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EP02 アルメリア

三話です。

どうぞお楽しみください!!


 互いに名乗り最小限ではあるが信頼関係ができた才輝は、肩の力を抜いた。


「ウケコタエ、チャントデキテル。デモヤッパリ、キモチワルイデショ。モウイチドミズヲタメルカラマッテテ」


 その後、才輝が所持品はそろっていると確認して一安心したところに、少女、アルメリアはそう声をかけ、少し離れた場所に桶を用意した。しかし、近くに川が流れているわけでもなさそうだった。

 才輝が、周りをよく見てみると焚火やそこにつるされた鍋、木の枝にかけられたローブ、布の上に並べられた弓や矢、なるほどそれは狩人の簡易的な拠点のように見えた。ただやはり猟銃はなく現代の狩人とは思えない。


アルメリアは前ならえの要領で、手を伸ばし先ほどの奇妙な言葉の羅列を詠う。

すると左手の甲が光だし、先ほど一瞬見たように左右の掌の間に小さい水球が形成される。やがて彼女は黙るようになり、こめかみに青筋を立てて水玉をにらんでいた。何か機械を使っている様子はない。どうにも奇妙な光景だった。


 バシャ


やがて少しづつ大きくなっていた水玉がはじける。水は樽に落ちたが十分に満たせる量ではなかった。


「アア、ヤッパリダメカ…」


 言葉は聞き取りずらいが、ひどく落ち込んでるようだった。


 ギンッ!!


「………っ‼」


 またか


 才輝は再び頭痛に襲われる。しかし、前回に比べれば軽く、めまいも起きなかった。


「エ、マタ?」


頭を押さえる才輝を見て、アルメリアは駆け寄ろうとするが、彼はそれを右手で制止する。


「大丈夫です。それより今、何をしてました?」


「エ……集水魔法ダヨ。デモアタシ魔法苦手デ………モウ一度試シテミルカラ」


恥ずかしそうに言うアルメリアに自分も手伝ってみますと才輝は応えた。彼女と同じように桶の前に立ち、少女と同じ言葉を詠う。しかし彼はその言葉の意味を理解しているわけではなかった。


「スゴイ…」


ただその行為による結果は分かっていた。

 彼の掌の間には、大きな水玉が形成されていた。それを桶に注いで水を張る行為を幾度か繰り返し、十分な水位達したら、さっそく手や顔を洗った。一見彼は淡々と作業しているように見えたが、内心では高速で脳を回転させていた。

 この現象の原理は置いておく、実を言えば才輝の周辺にはこのようなことができるような人間は複数いた。問題は何故このようなことができるようになったかだ。彼はかの者たちと違い無能力だったのだから。

 そしてその謎をひも解く糸口はもうあった。


「ウスーイ⁉アナタイクツ?」


グローブを外して露出した結晶石を見て驚く、石が手に埋まっていることではなく色が薄いことに対して、らしい。そこから察せることは多い。


「俺ですか?19です。珍しい色なんですか?」


才輝には聞きたいことは山ほどあったが、根掘り葉掘り聞くだけでは収集がつかない。まずは、話を合わせて情報を聞き出し、そこから聞くべき情報を決めていくことにした。幸いにも心なしか先ほどより言葉が聞き取りやすくなっている気がする。


「私、17歳ダケド、ホラ、アカイヨ」


彼女はその手袋を外し左手の甲を見せる。そこには才輝のものと同じようにだが燃えるように紅い色をしていた。


才輝はそれを見ながら情報を整理する。彼女の格好は流石に現代の猟師のモノとは思えず、中世ヨーロッパのそれに近い。が、過去に今見たような魔法と呼ばれた技術はない。仮に能力者だとしても彼らは詠唱など必要としない。そんな技術を当然のように使い、ふるまっている。そして、自分が同じことをしても驚く様子がない。それは本人にとってそれが常識ということだろう。これらのことから自分は地球ではない別の世界に飛ばされたことを本格的に考えなければいけない。空間転移自体は、以前にも経験がありタイムトラベルよりも現実感がある。


