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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第5章

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5-3 コーネリアの治療と寺子屋

本日もよろしくお願いします。


 クレイたちのおウチが完成した翌日のこと。


「クレイ君、よく眠れた?」


「はい、とても快適に眠れました」


「良かった!」


 貴族なクレイだが、どうやらよく眠れたようである。まあ、家作りをして疲れたというのも手伝っているだろう。冒険者たちはさすがというべきか、快眠の表情。

 おそらく、冒険者は家に不満があれば勝手に改造するだろうが、クレイは賢者たちがよく見てあげる必要があるだろう。


「あの布団は優しい音がして良いですね」


「うんうん! それにあのお布団は虫がつかないんだって、賢者様が言ってた!」


 布カバーの中にはコルンの樹皮繊維が大量に詰まっているので、寝転がるとサリサリと鳴る。これがなかなかお耳に優しい。

 虫よけ効果はクレイにはあまりピンとこないようだったが、話を聞いていた冒険者たちが嬉しそうだ。


 そんなお話をしながら朝ごはんを食べ、本日の朝の会。

 賢者カンペを読んだミニャは、ネコミミをピコンとしてむむむっ!


 今までのミニャは自分で口に出し終えてからむむむっとしていたが、今では最初に黙読した際に内容をある程度理解できるようになっていた。


「今日からミニャとクレイ君と子供たちは、午前中にお勉強をするんだって!」


 村にある程度の目途が立ったので、ミニャたちにお勉強を教えることになったのだ。


「へえ、良いじゃない。どういう勉強をするんですか?」


 子供たちがキョトンとする中、セラが感心したように言った。


「うんとうんと。文字の読み書きと計算を賢者様から習うんだって」


「それはいいですね。読み書き計算ができて損は絶対にないですから」


「おう、お前ら。良い機会なんだから頑張れよ」


 ザインがうんうんと頷き、バールがラッカやビャノを応援する。


 ミニャは続けた。


「冒険者さんは賢者様とお話して、ダンジョンの設置場所なんかの相談に乗ってあげてください」


「ほう! 俺たちも意見して良いんですかい?」


「うん!」


 冒険者たちは乗り気だ。


「それとコーネリアさんだけ、このあとにミニャと賢者様についてきてください」


「わかりました」


「子供たちはミニャが行くまで賢者様と遊んでいてください」


「「「はい!」」」


「うんとうんと。今日も湖方面は賢者様たちが木を切り倒すので、近寄らないようにしてください。終わりです!」


 というわけで、活動開始。


 ミニャは賢者と一緒にコーネリアを連れて、予備の家に入っていった。


「あの、ミニャ様。なにか私、村のルールを破るようなことをしてしまったでしょうか?」


 コーネリアが心配そうに言う。


「ほえ? 違うよ。昨日の夜に、コーネリアさんの病気を治してあげようって賢者様と決めたの」


「え!? ほ、本当ですか!?」


「うん!」


「ででででも、私、支払えるほどのお金は持っていません」


「村でしばらく暮らすんでしょ? ならお金はいいよ」


「へ、へへーっ!」


 コーネリアは平伏した。


 そう、昨晩の寝る前に、ミニャと賢者たちはそんなことを決めた。

 アメリアの時もそうだったが、こういったことの決定権はミニャにあるのだ。だから賢者たちは勝手に治したりしない。ただし、グルコサ襲撃事件の時のような場合は、命令の中に被害者の回復もセットだと考えている。


 というわけで、コーネリアへの治療の説明が始まった。

 ミニャとコーネリアは並んで座り、ネコ太のお話を読む。


『ネコ太:コーネリアさんの病気は甲殻類アレルギーといいます』


「アレルギー……アメリア様の闇属性アレルギーみたいなものですか?」


『ネコ太:原因は違いますが、似ている部分は多いですね。少し説明しましょうか』


「よ、よろしくお願いします」


 ネコ太は紙に図解を描きつつ、説明した。


『ネコ太:人の体の中には、様々な戦う力が備わっています。それらの力は体に入ってきた悪い物を倒すために、その悪い物に良く効く武器を作り出して戦います。例えば、町で咳が出る病が流行ると、周りの人の体の中ではその病と闘う力が発揮されます』


