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エッセイ  作者: 野原いっぱい
6/11

汚れちまった悲しみに(コンタクト)


挿絵(By みてみん)


大学卒業後就職し、横浜で寮生活を送りましたが、4畳半一間の部屋には必要最低限の荷物しか置いていませんでした。

トイレ、洗面所、炊事場、洗濯機、シャワー等は共同使用で食堂もあり、実家から持ってきた小机、布団類、カセットラジオ以外は、扇風機、電気コタツ、小型冷蔵庫等を現地で調達しました。

実家に仕送りをする必要があったため、受け取った給料も使い道は限られていました。

勤務先の工場と寮の往復以外の外出は控え目で、付き合いで飲みに行くことも滅多になく、分相応な生活の繰り返しだったと思います。

新聞も取っていませんでしたから、世の中の情報はラジオだけが頼りです。

けれども自然と耳に入ってきたのはポピュラー音楽でした。

当時は歌謡曲以外でも全盛期は過ぎていましたが、割合好きなフォークソングやグループサウンドの曲も流れていましたし、洋楽では既に解散したビートルズの曲もよく耳にしたものです。

後者はカセットに録音し何度も聞いていた記憶があります。

けれども、わざわざコンサートに聞きに行くほど音楽に夢中になることはありませんでした。


では、プライベートの時間は何をして過ごしていたのでしょう。

部屋にいる時はラジオを聴きながら雑誌や本を読んで時間をつぶしていました。

学生時代に読んでいたジャンプやマガジンのようなマンガ本は、社会人になって相応しくないと思い敬遠していました。

かといって純文学や啓発書の様な難しい書物は自分にとっては重荷です。

比較的読みやすいミステリー小説を手に取ることが多かったようです。

ただ、今でもそうですが細部まで熟読することはなく、ストーリーさえ把握できていれば、ページを読み飛ばすこともしばしば。

どうやら大雑把な性格が反映しているようです。

当時の流行作家である森村誠一の小説はよく読みましたが、特に愛読書があるわけではなく、本屋の書棚に洋書ですがエラリー・クィーン、ヴァン・ダインのミステリーが置いてあり、あらすじで気に入り買って帰りました。

ただストーリーの中には、宗教、哲学思想等も含まれており半分は理解不能だったようです。もちろんいずれも文庫本です。


さて、ある日横浜駅にある大きな書店に入った時、SFコーナーに「コンタクト」という本が置いてありました。

そのタイトルに興味を覚え、手に取って背面のあらすじを読むと、宇宙から送られてくる未知の信号に、メッセージが込められていることを発見、解読し行動するという内容。

作者はアメリカのカール・セーガンで面白そうだと思い購入しました。

ところが読んでみると、単なるSF小説ではなく、宗教、政治、科学分野の内容も含まれており難解なことこの上なし。

どうもこの当時手に取る洋書は自分のような凡人には、あまりに高尚で理論的過ぎるようです。

けれども、後々、映画化されるように宇宙及び地球外生命がテーマの作品は心惹かれます。

なんとか読み進めることが出来たのですが、一方では創造心の触発にもなったのです。

要するに、既存の小説を読むばかりでなく、自分が思い描いたストーリーを作ってみようという気になったのです。

特に熱中している趣味もなく、一人住まいでプライベートな空き時間はあります。

その場合、比較的発想が自由なSFが良いだろうと思いました。

もちろん、学生時代に作文が不得手だった自分に、果たして書けるのか甚だ疑問だったのですが、思い立ったが吉日、構想を練ってみることにしました。


第一作目は婦人警官と無人のスポーツカーが主人公の小説。

学生時代にバンを運転し家業を手伝い、反則切符を切られたことがあったから思いついたのでしょう。

辞書と首っ引きで、便箋に鉛筆と消しゴムを用い書き綴ったものです。

この当時はまだワープロは存在しておらず、手書きする以外なかったのです。

おかげでペンだこに悩まされることになります。

完結までにどれくらいの日数を割いたのか覚えていませんが、かなりの難作業だったはず。


二作目は「コンタクト」の着想を借用しました。

とはいっても人間心理の項目は避け、宇宙から送られてくる謎の電波という現象面のみ真似た上で、若干自分流に着色してなんとか物語に仕上げました。


ところが書いてはみたものの、誰かに読んでもらうわけではありません。

今のままでは暇つぶしの趣味にすぎないのです。

せっかく書き上げたのですから、評価を知りたいという気になるのは当然です。

そうだ、懸賞小説に応募しよう。

今から思うと大胆な発想でしたが、さっそく実行に移すために書店で調べると、ミステリーマガジンに募集の記事がありました。

詳しい要項は忘れましたが、もちろん推理小説で、原稿用紙数百枚程度にペンで記入と規定がありました。

今まで推理小説は結構読んでいたため何とかなるだろうと思い、とにかく構想を練ることにしました。


全体のストーリー、時代及び地域設定、もちろん登場人物、その他諸々。

ざっと、あらすじを決めた段階で、書き出しに取りかかります。

今までもそうでしたが、冒頭部分はなかなか骨が折れます。

最初の数行に長時間を要したり、何度も書き直したり。

いい作品にしようと思うあまり、逡巡するためです。

ただ、一通りクリアできれば、後は割合スムースに筆が運ぶようですが、途中でシナリオが変わったり、割り込みの文章が入ったりするケースもあり、一歩前進二歩後退の繰り返し。

しかも、相応しい表現を思いつかず中断したり、漢字を調べるのに辞書を何度も引くことも再三あり、はかどらないことこの上なし。

更に便箋への不慣れな手書き作業はかなり疲れが溜まります。

そして悪戦苦闘の末に、前二作よりはるかに長編の作品は、かなりの日数を費やして完結に至りました。まだ締め切りには間に合いそうで、原稿用紙を購入し推敲しつつボールペンで書き写していくのですが、実はこの時になって初めてタイトルを決めました。

『忘却』としましたが、当初の想定とは異なってしまいました。書いている途中でストーリーの変更があった結果です。

梗概も書き終えて作品を募集先に送付すると、達成感を抱くと同時に気が楽になりました。

多少の期待もありましたが、ズブの素人が書いた三文小説で、実力以上の高望みだったようです。

その後、待てど暮らせど音沙汰無し。

落選は仕方がないとしても、読んでもらったかどうかだけでも知りたいと思いましたが、下手くそな文字と文章では逆に批評を受けないほうが賢明だったかもしれません。


その後小説への関心が薄れてしまいます。

自己都合退職により横浜での寮生活を終えることになったことによります。

新たなきっかけで、再びペンを取るのはかなり先のことになります。

この横浜時代の経験が元になりますが、更に時代を経るに従って、ワープロ、パソコン、ネット、スマホ等IT商品の誕生により創作手段も変化していきます。


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