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ナイトショー


次の日。

昨日は魔物退治に明け暮れて、

結局宛てがわれた上層街の宿で

泥のように眠り、

1日が終わってしまった。

今日からはチェルシー団ではなく

1人でやっていかなくてはならない。

今まで踊り子として生業をたてていただけに

これからは依頼の毎日になりそうだ。

とにかく掲示板を見に行かないことには

仕事にもならないので

昨日衛兵が言っていた

下町の酒場に行くことにした。

上層街に来たばかりなのに

また下町に戻るなんて

思ってはいなかったが。

もしかしたらチェルシー団の

誰かに会うかもしれない。

そう思って軽い足取りで酒場に向かった。


「シェラ!」


酒場で私を呼んだのは意外にもアランだった。


「アラン!?どうしてここに?」


肩にブアルを乗せたアラン。

アランに会うのは久しぶりで

胸の高鳴りもどこか懐かしく感じた。


「酒場に掲示板が出来たって聞いてね。

見に来たのさ。

僕にも町のことに手を貸せるなら

手伝いたいし」


「それで来たのね。

私もよ」


「シェラ。来ていたのか。

それと、アランも」


私たちに話しかけたのは衛兵だ。

どうやらこの衛兵は

アランを知っているらしい。


「アランを知っているの?」


「なに、昔こいつはこそ泥だったのさ。

下町のパンやらを盗んで、

その後貧しい子供に配ってるのを見てな。

目を瞑ったのさ」


「よしてくれ、昔の話だろ。

今は足を洗ったんだ。

だからここに仕事を貰いに来てるんだろ」


「それは済まない。

早速だが仕事だ。

最近下町の壺売場に

どうやら壺を住処に決めた

小型の魔物がいるらしいんだ。

まずはそいつの退治をアランに任せる。


シェラは上層街にうろついている

魔物退治だ。

こいつは厄介でな。

すばしっこくて、すぐに逃げる奴だ。

よろしく頼む」


「わかった」


私とアランは衛兵に頼まれ、

それぞれ魔物退治に向かった。


「ところでどうしてシェラは魔物退治に?」


「実は昨日踊り子から転職したのよ。

衛兵に頼まれてね」


「それはすごいや!

衛兵からの頼みなんて、下手したら

王様本人からの依頼も来るんじゃないか?」


「それは流石にないと思うけど」


アランと久しぶりに話して

この胸のドキドキとした

痛みもだいぶ心地の良いものに思えて来た。

これは一体何なのだろうか。


「はは、流石に言い過ぎかな?

それじゃあ僕はこっちだから」


アランと別れ、上層街へ向かう。

また会いたい、と思いながらも

私は魔物退治へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


仕事を終えて、酒場に戻る。

衛兵に次の仕事を貰おうと思ったが

衛兵の姿がない。


「何処行ったんだろ」


私は掲示板を見ると

依頼終了の判子の押された

依頼の紙を見て

アランの仕事の終わりは

まだかと探したが

まだ判子の押されていない紙を見て

もしかしたら仕事が終わったら

彼が来るかもしれないと

胸が高鳴った。


「ああ、シェラか。

もう終わったのか。

早かったな」


衛兵がどこか忙しそうに酒場に来た。


「何かあったの?」


私が衛兵の姿に不思議に思って聞くと

衛兵は顔を曇らせた。


「いや、それがな。

アランが捕まったんだ」


「え!?魔物に?」


「いや、魔物じゃない、俺たち衛兵の仲間だ」


「どうして!?」


「仲間の話だと、王女誘拐らしい」


「アランが!?

アランがそんなことするはずない!

何かの間違いよ!」


「俺もそうだと思いたいがな。

どうやら現行犯逮捕らしい。

言い逃れはまず難しいだろう。

今は王宮の地下牢に閉じ込められているらしい」


衛兵はそう言うと古ぼけた紙を

私に手渡した。


「これは?」


「王宮の地下牢に行く地図だ。

シェラ、お前はアランと付き合いが長いんだろ?

会いに行ってやってくれ。

処刑がされるかはまだわからないが、

顔を見せてやるといい」


衛兵の言葉に私は地図を預かると、

急いで王宮の地下牢に向かう為

酒場を出るとブアルが足元にいた。


「ブアルも一緒に行こう!」


私はそう言うとブアルは嬉しそうに

私の肩に乗った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王宮の地下牢に行く為には

まずは下町の地下水路から上がり、

そのまま王宮の地下水路から

地下牢まで抜けて行く。

石壁に手枷の付けられた状態のアランが

そこにはいた。

ブアルが地下水路の柵を楽々飛び越えて行くと

器用に口だけで手枷のピッキングをしたのか、

アランの手枷はすぐに外れた。

砂漠フェレットであるブアルに

こんなことを教えたのはたぶんアランだろうが、

見なかったことにしよう。


「ブアル!来てくれたのか」


アランが面目なさそうに言うと

ブアルは嬉しそうにアランに頬ずりした。


「よし、ここから出よう。

出口は……」


「ここじゃよ」


アランに話しかけようとしたが

それを遮ったのは老人だった。


「あんたは?」


「何、ただの囚人じゃよ。

あんたと取引したいんじゃ」


「取引?」


「わしはあるモノを探しておる。

それをお主に取って来て欲しいんじゃ。

代わりにここから出してやろう」


「ここから?