「はい、なんとなく言っていることはわかります。体が弱い人ならすぐに同じ病になってしまいますし、強い人なら病にかからないこともありますよね」


『ネコ太:そうですね。この時、戦う力は、咳をしている人のツバなどを悪い物だと判断して、これを倒すための武器を作り出して対応します。これは正常なことです。しかし、コーネリアさんの場合、この戦う力が本来無害であるエビやカニも悪い物だと勘違いをして、体に入ってくる度に戦ってしまっているのです』


「え!? そ、そうだったんですか!?」


『ネコ太:はい。そして、こういった勘違いの際に戦う力が作り出す武器は、体を傷つけてしまう場合が多いのです。だから、コーネリアさんはエビやカニを摂取すると、高い確率で具合が悪くなるのです』


「はえー、そうだったんですか……」


『ネコ太:というわけで、治すための方法を説明します』


 ネコ太はあらかじめ用意しておいた液体入りのビンと1cm四方の布をコーネリアに示した。


『ネコ太:この中には湖にいる岩蟹を煮出した液体が入っています』


 コーネリアはササッと構えた。


 岩蟹は大崖の水面下に張りついているカニだ。船で移動している時にジール隊長から教えてもらった。賢者たちが味見をしてみると、泥臭さがあり、食卓に並べるなら泥抜きが必要に思えた。


『ネコ太:これは必要な物です。この液体にこの小さな布を浸し、コーネリアさんの左腕につけます。アレルギーを持つ人はこれだけで肌が赤くなりますが、その際に私が治療のための魔法をかけます。これを数日間行ないます。そうすることで、コーネリアさんの体はカニやエビを悪い物だと勘違いしなくなっていきます』


 ネコ太の説明を受けて、コーネリアはゴクリと喉を鳴らした。その隣にちょこんと座るミニャは『ミニャの体の中でも戦う力が頑張ってるのかー』なんて思いながらお腹をなでなで。


「だ、大丈夫なんでしょうか」


『ネコ太:大丈夫です。それに万が一があっても、この村には回復魔法が使える賢者が多く滞在しています。この治療であなたが極度に苦しむことはありませんよ』


「わ、わかりました。それでは、よろしくお願いします!」


 コーネリアが頑張ることを決意したので、ネコ太もそれに応えるために治療を開始する。


 周りには見学の回復属性賢者たちが集まっており、お勉強。平和バトのような学生はウインドウやスマホで見学していた。


 健康鑑定を行ないながら、まずはカニエキスが沁み込んだ布をコーネリアの腕に貼り付ける。

 コーネリアはビクビクするだけで表面的な異常はすぐには出ない。しかし、健康鑑定の方では貼り付けた瞬間には異常の発生をお知らせし始めた。

 その様子を観察して、回復属性の賢者たちはふむふむ。臨床試験である。


 異常の確認が取れたので、ネコ太はすぐに治療の魔法を願った。

 コーネリアの体全体に水色の光が宿り、健康鑑定にはアレルギーの治療中であると表示された。

 光属性の賢者は魔法鑑定でその魔法の名前を把握するが、この場にはコーネリアがいるので黙っておく。知らなくて使ったのかと思われたくないので。


『ネコ太:これで治療が始まりました。その布を外れないようにするので、こちらに手を出してください』


 ネコ太は小さな布の上に帯状に切られた布を手際よく巻きつけた。


「えっと、これで終わりですか?」


『ネコ太:はい。しかし、すぐに治るものではなく、7日ほど同じようなことを続けます。今日はあなたのそばに回復を行なえる賢者が常についているので、安心して過ごしてください』


 それからいくつかの注意事項を伝えて治療を終えた。

 コーネリアは若干狐につままれたような顔。もっと劇的に何かが変わると思っていたのだ。ぶっちゃけ、賢者たちも『体が軽くなった!』的なことを言うかなと思っていたが、別にそんなことはなかった。




