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EP00 それは、確かな幸運で

 皆さん初めまして、raidoと申します。実はこの作品が初投稿ではないのですが即公開停止したので見たことのある人は皆無だと思います。ですが小説家になろう初心者であるのは間違いないので、温かい目で見ていただけると嬉しいです。しかし、文法、誤字設定の矛淳等ございましたらどしどしご指摘ください。

 ですが作品に込める思いは誰にも負けない所存です。本作は異世界を旅する楽しさ表現することを目標としております。

 それではどうぞ。


そこはイラク南部。とある青年が、ジープの後部座席に乗り灼熱の太陽が照り付ける砂漠を粛々と進んでいた。その青年のスマホに呼び出しがかかる。


『もしもし、調子どう?』


 青年が耳に押し当てたスマホからこれまた若い男の声が聞こえる。


「調子も何もここ数時間、車に乗ってるだけだがな」


 青年は感情のこもらない声で答える。


『まだ着いてないのか?じゃあ、景色とか……』


「右も左も砂漠ばっかだよ」


青年は食い気味にそう言うも、これだけ何もないと煩わしいことをなにも考えなくて済むからそれはそれでいいがと続けた。事実青年はその車に乗ってからというもの、茫漠と広がる変わり映えしない景色をただただ眺めていたのだった。


「それで、何か用か?」


 電話の向こうは日本のはずである。わざわざ国際電話をかけてくるとはよっぽどの用なのだろう。と青年は少し身構えて聞いた。


『いや、特に何も』


「………おい……」


青年は相変わらず、呆れているのか怒っているのか判別のつかない抑揚のない声を出す。


『ごめんごめん。ただ楽しめてるかなって気になっただけだから』


これは一応仕事だぞと言いかけて言葉を飲み込んだ。その男とはまだ付き合いこそ短いが、親友と呼べるほどの間柄だった。だから相手の気遣いは青年もよく分かっていた。無理していることを隠し切れない青年のために、気晴らしに今回の旅行まがいの仕事を用意してくれたのだ。それを思うと黙るしかなかった。その男も余裕のない精神状態なことには変わりないはずなのに。


『楽しんでくれないとその仕事を、お前に回した甲斐がないからさ』


「………分かった。気楽にいくことにする」


すまないと言いかけてまた飲み込む。その思いやりを無下にするわけにはいかなかった。


『そう、それでいい。じゃあ、お土産期待しているよ』


「ああ……」


 その会話を最後に通話は切れた。青年は、大きなため息を吐きまた、変わっていると思えない景色を眺めることにした。


 

車はとある丘でいったん止まり、青年も車の外に出る。

 数時間に及ぶ車移動という苦行から解放され、疲労と開放感で胸がいっぱいになった青年も、その光景にはすぐにそれらを忘れ、見入らずにはいられなかった。

彼がその全体像を見渡すその場所はウルク。

約5000年前に築かれた世界最古の都市国家と言われる広大な遺跡、雲一つない空のもと、風化しつつもなお存在感を放つその威容は、遠い昔の人類の英知を、力強さを、その栄光を感じさせるには十分だった。彼は少しの間、思いを馳せることにした。そこにあった営みが、確かに遠い昔からの人間の当たり前だったということに。

 

「ここか…」


 しばらくして青年は本来の目的地へ向かう。

そこはつい先日確認されたウルク遺跡近辺で見つかった新たな地下遺跡。今回の仕事というのはその調査であった。

そのようなことは本来彼の組織の管轄ではないがその遺跡が見つかった経緯を鑑みて、組織は護衛として青年を向かわせたのだった。

とはいっても物騒なことが起こりそうな具体的理由があるわけでもないため、未解明の遺跡探検ツアーといった気持ちでいけと言われてはいた。


「よろしくお願いします」


 青年は調査拠点として設営されたテントに入り、現地に先についた他の調査員と打ち合わせをする。


「地下に洞窟型遺跡がウルク遺跡中央の真下までほぼ一直線に続いています。中央通路の左右に空間がりますが今回の調査では最深部の調査を中心に行う予定です」


青年は調査員たちに説明を受けながら手渡されたに資料目を通す。先んじての調査で遺跡内部の構造はほぼ把握されている。


「内部、【アルケプティオ粒子】の濃度が高いみたいですね。でも、そこまでの生物がいるようには思えないな……」


 近年発見された生命の根源に関わるといわれる【アルケプティオ粒子】、生命活動によって発生する粒子。大気中、海中に常に存在するありふれたものだが、その濃度はその空間で行われている生命活動に左右される。例を挙げるなら南極大陸は地上全体の平均値で見れば濃度が低い。一方、南米の熱帯雨林などでは濃度は極めて高くなる。

 この砂漠の真ん中にある遺跡の環境ではこの数値はあり得ないはず、と青年は考察すると同時に調査隊が護衛を必要とするかを理解した。複数生物のいる可能性が低いとなると遺跡内部には強い生命力を持った何かが潜んでいる可能性がある。