「…ネェ…ネェ…聞コエテル?マダ頭ボーットスル?」


 黙り込んだ才輝を不審に思いアルメリアは、彼の顔を覗き込む。


「ああ、すいません。考え事してて…」


「ソウ…マアイイワ。アタシハ、少シミンナヨリ強い色シテルケド君グライノ年ノ子ナラ、モウ少シ上ノ色シテルヨ。ソレヲ知ラナイナンテ、都会ノ箱入リ息子トカナノ?アナタドコカラ来タノ」


 才輝の常識では、世間知らずを馬鹿にするときは田舎者と馬鹿にするところだが、逆らしかった。出身地の話が出たところでチャンスと見て彼は話を切り出す。


「それが分からないんです。仕事で遺跡を調査していて、その遺跡の奥で得体のしれない光に包まれて、気が付いたらそこにいたんです」


「ソウ、ソレデサッキ、ココガドコカナンテ聞イタンダ」


 アルメリアは合点がいき掌をたたく。


「ソウダ‼ケガハ無イ様ダシ、何ヤラ訳アリノヨウダシ、話モ長クナリソウダシ、先ニ腹ゴシラエシヨウ!!」


 アルメリアは一人で盛り上がり、火にかけられていた鍋の蓋を開け、中身を近くにおいてあった器に注ぎだす。才輝は有無を言わせず椅子代わりの倒木に座らせられる。


「スープ飲ンデ体ガ暖マレバ、頭モ回ルヨ」


そう言いながらアルメリアは、スープで満たされた木の器を渡す。器から掌に熱が伝わり、鼻腔を良い匂いがくすぐる。そうなると才輝も空腹を感じてきた。どうぞどうぞとアルメリアが薦めてくるので、才輝も好意に甘え飲んでみた。


「あったかい…」


スープの心地よい熱が、彼の喉から胃そして全身へ広がった。


「ドウ?」


 アルメリアは大げさに思えるほど真剣な表情でこちらに聞いてきた。


「おいしいです。ありがとうございます」


 才輝が少しだけ口角を上げ、柔らかに答えると。


「イーッ、ヤッターーー!!」


 彼女は雄たけびを上げ、両手を高く掲げ全身で喜びを表した。よっぽどうれしかったのか才輝はその後何杯もおかわりをさせられた。

 才輝は少し、申し訳ない気持ちになった。


 ※


その後、二人ともスープを飲み体が温まったところで先ほどの話の続きをすることになった。


「ココハネェ、ゲイル帝国ノ西ノ果テ二アルイクサノ原。アナタハドコニイタノ?」


 才輝の暮らす時代に、帝国などありはしないし、過去にそんな帝国があったという話も聞いたことがなかった。やはり別の世界に飛ばされてきたことが彼の中で確定的になっていた。


「俺は、イラクという国のウルク遺跡の近くにいました。知ってますか?」


「ウ~ン、知ラナイ。国ノ名前トリアエズ全部覚エテルンダケドナ」


 アルメリアは少し考えて答えた。

 国という概念が分かり、すべて覚えてるつもりなのなら単に知らないという可能性は低い。


「はい、俺も、ゲイル帝国なんて国は知りません」


「エエ、ソレッテドウイウコト。コノ世界ニ国ナンテ六ツシカナインダヨ」


驚愕する彼女に対し、才輝は核心となることを切り出した。


「俺はたぶん、こことは別の世界から来たんだと思います」


 二人はより長くなりそうな会話を落ち着いて話すため、焚火をはさんで座った。


 そして、才輝はここが自身にとって別の世界でないと考える理由とここに来た経緯を列挙して説明した。自らの世界に魔法などないこと、自分の世界そのものについて、気が付いたら石が手にはまっていて、それは自分にとって普通ではないことなどだ。