 ミニャはトロッコで遊んでいた子供たちと合流し、ミニャのおウチに入った。


 そこには賢者たちが作った小さな机が10個置いてあった。

 足は木で、天板は石で作られたローテーブルだ。天板部分は凸型になっており、出っ張った場所には賢者が乗ることができる仕様になっている。


 クレイと子供たちの9人が同じ方を向いて座り、ミニャだけ彼らと向かい合うような席。モグはモフモフなクッションの上でヘソを天井に向けてスヤスヤ。


 子供たちのほとんどが賢者の言葉が読めないので、ミニャちゃん学級委員長が通訳する。


「うんとうんと。これから賢者様がみんなにいろいろ教えてくれます。おトイレに行きたい時は好きに行っていいけど、お勉強の途中で休憩時間もあるから、なるべくその時に行くようにしましょう」


「「「はい!」」」


「うんとうんと。みんなにはまずペンの握り方を教えますだって」


 スノー一家の5人とマールはまずそこからだった。

 一方、ミニャ、レネイア、シルバラ、クレイはすでに知っている。なお、ミニャもついこの前までは知らなくて、グルコサで名前を書く機会があるかもしれないので賢者たちが教え込んだ。


「こうやるんだよ。えっとねー、5本指で鳥さんのくちばしを作って、ここに棒を入れるの」


 ミニャは賢者に教わったやり方を実践。

 子供たちはミニャの真似をして手で鳥さんのくちばしを作り、親指の股の辺りからくちばしの先端に向かって棒を差し込んだ。ルミーとパインは賢者たちが手伝ってあげる。


「そうしたら5本指で棒を掴んだでしょ? でも、ペンを握るのに5本もいらないんだって。だから、薬指をちょっとだけ下にずらすの。そんで、薬指のこの辺りで棒を支えてあげるの。そうそう、マールちゃん上手!」


「んふー!」


 机にいる賢者たちに微調整してもらいつつ、最年少のルミーもペンの握り方を覚えた様子。


 そうしたら、今度は柔軟にペンを動かす訓練。

 机に『W』や『〇』を木の棒でたくさん描かせて、腕を動かさずに指の折り曲げで書くことを教えていく。


 10分ほどである程度は使えるようになったので、今度は炭のチョークが渡された。


 これは賢者たちが使いやすいように作った物で、少し太めのシャーペンくらいの握り心地だが、書き心地の方は鉛筆よりもずっと太い芯なのであまり良くない。しかし、こういうのは書く楽しさを覚えてもらうことが重要なのだ。


 賢者たちは生徒たちにA4サイズくらいの紙を配布した。

 その紙には点がいくつも書かれていた。


「ふむふむ。えっとねー、紙に点々があるでしょ? いま貰ったチョークでその点と点に線を引いていくんだって。賢者様がどうやって線を引くのか教えてくれるから、やってみてねー」


 通訳を終えたミニャもさっそくトライ。

 家庭教師の賢者が点から点へ棒で指示を出していき、ミニャは真剣な顔でカキカキ。

 子供たちもそれぞれの家庭教師が指示して、やはり真剣な顔で点を繋げていく。


 最後の点が繋がると、ミニャはパァッと顔を明るくした。


「ネコちゃんだ!」


 点を繋げるとデフォルメされた猫の絵が出来上がった。

 女子が多いので、可愛い絵ができてみんなとても嬉しそう。


 それからも賢者たちが持ってくるお絵描きゲームを楽しむ。

 とまあ、全く文字の勉強ではないが、まずはペンに慣れることから。


 トントコトントコトン!


