第1章 ファボル村
ラーベルト国、町外れにあるファボル村。
この村はわりと治安は良いものの、食材が手に入りにくい。だから村人はほんの数人しかいない。
この村の村長、ヴァルター・スチュワートには二人の子どもがいる。
妹のおてんば娘、エレン。兄のしっかり者、ナイン。
二人とも武芸に優れていて、リアは弓使い、ナインは剣使いとして日々、腕を磨いている。
二人の師匠であり、幼馴染、ノーク・マーティンはエレンとナインより年上だが、何を考えているかわからないミステリアスな部分もある。
これは三人が青年期の頃の話である。
エレンが十四歳、ナインが十六歳、ノークは十九歳だ。
「エレン。」
「!はい、お母様」
エレンの母親、エマの呼びかけに弓の練習をしていたからか、少し息を弾ませてエレンが答える。
「夕食よ」
「今行きます!」
エレンは汗を拭き、食卓へと向かった。
夕食は質素なもので、スープとナッツだけである。それほど、食材が手に入らないということだろう。
「あれ、お兄様は?」
「ヴァルターと外で話しているわ。何かとても重要な話だから、先に食べといてって」
「お父様と?一体何の話…?」
「…さぁ、冷めない内に食べましょう」
「はぁい!」
エレンとエマが夕食を食べ終わるころ、ナインとヴァルターが戻ってきた。なぜかナインの顔は心なしか青ざめている。
「お帰りなさい。お父様、お兄様」
「ああ、ただいま。エレン」
「……」
エレンはナインの異変に即座に気付いたが、その場で聞くことはしなかった。聞いたのはその日の夜自室へ戻ってからである。エレンはナインの部屋へと行った。
「お兄様…?あの、先ほど、お父様と何を話していたの?」
「っ……、…ああ、食料問題の話だ。そろそろお前もふわふわのパンが食べたいだろう?だから食材の入手経路について話し込んでいたんだ」
「……そう…分かったわ。ありがとう、お兄様。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
エレンはナインが嘘をついていることが分かった。しかし、それを問いただすことはしなかった。話を誤魔化すときのナインは絶対に口を割らないことを知っていたからだ。モヤモヤしながらもエレンは眠りへついた。