それで、取引って?」


「何、簡単じゃよ。

ここから西に向かった砂漠の先に

洞窟がある。

そこにわしの大切なポットを

落として来てしまったのじゃ。

それを取って来て欲しい。

何分、もう歳じゃから

そこまで行く足がないんじゃ」


「なるほどな。

それで、ここからはどうやって出るんだ?」


アランは老人の取引を受け入れたのか

出口を聞いた。

老人は杖でゆっくり歩くと

石壁の一部を杖で押した。

そうするとゴゴゴゴゴ、という

鈍い音を立てて石壁が扉のように動き

そのまま下へ崩れると

そのまま階段のようになって

出口が出来たのだ。


「よし。それでその洞窟は

西の砂漠にあるんだな?」


「そうじゃ。よろしく頼む」


老人と一緒にアランが出て行く。

私も尾行することにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


都市、アルリアから西へ砂漠を越えて行くと

オアシスの先にその洞窟は確かにあったが

おおきな岩で塞がれていた。


「じいさん、岩で閉じてる。

どう入るんだ?」


「おかしいのう。

前はここにブローチを

はめ込むことでこの洞窟に

入ったのじゃが。

何処ぞの誰かがそれを持ち出して

売り出したのじゃろうて。

何せあれは金で出来ておるからな」


アランと老人の会話に

そのはめ込み口の形をよく見ると

以前シェルイラが客に貰ったという

あの歪な形をした物が頭に浮かんだ。


「アラン」


「シェラ!?どうして君がここに?」


「本当はブアルと一緒に来てたんだけど

出て行くタイミング逃しちゃって。


そんなことよりも

これなんだけど」


私はポケットから老人の言っていた

ブローチであるものを手渡すと

老人は目を輝かせた。


「それじゃな!

お主何処でこれを?」


「妹が貴族の人から貰ったと言っていました」


「なるほどな。

やはり商人が売っておったか」


老人はそう言うとアランはそのブローチを

はめ込み口にカチリ、とはめた。

そうするとゴゴゴゴゴ、と音をたてて

岩が上へと上がって行き、

岩壁から洞窟へ姿を変えた。


「まるで魔法みたいだな」


「そうだね」


「わしはここで待っておる。

ポットを持って必ず戻って来るんじゃよ。

あれは婆さんの形見でな。

心底大事にしておったが

ここで落として来てしまって

ずっと心残りだったのじゃ」


「それは大変だ。

早く行こう」


アランはそう言うとそのまま行こうとした。


「私も行くよ」


「君も来てくれるのかい?

それは心強い。

よろしく頼むよ」


アランの言葉に

まだ一緒にいたかったなんて

口が裂けても言えないので

だまってついて行くことにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これはすごいや」


アランの言葉も最もだと思う。

洞窟を降りて洞窟の地下に進むごとに

財宝という財宝が次から次へと出て来る。


「あれ?今何かいた?」


私が何かの気配を感じて

後ろを振り向くが何もいない。


「もしかしたらここにも魔物がいるかもしれない。

気をつけて行こう」


アランの言葉に私も気を引き締め治そうとするが

やはり先程の気配が気になって振り向くと、

金の糸の素材で出来たであろう

豪華な絨毯が空を舞っていたのだ。


「あれってもしかして

魔法使いが物を浮かす術を使うけど、

何もなくても普通に動いてる。


魔法の、絨毯か」


アランが驚いた様子で言うと

私も釣られてまじまじとそれを見た。


「おいで。怖くないよ」


アランがそう言うと

魔法の絨毯はそのまま

久しぶりに来た客を喜ぶかのように

宙に浮き続けた。

ちなみにブアルはビビってアランの肩に

必死な様子でしがみついていた。


「もしかして君はここには詳しいんじゃないかな?

実はポットを探しているんだ。

昔、おじいさんが落としたらしいんだけど

心当たりはないかな?」


アランはそう聞くと

魔法の絨毯は心当たりがあるようで

そのまま背中を私たちに向けた。


「もしかして、乗れってこと?」


私がそう言うと絨毯はどこか嬉しそうに

ゆらゆらと揺れていた。


「行こう」


アランと一緒に絨毯に乗ると

そのまま飛んで行く。

空中飛行は人生初で少しだけ怖かったが

慣れれば案外心地良かった。

それよりもアランとの距離が近すぎて

ドキドキと胸の高鳴りがうるさくて、

それどこではなくなってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大きな祭壇のようなところに

ポットは洞窟の隙間の月明かりを受けて

キラキラと光り輝いていた。


「僕が取って来るよ。

君たちは待っていて」


アランはそう言うと絨毯から降りて

祭壇の階段を上って行く。

その光景を見ていると

ブアルのいないことに気づいた。

何処に行ったのだろう、と思って

周りをキョロキョロと見渡すと、

鬼のような銅像の近くにブアルはいた。

どうやら鬼のような銅像の手に

飾られている巨大な真紅の宝石が

気になったようで、

そこに映る自分の顔をしげしげと

眺めていた。

それを見たらしい絨毯が

急な動作でブアルを止めに行く。

いきなりのことで私は驚き、

その場を動けずにいると、

急に近づいて来た絨毯に驚いた

ブアルがその宝石を落として割ってしまった。

そうすると、ゴゴゴゴゴ!

という強烈な音と地響きに足元を

揺さぶられて思わずアランを見る。

どうやらポットを両手に階段を急いで

降りて来ているところだったようで

まるで落ちるように階段を駆け下りる。


「アラン!」


私は急いでやって来た絨毯に乗り、

ブアルを抱えるとアランを呼んだ。

アランはそのまま勢いで私の乗っていた

絨毯に飛び込み、

その弾みで抱きついたようになってしまい、

急に動悸が酷くなった。


「ありがとうシェラ!

脱出しよう!」


アランの言葉に正気を取り戻すと

熱くなった顔を悟られないように

前を向いた。

絨毯の上でのアランとの距離が近過ぎる。


「おい!無事か!」


出口で老人が手を伸ばすが、

落ちて来た岩が絨毯に当たる。


「きゃああああ!」


その反動でバランスを崩した私は

そのまま真っ逆さまに落ちて行った。


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