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トラブルショー


アランとブアルが無事再開出来たことによって

もう私はアランと一緒に

赤い魔物を探すという同じ目的は

なくなったわけだ。

だからいつものように会って話をすることも

ないだろうと少しだけ胸が苦しくなるのを

忘れたくて、毎日のショーに精を出していた。


「ここがチェルシー団か?」


そう言って私たちのいる宿まで

来たのはこの国の衛兵だ。

ターバンを巻き、黒く丈夫そうなベスト、

ふっくらとした砂漠特産の白いズボンに

腰にはサーベルが剥き出しの状態で

ぶら下がっている。

いかにもガタイの良さそうな大柄の男と

痩せ型の男が来ていた。


「…えっと、何か用ですか?」


おどおどと声をかけたのはユチナだった。

なんだなんだ、と奥から

セリーナとフブが顔を覗かせている。


「いつも魔物退治をしている娘はいるか?」


「私?」


その衛兵が指名したのは

何故か私だった。

私の予想ではシェルイラと一夜

過ごしたい、との指名かと思っていたが

どうやら違ったようだ。


「ああ、お前か。

実は最近下町はおろか、

上層街まで魔物が来ている。

そこでひとつ依頼がしたいんだ。


お前に上層街で魔物を退治して欲しい。

その代わり、報酬は高く出す」


「上層街に私たちチェルシー団が?

私たちの団は庶民向けよ?

上層街の貴族の人達が喜ぶとは

とても思わないわ」


「それはあくまで魔物退治ショー

の話だろう?

そうではなく、本格的な魔物退治だ。

正直衛兵たちではもう

手が足りなくなって来ている。

猫の手も借りたいほどにな」


衛兵たちはため息をつきながら

悩ましげに依頼を出して来た。

ここは便利屋ではない。

いわばサーカスのような、芸人集団だ。


「シェラが行くのには

ひとつだけ条件を付ける」


私たちの話を聞いていたらしい

ドルイラさんが唐突に

腕を組んで奥から出て来た。

どうやらセリーナとフブが

ユチナを連れて呼びに行ったらしい。


「条件とは?」


「下町でも魔物が出る状態なのに

戦力を奪われるのは

下町の人達にとってもデメリットだろ?

だから下町の腕に自信のある奴らにも

魔物退治を手伝わせるのさ。

そして下町がある程度平和になれば

上層街にも魔物は出ない。

その為にまずは掲示板を立てるのさ」


ドルイラさんはカウンターの近くにある

椅子に座りながら条件を提案した。


「掲示板なんか立ててどうする」


「依頼人が依頼を紙に書いて、

掲示板に貼るのさ。

そしてその依頼者から報酬をもらう、

いわばクエストさ。

これが成立すれば給金の貰えるクエストに

腕のたつ奴らが好き勝手に

依頼を受け持ってくれるシステムさね」


「我々がこうして直に

依頼をして回る手間が省ける、

というわけか」


「そうさ。

国王さまにでも頼むといいさ。

最近魔物の出現率は目を余るものなんだろう?

民の命が危ない状態を放っておけないなら

二つ返事で許可するはずさ」


「ドルイラさん、それと

うちのシェラが上層街に行くのに

なんのメリットがあるんですか?」


ドルイラさんと衛兵の間に割って入ったのはフブだ。

フブは納得いかなさそうな顔をして

ドルイラさんに盾突いていた。


「メリットならあるさね。

この掲示板を立てたのは

チェルシー団とその衛兵。

つまり、チェルシー団の宣伝も

ついでに掲示板ですればいい」


「つまり、魔物退治による

ショーをしなくても

掲示板で宣伝出来るってことね」


ドルイラさんの言葉に

眠たそうな顔したシェルイラが

階段を降りてきた。


「そう言うことさ」


「それなら私は賛成。

掲示板の影響が

下町の人達全土に渡って告知出来るなら

それで稼げそうだし?


踊り子役の代わりは私がやるよ」


シェルイラはどうやら

私が上層街に行くのを賛成しているらしい。


「いいのか!?

お前の姉ちゃんだろ!?」


「何熱くなってるの?

引くわー」


フブが怒っている中、

シェルイラは水を木製のコップについで飲んでいた。


「まあまあ、フブ。

ここはシェラの意見も必要でしょ?

