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止まり木で鳴くのは閑古鳥  作者: みーなつむたり
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終話


 銀髪の女は、末安雫枝だった「何か」を助手席から連れ出すと、手を繋いだまま自身の乗ってきたバイクに股がり、その後ろに沿わせる形で「何か」を乗せた。「何か」は当然のように銀髪の女の腰に手を回す。


 そのままバイクは走り去っていった。


「………」


 残された牟田はスーツのポケットに入れていた自身のスマホの電源を入れる。

 闇の中にあって画面は煌々と光だして目に痛い。黒い目を細めて画面を見下ろし、牟田は見知った番号の通話ボタンを押した。


『…はい。』


 電話に出たのは、沈んだ声の末安朋美だった。


     ※ ※ ※


 一週間後。


 未だ末安雫枝は戻らない。

 

『それがお母さんの意思なら、…私たちはどうすることもできません。』


 あの日、末安雫枝がやはり何者かと入れ代わっていた事実を伝えると、末安朋美は静かな声でそう言った。

 受け入れるしかないと、覚悟はとうについていたに違いない。


「………」


 逃げ出したいほど追い詰められた母親は、それでも自身の身代わりを置いて出ていった。

 それが意味するものが愛なのか自己満足なのかは、牟田にはわからない。


 結局、何一つ解決しないまま、牟田の仕事はここで頓挫した。


     ※ ※ ※



「おはようございます、所長。」


 その日、事務所の薄っぺらいドアを開けると、三條がパソコンの前に座っていた。

 相変わらず、チュッパチャプスを口にして。


「おー、三條君、戻ったの?バカンスはどうだった?リフレッシュできた?」

「…バカンスとか口にする人はじめて見ましたよ。」

「え、そうなの?今、言わないの?」

「昔もそうそう言わないすよ。日本人は。」

「そうだねぇ。働きすぎなんだよねぇ。昔も今も。」


 牟田は出社の途中で買ったスポーツ新聞を片手に、自身のデスクまで歩を進めると、中古の椅子に腰かけた。すると、


「で、所長、例の件はどうなったんすか?八反田先生も教えてくれなかったけど。」


 三條がパソコンを見据えたままぞんざいに聞いてきた。その態度に思わず笑みが漏れる。


「何も。何も解決しなかったよ。」

「はあ?またタダ働きしたんすか!?俺の給料どうなるんですか!」


 ようやく牟田を見た三條は、色素の薄い赤っぽい目を丸くした。しかしすぐさま三角に尖る。


「いやだなぁ、三條君。…今から頑張るんじゃないの。」


 その鋭い眼差しを避けるように、牟田はそそくさとスマホを開き、


「ほらほら見て見て、八反田から離婚調停用の調査依頼来てたよ!」

「…結局八反田先生頼みじゃねえすか。」

「縁故は大事だよ。三條君。…人間が、生身で生きるためにはね。」

「………」


 呆れた三條は何も応えない。


 静寂の中で、不意に窓の外から鳥の声が谺する。


 牟田はゆっくりと振り返った。


「………」

 

 カッコウは、自分で卵を育てない。

 だからといって、カッコウに愛がないとは誰にも言えないだろう。

 

(…真実なんてのは、人の数だけ存在するのが世の常だ。)


 牟田は自嘲気味に笑いながら視線を戻すと、いつものようにスポーツ新聞を広げ、いつものようにメロンパンの封を開けた。



             了




 



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