第5話 公爵家
「エレオノーラ殿下と婚約?!」
膝に包帯を巻いて帰ってきたのにも驚いたが、レナードの言葉に更に家族は驚いてしまった。
レナード以外の家族は体調不良で参加出来なかったのだが、その間に起きたまさかの事態に、皆信じられないといった面持ちだ。
まさか王女から婚約者に望むなど言われるなんて。
しかしレナードはそんな嘘をつくような人間ではない。
「夢ではないよな?」
レナードは良い子だが、王女に見初められるとは夢にも思っていなかった。
「レナードは長子だ、跡取りについてはなんてお話しされたんだ?」
父リュシフェルの疑問にレナードは答えた。
「近々こちらに来てお話したいと話されました。父様、どうしましょう」
レナードはオロオロしている。
「レナードはどう思います?その王女様の事は好き?それとも嫌いですか?」
母であるディアナに問われる。
「素敵な方だとは思いますが、僕では釣り合いません」
自分のせいで余計な醜聞を与えてしまいそうだし、何より荷が重すぎる。
王配なんてレナードには為れない、もっと相応しい相手が他にいるはずだ。
「釣り合わないなんて、そんな事ないわ。あなたはとても優しくていい子よ。それに頭もいい」
ディアナは慰めるように言った。
レナードは領地経営に携わっていて、新たな事業計画も立てている。
領地と領民のため、より良い生活を目指して頑張っているのだ。
「もしもあなたがエレオノーラ様の力になりたいと願えば、私達は応援するわよ。ねえ、ミカエル」
「そうですよ、兄様。私達はあなたの味方です」
弟のミカエルも応援してくれる。
「僕じゃなくて、ミカエルだったら釣り合うと思うのに」
「いいえ、兄様だからこそエレオノーラ様に選ばれたのです。王女様は本当に見る目のあるお方だ」
嫌味でもなく、ミカエルは確信をもってそう言ってくれている。
自分にそんな魅力などないと、レナードは憂鬱だった。
「それに私には好きな人がいるので」
「えっ?そうなの?!」
弟のカミングアウトにレナードは驚いてしまった。
「ずっと昔からです。しかしなかなか話すことも出来なくて縁が結べず……彼女以外は嫌だと父様にも言って、断り続けていました」
ずっとレナードに遠慮して婚約を結んでいないのかと思っていたが、違ったらしい。
「兄様が幸せになれば私も嬉しいし、彼女へ告白する勇気も出るかもしれません。ぜひ、兄さまの幸せの手伝いをさせてください」
弟のぶれない芯の強さが羨ましい。自分もそんな風に想う相手を見つけたい。
「エレオノーラ様は完璧で美しくて、僕とは全然違う」
「兄様、そういう事ではなく本心はどうなのです?」
「本心?」
ミカエルに問われる。
「条件ではなく、気持ちの問題です。好きか嫌いか、単純な二択でお答えください」
(そう言われると……)
「好き、かな」
近づくと凄く良い匂いがした。
「エレオノーラ様と一緒にいたいですか?いたくないですか?」
優しく微笑む彼女。氷の美姫なんて嘘のような、可憐な笑顔だった。
「一緒にいたい、見つめていたい」
愚図な自分を優しい人と言って庇ってくれた。
「ならば好きということでよいんじゃないですか?」
「あっ」
そういうことなのかとようやくレナードは気づいた。
「しかし、エレオノーラ様の一時の気まぐれかもしれないし」
「そればかりはわかりません。でも今はエレオノーラ様は兄様を好いているのでしょう。違えば縁談の話は来ないはずですので、来たら受けてみたらどうです?」
確かに冗談だったならば書簡など来ない。
もしかしたらエレオノーラの父である国王も反対してるかもしれない。
もう一度会おうといったがただの口約束。また王家主催のパーティで会った際に挨拶すれば、義理は果たせる。
(大丈夫、振られても泣けばいいだけだから)
「そうだね、万が一婚約の打診が来たら受けてみようかな」
ダメならダメで、こっそり枕を濡らせばいいのだ。
家族皆はレナードとエレオノーラの仲を応援するという意見で一致した。
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