「すいません、本当はもっと戦闘力の高い人員が来るべき案件でした」


 青年は調査隊に謝罪する。事態の重要度を青年の組織の上層部は見誤っている。本来これは【エスパー】級人員が担当すべき案件である。

 なにが、探検ツアーだ!と心の中で悪態をつき、先ほどの電話相手の顔に一発入れてやろうと決めたのだった。


「いえ、あなた方の状況は理解しているつもりです。それにあなたの活躍もかねがね聞いています。あなたが来てくれただけでも心強いですよ」


逆に相手にフォローを入れられ、青年はよりいたたまれない気持ちになる。



「別に、俺はただの人間ですよ。もちろん、護衛は全力で遂行するつもりですが」


 謙遜の言葉を自虐気味につぶやくも、せめて調査隊の思いやりに応えようと青年は気を引き締めるのだった。



「では調査開始します」


 打ち合わせを終え、調査員の一人のその号令で、青年と調査員の5人のチームは発掘され、安全のためある程度整備された入り口から遺跡内部へ入いる。後ろの5人は白い防護服に各種観測機器といった、いかにもな外見であったが、先頭の青年は灰色の兵服の上に様々なプロテクターを装着し、各種センサー機能を詰め込んだヘッドギアを付け、両手に構える銃はライトが備え付けてありハンドガンであるが大型で物々しい。

入り口からすぐには少しの階段があり、その後は僅かな傾斜で下る広い通路がどこまでも続いていた。もちろん、明かりなど備えられているわけもなく各々の持つライトで視界を確保している。それでも、その光だけでは通路の果てまで照らすことはできない。

 しかし、一同はそのようなことは気にも留めなかった。


「すごい……!」


 誰からともなく声が上がる。通路の壁、天井その隅々に壁画と楔型文字による碑文が彫り込まれていた。


「保存状態が異常にいい……!いったいどれだけの価値があるだろう⁉」


 青年を含めた全員がそれらに見入っていた。もちろんロボットなどによる事前調査は行われていて画像で目にしていたがやはり肉眼で見ると迫力が違うものだ。青年も元来歴史について知るのが趣味であった。だからこそこの仕事が気晴らしとされたのだ。護衛として気を張らなければいけない彼もさすがに気を取られていた。深々と壁に刻まれた文字列はいつかの誰かに何かを伝えたいというかたくなな意思を如実に伝えているようだった。一行はくまなく舐めるように動画と写真を撮る。

 興奮冷め切らぬまま一同は通路を進んでいたが、そのうち浮かれてもいられなくなった。奥に進むにつれ【アルケプティオ粒子】の濃度が指数関数的に上がっていくのだ。


「事前の調査より数値が高い……現在も上昇中。これ、どう考えても何かいますよ!」


 粒子の観測機器を持つ一人が神妙に警戒を促すのを聞き、先頭の青年は一瞬の末、判断を下す。


「俺が先行します。おそらく先にある何かは遺跡に入った自分たちに反応している…どんな事態になるかわかりません。情報はヘッドギアから送ります。だから皆さんはいったん地上へ!そのあと本部に応援の要請、俺の名前を出せば聞いてくれます!」


「………分かりました。お気を付けて」


指示通りに調査員たちは出口へ向かう。

一人残された青年は進行方向に銃を構え、覚悟を決めるように息を吐く。

反応を示す以上少しでも『何か』に対する情報が欲しい。

と、青年は頭の中で建前を組み立てるが本当は自身の好奇心に負けていた。本来は全員で外を出てともに応援を待つべきだが、先を早く見たいという願望が彼の判断に無意識に影響していた。それでも他の者を外に出したのは彼の揺るがぬ理性の発露だろう。


 そして通信で他の者が地上へ出たことを確認し、ヘッドギアのバイザーを下ろし暗視モードを起動、外部との同期を確認して青年は一人奥へ進む。ヘッドギアから分かる粒子の濃度は前例がないほど上がっている。


「ここか…」


 横にあった壁が見えなくなり広い空間を前にする。部屋の中心には熱源の反応があった。


「熱源確認、これより接近して確認する…っ!?」


 青年が空間に足を踏み入れた瞬間熱源の一から広がる光が、青年の意識を刈り取った。



   ※



 朦朧とする意識の中、記憶を覗かれているような感覚に襲われた。


穏やかだった日々、決した瞬間、戦い、闘い、—————、たたかい、タタカイ…

ヤメロ、見るな。心を閉ざし、目を逸らす。


そのうち、意味不明なノイズが頭に響いた。


「■■■■■」


それは少しずつ明瞭になっている。


「■■、■■■■■■■」


「■メン■サ■…」


「ゴメンナサイ」


「ジカン、ナイノ」


「ソレデモヤラナキャ」


「ワタシハアキラメナイ」


「リュウと人をつなげて」


「アイシテいる…」


「生まれてきてくれてありがとう」


 ああ、それはあの日の言葉……



  ※


 その後応援とともに遺跡に入った調査隊は、青年を見つけられなかった。




プロローグいかがでしたでしょうか?

 感想・評価・誤字報告お待ちしております!!

 主人公である青年の名前は次話にて明らかになります。

また、この作品の前の時系列に当たる作品も外伝として連載予定です。ご期待ください。

 更新は不定期となりますが次回もぜひ読んでください。

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