 ふいにクットゥ太鼓の音が鳴った。チャイムの代わりである。

 だが、そんなこと知らないミニャはネコミミをピンと立て、『にゃんだ?』と言った顔で太鼓を鳴らした賢者を見る。


 賢者が説明した。


「ふむふむ。今の音が鳴ったら、休憩なんだって。軽く運動して、おトイレとかに行くんだって」


 1限目の授業は35分で終わり、5分間のストレッチ、10分の休憩。

 スノーたちも理解して頷き、賢者たちに教わりながらストレッチ体操を始め、そのあとにおトイレ休憩。


 その間に、賢者たちは入れ替えが行なわれた。

 新しいお仕事である家庭教師役は超人気クエストで、1限ずつ交代することで決まったのだ。


 2限目はいよいよ文字に挑戦。

 子供たちに先ほどと同じサイズの紙が配られる。


「ミニャって書いてある!」


 配られた紙を見てミニャはニコパと笑うが、レネイアやクレイは首を傾げた。


「私のはレネイアと書かれていますが」


「俺のはクレイです」


 ミニャは嬉しくて先走っちゃったが、その紙にはマス目が引かれており、その一番上のマスには配布された子の名前が書かれていた。

 なお、このマス目は文字の練習用に版画で印刷されたものである。


 改めてミニャが説明して、子供たちはそこに書かれているのが自分の名前だと知って嬉しそうにした。


 というわけで、その見本を真似してマスの中に名前の練習をしていく。

 初めて自分の名前を書いたスノー一家の子供たちは、これまたみんな嬉しそう。


 そんな中でクレイは、見本の文字と自分の文字を見比べて難しい顔。


「俺の文字ってあまり綺麗じゃないですか?」


 クレイの机にいる家庭教師役の中条さんは忖度せずに頷いた。

 別に読めなくはないが、フキダシで出てくる文字のフォントや領主館で見た本の文字に比べると上手いとは言えない。


『中条さん:バランスを意識してください。このマスには4つの点がありますよね?』


 印刷されたマスには、中央がわかるように線上に4つの点が打ってあった。生産賢者たちは芸が細かいのだ。

 中条さんはその点を繋いでマスの中を4分割にした。


『中条さん:こうやって4等分した時に文字のどの部分がどこに収まるか理解していれば、綺麗な文字は書けるようになります。見本の文字も同じように4分割して、よく観察してみるといいでしょう』


「やってみます」


 クレイもクレイなりに学ぶことがあるようで、真面目に練習し始めた。


 ちなみに、見本の文字は書かれたものではなかった。文字表を作るので、すでにこのマスに合うサイズの活字が作られており、それをマスの中に印刷しただけである。


『中条さん:お手数ですが、レネイアさんにもこの点の使い方を教えてあげてくれますか?』


「はい、わかりました。レネイアさん」


「え、は、はい。なんでしょうか?」


 相手は貴族なので、レネイアはちょっとビビりながら答えた。レネイアは小市民なのだ。


「あ、なるほど。そういうふうに使うんですね。教えてくれてありがとうございます」


 と、そんなふうに探り探りの関係だが、賢者たちはクレイが仲間に入れるようにいろいろとしてあげるのだった。


 その日の授業が終わると、賢者たちはそれぞれの子が使用した紙を集めた。

 紙の端に塗料を塗って乾燥の魔法で乾かして補強すると、その部分にキリで穴を空け、紐でまとめた。


 紙も決して安い物ではないが、賢者たちは蝋版や砂版などは使用しない方向で考えていた。それなら紙の製作を急ぐ。

 可能な限り、子供たちがどれだけ頑張ったのか残してあげたいのだ。


 こうして、ミニャンジャ村の学校が始まった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
こっちでもアレルギー治療できるなら国民病の花粉症から移植手術まで教団無敵だわ
コーネリアさんの治療はずっと待ってたんで本当にありがてぇ(๑╹ω╹๑ ) 7日後に岩蟹を笑顔でパクパク食べる姿を楽しみにしています! ダンジョンの設置とどっちが早いかな? >今では最初に黙読した際に…
この世界の文明レベルってどのくらいだろうね? 10段階評価、0を原始時代として、現代の日本を(分野により)7+~8-くらいと仮定すると、この世界の科学的、医学的レベルは低そうだよね。 まあ、平民階層の…
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