娘と王子
「ママは遠いところに行っちゃったんだって」
そう言って泣きじゃくる、盲目の少女をそっと抱き寄せて、ウィリアムは宥めるように背中をさする。
「大丈夫、メイのママはお星様になったんだ。きっと、メイがいつも頑張っていることを知ってくれているし、きっと、愛し続けてくれているよ。」
「ほんと…?」
1年ほど前から会うようになった、このメイリーンという少女は、幼い頃に事故で目が見えなくなり、それ以来、両眼に包帯を巻いて過ごしているのだという。
3日前、メイリーンの母親が亡くなった。
僕は、仕事に出なくてはいけないメイの父親のシティエールに代わって、話し相手になっている。
「ウィリアム第二王子殿下!!!
またこのような所におられたのですか!公務が残っております。貴方様には役割というものがあるのですから、
さあ、城にお戻りください!!」
ツカツカと、早足でやってきた黒髪の若い男は、メイリーンを抱きしめているウィリアムを叱るように言った。
「うるさいぞセバスチャン、侍従が口答えをするな。
僕はシティの代わりにここにいるのだ。」
「シティエール諜報部長も王子の行動には、畏れ多いと戸惑っていらっしゃいます!」
ーはぁ、本当にセバスチャンはしつこい。
生まれた時から僕の世話を任されているから、口うるさいし。
正直、公務は第一王子である兄のおこぼれの仕事であるし、僕がやらなくても弟である第三王子がやるだろう。
僕はメイの世話をしなくては!目が見えないのに母親が亡くなったんだ、困ることも多いだろう!!
まぁ、かといってメイリーンは感覚が鋭いのか、杖を持てば介助など無くても歩けるし、身の回りのこともほとんどできる。
つまりまぁ、…僕がいるのは僕のわがままだ。
だって、メイリーンは一緒にいて飽きないんだ。
メイリーンは美しい。
キラキラと光を反射する金色の髪、
透き通るような白い肌、
ふっくらとした唇、
腕や腰の細さからも、か弱そうな印象を与える。
しかし、話してみると、明るくまっすぐで裏表のない子だ。
コロコロと変わる表情がとても面白い。
王子という立場にいると、どんなに容姿が整っていても腹の中は何を考えているか分からないような輩と大勢会った。
メイリーンは、容姿だけでなく中身も美しい、
僕にとって稀有な存在だ。
もっとそばに居たい、話をしたい。