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あと百本...「女の子」

 これはAさんが友人宅で体験した話である。


 Aさんと友人は学生の頃からの親友で、よく互いの家に行っては酒を酌み交わしていたそうだ。

 この日も、つい先月入籍したばかりの友人の新居へ仕事帰りに寄って、酒を飲みながら会話を楽しんでいた。

 しかし、少ししてAさんは友人の奥さんの顔色が悪いことに気づく。

 確か妊娠しているという話だし、こんな時間に突然押しかけて悪いことしたな、とAさんは早めに切り上げて帰ることにした。

 すると、玄関先で振り返って友人に別れの挨拶をするとき、廊下の奥に4、5歳くらいの女の子がいるのに気づいたのだという。

 友人夫婦はいわゆる授かり婚で結婚式をしておらず、あまり詳しい話も聞いていない。なのでAさんはその女の子を奥さんの連れ子だと思ったのだそうだ。

 妊娠していて、連れ子もいて、そんなところに押しかけてしまい、申し訳ないことをしたと思ったAさんは、後日友人と外で会ったときにその話をした。

 しかし友人は首をひねって言った。


「女の子の連れ子? そんなんいないぞ。お前、酔ってて見間違えたんだろ」


 Aさんも首を傾げると「そんなはずは」と思う。あの日は早めに切り上げたからそれほど飲んでいないし、お酒には強いので何かを見間違えるほど酔ってはいなかった。

 だが友人はそんなAさんには構わず話を続けた。


「それより聞いてくれよ。最近、嫁の様子がおかしいと思ったらさ、親父から『男を産め』って嫁いびりされてたってよ! 親父がそんなん言ってたとか、なんかこうショックだよなー」


 なるほど、あの日奥さんの顔色が悪かったのはそのせいだったのかと納得しつつ、しかしなぜか気になるのは友人宅で見た女の子のことだった。


 数日後、今度は友人から電話で誘いをうけて、また外で会うことになった。

 電話口での様子から気になっていたが、数日ぶりで会う友人は元気がないように見えた。

 奥さんと父親との関係が悪化したのだろうかと心配したAさんだったが、最初に口にした友人の言葉は意外なものだった。


「この間さ、俺の家に来たとき女の子を見たって言っただろ? どんな女の子だったか覚えてるか?」


 以前話したときには「見間違いだろ」と気にもしていない様子だったのに、一体どうしたのだろうかとAさんは訝しく思いつつも、友人の様子にただならぬものを感じ戸惑いながらも答えた。


「4、5歳くらいでおかっぱ頭だったかな。顔はあんまり覚えてないけど、白地に赤い水玉のワンピースを着てたな」


 Aさんがそう答えた途端、友人の顔がサッと青ざめていった。

 思わず「大丈夫か?」とAさんが声をかけると、友人は震えながら話はじめた。


「この間話しただろ、親父が嫁に『男を産め』っていびってるって。あれ、俺の前でも言い出したから怒ったんだ。そしたら親父、奇妙な話をしだしてさ――」


 友人の実家は今でこそ一般家庭とそれほど変わらないが、それなりに由緒ある家柄だったそうだ。

 歴史があり、広い土地も持っていて、それなりに裕福な家系だったが、一点、不可解ともいえる事象があった。

 それが――


「俺の家系ってさ、女の子が生まれると必ず早死にしてしまうって親父が言うんだ」


 なんでも過去、友人の家の成功を妬んだ者が、当時長女だった4歳の女の子を誘拐し、数日後無残な姿になって発見された、ということがあったのだという。

 そんな事件があって以後、友人の家系で女の子が生まれると必ず事故や病気などで早世してしまうのだとか。

 だから、友人の父親は『男を産め』と言っていたのだそうだ。


「お前が見たのがもしその女の子だったら……」


 そう言って言葉を失くす友人に、Aさんは慌ててかける言葉を探した。


「いや、でもやっぱり見間違いだったかも知れないし、俺が見たのがその女の子とも限らないし――」


 矛盾した言葉だったが、それを指摘するでもなく友人は、真っ青な顔でAさんを見ながら言った。


「お前言ったじゃん。赤い水玉のワンピースを着てたって。昔死んだ女の子、当時白のワンピースを着てたらしいんだけど、小さなナイフのようなもので何か所も刺されて、見つかったときそれが赤い水玉に見えたんだって……」


 Aさんは今度こそかける言葉が見つからなかったという。



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