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エッセイ  作者: 野原いっぱい
7/11

汚れちまった悲しみに(グインサーガ)


挿絵(By みてみん) 


    (三) グイン・サーガ

三社目の就職となる大阪の勤務先(G社)に通っている際に、横浜時代の同僚のO君から結婚披露宴の招待状が届きました。

といっても私より5歳ほど年下で、最初の会社(N社)には高卒で入り、同じ工場職場に勤務、寮でもかなり親しくしていた間柄です。


その後、私と同様に再就職し、その会社で出会ったお相手と交際、おめでたに至ったそうです。

場所は東京でしたが、もちろん出席することにしました。

ただ文面からはスピーチの依頼があり気の重いところです。

過去に先輩の披露宴に出席したことがあって、歌を歌ったことがあるのですが、後輩ということもあってそう緊張することはありませんでした。

ところが今回は新郎の年長者であることから、歌ではなく、期待に沿えるような相応しい内容にする必要がありますし、ある程度ユーモアも交えてないといけません。

いわゆるTPOに合った話し方です。

彼に関するエピソードを思い返し、色々と考えてはみましたが、なかなかまとまりません。


そして、あれよあれよという間に当日がやって来ました。

新幹線に乗り都内の披露宴会場に到着してみると、多数の招待客が集まっています。

主役の新郎以外に顔見知りはなく、初対面ばかりでリラックスできそうにありません。

宴が始まり式次第通りに進行していきます。

司会者の指名で、招待客のスピーチが続きますが、それぞれが上手な話しぶりに聞こえます。

徐々に自分の順番が近づき、用意していた話の内容を頭の中で何度も反復するのですが、果たして最後まで思惑通りに喋れるのか甚だ不安です。

出てくる料理、飲み物もじっくり味わえません。


あれやこれや悩んでいる内に新婦側の女性数名の祝辞が始まりました。

恐らく次は自分の番だろうと思いながら聞いていると、スライドに写真やイラストを写すという工夫したものでした。

彼女らの共同制作で新郎新婦を祝うメッセージです。

上手いものだと感心していると、途中で二人あてのポエムが現われ、一人が朗読し始めました。

招待客も聞き入っています。


この場に相応しい詩を誰かが創作したのだろうなと思ったその瞬間、頭に閃きが走りました。

そうだこれを使おうと。

そう思うや、昔作った詩を必死で思い起こしました。

もう時間はありません。

間際になっての予定変更です。

会場は拍手に包まれています。

どうやら新婦側は終わったようです。

案の定、次に司会者から私の名が呼ばれました。


なるようになれと思いながらマイクの前に立ちました。

スピーチの前半はN社横浜工場時代の新郎との関係を説明しました。

明るく饒舌であった彼に、寮長だった自分が大いに助けられたことにも触れ、感謝の気持ちも付け加え、なんとか予定通りに話すことが出来たようです。

そして、後半部分は当初予定していた内容を全てカットし、急ぎ頭に浮かんだ言葉が口から出ました


「先ほど、新婦のご友人が披露されたポエムは大変すばらしく感銘を受けました」


少し間を置き続けて、


「新郎側としても今日の良き日にあやかり、ポエムを朗読したいと思います。タイトルは春です」


そして思い出した詩をゆっくりと朗読。


 『さわやかな

  桜並木の川辺に

  燕の曲芸師がやって来た

  甘い蜜の香りと

  蝶の飛び交う背景が

  芝生の淡いカップルに

  愛の抒情詩口づさむ』


さらに、


「ここでのカップルはもちろんここにおられる新郎新婦のことです」


と締めくくりスピーチを終えました。

すると、会場からはかなり大きな拍手があり、なんとか面目を保つことが出来、胸を撫でおろした次第です。


けれども今から思うと季語が間違っていますし(さわやか→うららか)、稚拙な詩であったと恥ずかしい気がします。

けれどもお目出たい披露宴の雰囲気では詳細な内容よりも何となく明るい語調が受けたのでしょう。


披露宴が終わり、気を良くして帰京の途についた私は、昔ふとした成り行きで作った詩に助けられたことを、感慨深く思うと同時に、用途を思いつきました。

年齢的にも今後は披露宴に何度か招待されると推察され、その際に利用出来そうだと。

下手くそなスピーチをするより、事前にカップルのイメージに合った詩や朗読作品を制作する苦労はありますが、お祝いのメッセージとして相応しい気がします。

更に文書を読んでも非礼ではありませんので、間違える心配はありません。


その後、幾度か実行に移しましたが、ある程度注目を集めたように思います。

一方で自作の詩は、職場でお世話になった社員が、退職や転勤の際に、餞別としても役立ちました。

それが慣例のようになって、周りから半分冷やかしながら詩人と呼ばれたこともありました。

時には後ほど触れますが、エスカレートして小説を贈ったこともあります。

今から思えばパフォーマンスに過ぎたようで、赤面の至りです。

人によっては迷惑だったのかもしれませんから。


**

京都の実家には兄が趣味であるクラシック音楽のレコードやCDを多数保管しており、同時に文庫本も色々と購入していました。

自分も時折手にして、聞いたり読んだりしていました。

本に関しては小説が主で、ミステリー、時代小説、SF等多様です。


ある時、たまたま目に止まったのが、栗本薫作のSFファンタジー、グインサーガでした。

内容は、謎の豹頭戦士であるグインを主人公にした、戦闘あり恋愛あり、野望、生死その他の人間模様を描いた小説ですが、超能力者(魔導士)や魔物も登場し、面白い筋立てになっています。

文章は平易で誰でも読みやすく、関連地図も挿入され、コンスタントに巻を重ねてベストセラーシリーズとなってしまいました。

私も読み進んでいくうちに、魅力に惹かれて新刊を次々と購入するようになります。


そうするうちに、前例(コンタクト参照)と同様に自分も書いてみようという気になりました。

もちろんグインサーガのような壮大なストーリーは無理ですが、内容の一部を拝借しあらすじを作りました。

主人公はさる国の皇女とし、侵略者との戦闘で父王を亡くし、苦境に立った自国を救うために、鎖国中の隣国に侵入し、かつて許嫁であったが、今は暴君となった青年王に支援を求めるという内容で、最後に怪獣も現れ超能力を使用して戦う場面も描きました。

タイトルは『魔獣』としましたが、この時点ではこの作品が後々二十年にわたり書き続けることになった『デリアの世界』連載7話の原型になるとは思いませんでした。

もっともグインサーガそのものは、作者の栗本薫氏が亡くなった後も、後継作家が引き継ぎ、番外篇も含めると170話を超えているのは、驚くほかありません。


さて、その他にも現代小説、時代小説等の構想を練り書き始めましたが、丁度この頃はウィンドウズOSパソコンが普及し始めた時期に重なり、それまでの便箋への筆記具による手書きに代わって、モニターを見ながらのキーボード入力になりました。

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