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あと九十九本...「最期」

 Iさんはその日、珍しく部屋の掃除をしていた。

 年末でもないし、部屋が荒れててもとくに気にする性質でもなかったが、とにかく部屋を掃除しなければと突然思い立った。

 掃除は押し入れの中にまで及んだ。

 Iさんは実家から離れ、小さなアパートに現在一人暮らしをしていたが、引っ越しをする際にはそんなに多くの荷物を持ってきたつもりはなかった。

 そんな中でひとつ珍しいものを見つけた。

 古くてケースも傷んだCDが出てきたのだ。既存のアーティストが販売しているものではなく、個人が記録用に使うものだ。

 一体なんのCDだっただろうとケースをよくよく見ると、ケースに直接油性マジックで『バンドメンバーによる演奏』と書かれていた。

 それを見てIさんは思わず懐かしいと喜んだ。

 Iさんは高校時代に友人とバンドを組んでいて、高校卒業とともに解散はしたが多少活動などをしていたこともあった。

 そんな活動の一端を録音したCDだった。

 Iさんは掃除を一旦中止して、その懐かしいCDを聴いてみることにした。

 ノートパソコンを開きCDドライブに入れると、メディアプレーヤーから目的のファイルをクリックする。

 映像はないが数秒の無音のあと、しばらく演奏が続き女性の声で歌が始まった。

 メンバーは三人で、一人は女性ボーカルのU子、一人はIさんの幼馴染でピアノ、もう一人はもちろんIさんでギターをやっていた。

 そういえば、こんなこともあったなぁと昔を懐かしみながら、流れてくる音楽に耳を傾けるIさん。

 ところがしばらくして、CDの音が妙に揺れたり途切れたりする。ディスクに傷がついているのか、パソコンの不具合か、と思っていると音楽がやんだ。

 しかし、プレーヤー上では再生は止まっていない。無音が続くのもおかしいので、やはり不具合か何かかとIさんがパソコンへ手を伸ばそうとしたとき、再び音が流れ始めた。

 だが、あまりに音が小さすぎて聞こえない。ボリュームを上げるとそれは音楽ではなく、どうも女性の声で何かを話しているようだった。

 U子が何かしゃべってるのが録音されていたんだな、と思っていると――


『――なんで私が死ななきゃならないの』


 確かにはっきりと声はそう言った。

 それまでいくらボリュームを上げてもボソボソとしか聞こえなかった声が、そこだけはっきりと聞こえたのだ。

 Iさんはゾッとして固まっていると、CDは再びU子の歌声を流し始めた。

 Iさんは恐ろしくなって思わず再生を止めた。

 止めたはいいがIさんは、先ほどの声がU子の声に似ているのに気づき、なぜあんな声が録音されていたのか、あの言葉はどういう意味なのかと気になってしまった。

 もう一度聴こうか……そう迷っていると、唐突に携帯電話が鳴った。

 少し嫌な予感を覚えながら受話器を取ると、相手は幼馴染でありバンドを組んでいた友人だった。


「おお、お前か。いま懐かしいCDを聴いてたんだけど――」


 偶然と懐かしさにIさんが、先ほど起こった出来事を話そうとするも、友人はそれを遮ると沈んだ声で言った。


「あのな、昨日の夜――U子が死んだんだ……」

「えっ?」


 友人の話によればU子は、元彼氏によるストーカーの末に無理心中で殺されてしまったのだという。

 元彼氏はフラれた後もU子につきまとい、あげくに部屋に侵入するとU子をナイフで滅多刺しにし、同じナイフで自分も刺し自殺したのだそうだ。

 その様相は悲惨で、部屋中血だらけだったと発見した母親が教えてくれたのだと友人は語った。

 話を聞きながらIさんは思わず、さっきまでU子の歌を流していたパソコンを見つめた。

 あのCDの中の女性の声はやっぱりU子で、死んだときの無念の気持ちを込めた最期の声だったのだろうか。


『なんで私が死ななきゃならないの』


 あれは、死んだU子が無念の気持ちを自分に伝えたいがために、CDに声を残したのだろうか。


 結局Iさんは、そのCDはお寺に納めてお祓いをしてもらうことにした。

 自分があのとき珍しく掃除を始めたのは、あのCDが探してくれと訴えていたからかも知れない、とIさんは後になって思ったという。



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