触らせてもらえる物ではなかったのではないかと予想がついた。


「しゅごー。お椀になった」


 シルバラも初めて触るのでお椀と言うには歪すぎるが、ミニャたちはワクワクした顔だ。


 シルバラのやり方を見て覚えた子供たちも、さっそく体験してみる。

 とはいえ、5台しかないので2人1組で触らせることにした。


 イヌミミ姉妹は子供過ぎるので、シルバラとレネイアが一緒にやる。

 スノーはビャノと、マールはクレイと、そして、ミニャにはいろいろな子とペアを組んでもらいたいので、本日はラッカ。クレイも同じ方針でマールとペアだ。


「ふむふむ。あのね、粘土は失敗してもまた捏ねれば使えるから、しばらくは自由にやって、どんな感じなのか試してみてだって」


「「「はーい」」」


 というわけで、それぞれの組に賢者が2人ずつ付き、実習。


「じゃあラッカ君からやっていいよ」


「いいの?」


「うん!」


 ミニャちゃん村長はお姉さんだから年下に譲ってあげた。偉い。

 ラッカは桶の水で手を濡らし、ちょっと粘土をぬちゃぬちゃ。スタンバイできたので、賢者はろくろを回した。


「ミニャさん、どうするの!?」


「うんとうんとー! こうやって手で押さえたら良いと思う!」


 シルバラのやっていたことを思い出して、アドバイス。

 ラッカが言われた通りにやると、粘土は手に圧迫されながら回転し、一気に筒状になった。


「「おーっ!」」


『リッド:ミニャちゃんミニャちゃん! ミニャちゃんも手を濡らして、筒の上の方に指を入れてごらん』


「わかった!」


 ミニャは急いで手を濡らし、ラッカが押さえる粘土の上部に指をぶっ刺した。

 すると、粘土に綺麗な穴が空いた。


「「おーっ!」」


 そんなミニャたちのやり方を見ていたそれぞれのペアもそれを真似して2人で始めた。


 賢者たちはひとまず教えるのをやめ、適当に遊ばせた。


「あっ、クレイ様。もっと指を強く入れて」


 マールが言う。

 薄汚れた賢者はドキンとしたが、クレイは10歳なので「こうか?」と素直。賢者とは。

 クレイが上から入れた指で壁を強めに押し、周りを支えるマールが力を緩めると、筒が広がることを2人は発見した。


「お、おーっ、広がった!」


「ねーっ!」


「それどうやるの?」


「うんとねー」


 賢者が教えなくても、遊ばせているとこうやって色々な発見をし始め、周りの組と共有する。


「む?」


 その時、ミニャはラッカの小指の部分だけ筒の形が凹んでいることに気づいた。

 この現象をピコピコと分析した脳内子猫は、テーブルに謎に置かれた木の棒を見て、ハッと気づく。


「賢者様、これも使って良いの?」


 もちろん賢者の答えはOK。


 ミニャはラッカに手を退けてもらい、粘土の側面に木の棒をそっと押し当てた。

 するとどうだろう。そこに綺麗な線が入るではないか!


「にゃー!」「わぁ!」


「ラッカ君もやってみて」


「うん!」


 新発見!

 ミニャたちは新たな技法を開拓した。


 さっそく他の子たちもやってみて、最終的に線ばかりでわけがわからない物が出来上がった。失敗作だが、多くの学びを得た失敗作である。


 粘土を捏ね直してまた新しく始めるペアも。

 勝手にいろいろな発見をする子供たちを見て、やはり言葉でゴチャゴチャ言うより遊ばせるのが一番だと思った。


 さて、そうやって2人ずつでしばらく遊ばせ、どうしても説明しなくてはならないことを教えていく。

 糸や濡れた皮を使う技術や、ろくろに乗った全ての粘土を使って作る必要がないということ。こういったことは、さすがに教えなければ気づきにくいことだろうから。


 そして、最後に驚愕の事実。

 そもそも2人1組ではなく、1人の方がやりやすいということ。

 2人でやったのはろくろが5台しかないことと、2人の方が発見も多いからである。


 というわけで、1人でのやり方を教えることにした。

 賢者の言葉が読めて手先も器用なレネイアに、いくつかのテクニックを教え、それを子供たちに説明してもらう。

 子供たちもふむふむと聞きながら、代わりばんこで粘土を触る。


 そして、いよいよ本番の作業を始めることに。


 賢者たちは室内に4つの見本を運び入れた。

 全てご飯用のお茶碗だ。すでに釉薬をかけて焼き上げたもので、なかなか味のある風合い。


『リッド:ミニャちゃんたちにはこんな感じの物を作ってもらいます。ミニャちゃんたちが玉米を食べるためのお茶碗ですね。そっくりな形でなくてもいいから、だいたいこんな感じで作ってね』