シェラはどうしたいの?」


セリーナがフブを宥めながら

私に聞いて来た。


「私…?」


「そ、そうだよ。

シェラが嫌なら、行く必要、ないよ…!」


ユチナが慌てたように

私の横に来た。

衛兵たちはドルイラさんの条件に

承諾したのか私の顔を見ている。


「私は……」


「行って来なさい、シェラ」


私の言葉を覆うように言ったのは

団長だった。


「シェラ、上層街で学ぶこともある。

下町で学べなかったものを

学んで来るといい。

そして帰って来てから聞かせてくれ。

お前の見て来たものを」


団長は大きな手のひらで

私の背中を押した。


「団長殿、感謝する。

掲示板の件、必ずや国王に

実現して貰いましょう。


してシェラと言ったか?

準備が出来たら上層街の門まで来てくれ」


衛兵はそう言い残すと

宿を出て行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「シェラ、支度はこれでいいの?」


セリーナの言葉に

私は軽く頷いた。

直ぐに魔物と戦えるような

身軽な服装を選んだつもりだし、

サーベルも手品用ではなく本物だ。


「上層街の宿を借りる予定だし、

そんなに大荷物で行くのは

大袈裟だよ。

それにたまには様子を見に

戻って来るつもりだし」


私は生活に必要そうなものだけを激選し、

布にまとめて思い出の品などは

箱に詰めて置いて行くつもりだ。


「なんか上層街?って

どんなとこなんだろうね?

あんまり実感無いって言うか」


「まあ実際知らないからね」


セリーナの言葉に私は

下に降りながら返した。


「シェラ!」


厨房に着く前にフブに呼び止められる。


「フブ?どうしたの?」


「嫌になったら

いつでも帰って来いな!

絶対だぞ!」


フブは少しだけ泣きかけているのか

目が潤んでいた。


「結構人情家なのね?」


「失礼な!

俺は優しいだけだ!」


「自分でそれを言うかねー?」


私が呆れたように言えば

フブはやけくそになって返し、

セリーナは少しだけ呆れていた。


「シェラ。

上層街でしっかりやるんだよ!」


「が、頑張ってください…!」


「後のことは俺たちに

任せてくれ」


ドルイラさんが

ユチナと団長さんを引き連れて

見送りに来てくれたようだ。


「ありがとう、皆」


「あれ?シェルイラは?」


「え…?見てない、ですけど」


セリーナとユチナが

シェルイラを呼びに行こうとする。

たぶん、あの子は見送らないつもりだろう。


「いいよ、私…もう行くから」


「シェラ」


皆の行ってらっしゃい、という

言葉を背に私は宿を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


上層街の門の前まで来ると

私は門を見上げた。

相変わらずここの門は大きい。


「お姉ちゃん」


シェルイラの声がして振り返ると

シェルイラが近づいて来て、

私の手のひらに何かを握らせた。


「…あげる。

それじゃあね」


シェルイラはそう言うと、

そのまま宿へ戻って行った。


「シェルイラ……。

久しぶりに、お姉ちゃんって

呼んでくれたね」


私は呟くと手のひらを広げる。

手の中にはしずく型の

硝子のペンダントと紙くず。

妹にちゃんとしたものを

貰うのは初めてだと

思いながらもおもむろに紙くずを広げると

文字が書いてあった。


『これでお姉ちゃんが

魔物退治しなくてよくなるなら

無事でいられるなら

これでいいと思ってる。

死なないで』


たった少しの短い文章に

少しだけ涙が出そうになったが、

それを押し止めてそのペンダントを身につけた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああ、お前か。

早速国王さまに頼んで

掲示板を立ててもらうことにした。

下町の広場にある酒場に

大きいのをな。


早速だが上層街の魔物から

倒して行って欲しい」


衛兵が門の前で私に話すと

私は頷き、そのまま上層街の門をくぐった。


「ひとまずお前のこれから泊まる宿まで

魔物を倒して行ってくれ。

明日からは掲示板の依頼も一緒に

やらねばならんしな」


衛兵はそう言うとサーベル片手に

上層街へ駆け出して行った。

私もそれに続いて行く。

結局宿に着くまで色んな魔物と戦い、

上層街の貴族の人たちに

怪訝そうな顔で見られてその日は

終わってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


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