「世界ガマルイトカ魔法ガ無イトカ、信ジラレナイ!ソレニアナタサッキ魔法ヲ使エテイタジャナイ!」


やはりアルメリアと才輝の世界観は違うらしい。

 魔法がないことを話したところでアルメリアは当然の疑問を投げかけてくる。が、才輝はそれに理路整然と答えて見せた。


「はい、そうですね。それはおそらくこの石……俺たちの世界ではアルケプティオ結晶石と呼んでいるのですがここから流れてきた情報のおかげです。先ほどの頭痛の時、頭にあの魔法のことが浮かんできました。それをさっき試してみたんです」


 そして才輝は、おそらく別の世界の者同士であるにもかかわらず会話が成立するのも同じ理由だろうと付け足した。言語情報が石から流れてきて起こされたのが最初の頭痛なのだろうと。

 様々な性質を持つアルケプティオ結晶石だが、その一つに情報を記録できるという性質があるのだ。おそらく最初に話しかけられたこと、魔法の行使を見たことをトリガーに情報が流れてきたのだと才輝は推測していた。


「俺の言ってることを信じなくてもいいです。ただ、ここがどこだか分っていなくて、ここが俺の知らない場所だとしたらどうしていいかも分かりません。だから……」


「アナタノ言ッテルコト半分モワカンナイヨ。ケドアナタ困ッテルンダヨネ……助ケテホシインダヨネ」


 アルメリアは食い気味にそう言った。

結局はそういう事だった。ここが地球上のどこかにしろ、あの世にしろ、異世界にしろ、才輝にはどこへ向かえばいいのか分からない。一人では当てもなくさまようことしかできない。だから、彼女が何か知っているなら助けてほしい。仮にも年下にすがることに情けなさを感じなくはないが、そんなことで意地を張るほど彼は子供ではない。


「はい、助けてほしいです。元の場所に戻るために」


才輝はアルメリアの澄んだ青いはっきり言い切った。


「分かった。何ができるか分からないけど、あたしはあなたの力になる‼」


こころが伝わるとはこういうことを言うのだろうか、その言葉は才輝にもはっきりと聞こえた。


「ありがとう。本当に」


やさしさで胸がいっぱいになり、深く深く頭を下げた。


「気にしないで!あたしは、困ってる人がいたらなるべく助けてあげたいの!それに私の料理食べてくれてすっごくうれしかったし」


 はきはきとそう言う彼女を見て、本当にやさしい子なのだろうと才輝はいやでも分かった。


「さぁ、そうと決まれば、まずは私の家に行こう!寝床も貸してあげられるし、村には物知りな人もいるから何か聞けるかもだし、詳しい話もそこでしよう!!」


アルメリアの提案を断る理由はどこにもない。才輝は彼女の案内で彼女の住む村へ向かうことになった。日はまだ高く日没の前にはたどり着けるとのことだった。


 ※


「アルメリアさん…少しペースを…」


道半ば、渓谷の底を才輝は進んでいた。アルメリアのだいぶ後ろを…


「ああ、ごめん速かった?…魔素による強化がないとそうなるよね…」


重い装備をもって長距離行軍など、才輝は何度も訓練で経験し良好な成績を修めている。ちしかし今回は、求められているペースが違った。アルメリアは、才輝にとってマラソンを走るようなペースでずかずか進んでいるのだ。長い距離を汗の一滴もかかずに。


「よーし!私が担いでいくよ!」


 そう何でもないように言い、アルメリアは戻ってきて才輝を装備ごと軽々持ち上げた。


「エ、エェ⁉」


流石に才輝も恐怖を感じる。


「それじゃ~しゅっぱ~っつ!!」


そして、彼女は才輝を抱えたまま、ペースを変えずに進むのだった。


 ※


 渓谷を抜け、しばらく林の中を進むと策に囲まれた村が見えてきた。


「あれが、私の村、ヒンメル村だよ!!」


 才輝を下ろした後、彼女はさわやかに言った。げっそりしている才輝とは対照的に……。


アルケプティオ結晶石は一言でいうとGス〇ーンです。

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