 ミニャがそれを伝えると、子供たちは自分たちが使う物を作るのだと知ってワクワク。


 まずはお手本として、レネイアとシルバラがそれぞれろくろの前に座って作ってみた。


「えっと、こうやって下から上に指を移動させて」


「も、もうちょっと大きい方が良いかな?」


 2人はさすがに器用で、すぐにある程度の形にしてみせた。レネイアは自分のお茶碗と知ると、ちょっと大きめに作ろうとしている。

 子供たちもエア粘土を指でしゅるーと撫でながら、ふむふむ。


 綺麗な形のお茶碗が出来上がった。

 最後の土台部分だけ賢者たちがやってあげ、粘土から切り離される。


「「ふぅ……」」


 レネイアとシルバラは息を吐いて、満足そうに笑った。


 次は他の子供たちの番だ。

 ミニャたちは遊びで学んだ技法とレネイアたちから学んだ技法を駆使しつつ、粘土を弄り始める。


「パインちゃん、そう。ゆーっくり」


「わふぅ……」


 シルバラはパインの手に自分の手を重ね、一緒にやってあげている。やっているのは親だが子供の満足度も高い、よく見る光景のヤツ。その隣ではルミーが尻尾をパタつかせて見学。

 器の側面がだんだん薄くなり、やがて小さなお茶碗が形になってきた。


「にゅしゅぅ……こっちもにゃしゅぅ……」


 ミニャもラッカに見守られながら、粘土を優しい手つきで撫でる。


「みゃ!?」


 ちょっと失敗。


「ミニャさん。そうしたら、慌てずにこうやって形を整えるんです」


「んー、こう!」


「そうですそうです」


 シルバラはパインとルミーの面倒を見て、レネイアはちょっと失敗しちゃった子に、そうやって教えてあげている。


 レネイア先生たちの活躍もあり、子供たちは割と良い感じのお茶碗を作ることができた。


 洗面台でジャブジャブと手を洗い、みんなでまだしっとりとしたお茶碗を鑑賞。


「これでご飯を食べるのかぁ」


 ミニャたちはぽわぽわーんと想像して、とても楽しそうだと思った。




 数日が経ち、ミニャたちが作ったお茶碗が完成した。

 魔法の補助も借りて、どのお茶碗も欠けることなくちゃんと仕上がっている。


 さっそくその晩には炊き立ての玉米がお茶碗に盛られて出てきた。

 今回使用された釉薬は、色が付くようにした。ミニャが選んだのは淡い緑色に仕上がる釉薬。


「ふぉおおお……」


 乳白色の緑がグラデーションになったお茶碗に盛られたホカホカな玉米。それはミニャの目にはいつもより輝いて見えた。


「賢者様、すんごい美味しそうに見える!」


『乙女騎士:それはきっと、ミニャちゃんが一生懸命作ったお茶碗だからですよ』


「そうかも!」


 他の子供たちも同じように感じたのか、特別なご飯に見えている様子。


「きゅ、きゅんきゅーん」


 ルミーなどは嬉ションしそうな勢いで尻尾を振り、隣に座るコーネリアを見上げている。「このお茶碗、ルミーがちゅちゅったの」と言いたげだが、言葉が出ない様子。


「へー、良い茶碗じゃない」


 子供たちのお茶碗を見て、セラたちもビックリだ。

 冒険者なんかをやっていると、自分専用の陶器の器を持つということはあまりないのかもしれない。


 新しい器を手に取り、お箸を武器に、いただきます。

 ミニャは視界にしっかりとお茶碗を入れつつ、お箸で玉米を抓み、お口にジャックイン。


「もむぅ! いつもより甘い!」


 その原因を調べるべく、お茶碗の側面を見てみる。

 乳白色の緑が素敵! 美味いわけだとミニャは激しく納得した。


 こうしてミニャたちは、自分の持ち物を増やし始めるのだった。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
でも割った時に泣く(T_T)
ルミーちゃんが可愛すぎる
(一度使った土はちゃんと空気抜きをしないとすぐ使えませんよー)ってドヤりたい読者が通りますよ~ 楽しいです! 子供達の色々な事を学んでいく姿をこれからも見てみたいです!
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