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パレードショー


アランが再びあの赤い魔物を追って

砂漠へ旅立った後、

その日の公演はいつになく

大盛り上がりで幕を閉じた。

たぶん昼間の魔物退治の宣伝が効いたのだろう、

いつになくお客も多かった気がする。


「ねぇシェラ、これあげる」


シェルイラが下着姿のまま

休憩している私の手のひらに

ピカピカ光る金色の歪な形をした

ブローチのようなものを落とすように渡して来た。


「なにこれ?」


「知らないわ。

上客かと思って相手してあげたけど

こんなガラクタ寄越すんだもん。

寝て損したわ」


シェルイラは性懲りもなく

また客とよろしくやって来たようで

そのまま寝室へ行ってしまった。


「いつも変なのしか寄越さないんだから」


私はため息をつき、

自分も寝室で寝ようと

宿屋の厨房を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「昨日!あれだけ止めたのに!お前は!」


朝一番にフブに怒られながらも

朝食を口に運ぶ。

そんなこと言われても商売なんだから仕方ない。


「やめときなよフブー。

シェラのこれは病気なんだから

治らないって」


「病気って…」


クルクルと茶髪の毛先を

いじりながら言うセリーナに

乾いた笑みをこぼすユチナ。

フブは未だに説教中だが、

私はスルーを決め込む。

フブは1度説教し始めるとやたら長いのが傷だ。


「とにかく無茶しないようにやるから大丈夫、大丈夫」


私はそそくさと厨房を後にし、

自室でパレードの支度をしようと思っていた。

その時だった。

ドスドスと足音を立てて来たのは

ドルイラさんだ。


「シェラ。あんたに客だ。男だよ」


「「「はあ!!?」」」


ドルイラの言葉に3人の叫ぶ声が聞こえた。

私は眉間に皺を寄せながら、

宿の玄関先に向かう。


「やあ、シェラ」


「アラン!?どうしてここが!?」


「町の人に聞いたんだ。

踊り子のいる団の泊まり先は?ってさ」


「な、なるほどね…。

何か用?」


アランの思わぬ登場に

私はドキドキと高鳴る胸元を抑えて

アランの用件を聞いた。


「実は、あの赤い魔物と関連あるかと思って

砂漠の先でこの赤玉を拾ったんだよ」


アランはポケットから

キラキラと赤く光る手のひらサイズの玉を

出すと私に見せた。


「それで、見つかりそうなの?」


私はアランの顔色を伺うが、

アランの顔色は酷くやつれているように見えた。


「…ううん。

ブアルのことはもちろん助けたい。

でも手がかりになりそうなものが

これしかないんだ」


アランは酷く落ち込んだように言った。

大切な友達を攫われたのだ。

落ち込むのもわかる。

けど、いつも私と会うアランは

優しくて明るかった、そんな人だった。


「アランらしくないよ」


「え?」


「アランは会う度に

変わらない優しさと明るさで。


そんなアランに私は少なくても

元気を貰っていた気がするの。


だから、諦めないで。

一緒に探そう」


「…ありがとう、シェラ。

そうだよな。僕らしくないよな。

…よし、なんだか元気が出て来たぞ。


ところでどうやって探すんだい?」


「私に考えがあるわ」


アランの問いに私はニヤリ、と笑った。

それを壁から見ていたらしい

ドルイラさんとフブ、セリーナにユチナ。

フブは何やら悪寒がしたのか

顔を青くさせていた。

感の鋭い奴め。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんで俺こんな格好なの!?」


「いい、フブ。

今から適当に剣術教えるから

急で悪いけど覚えて!」


「無理無理無理無理!!

俺剣とか握ったことないし!

俺が握るの自分の

アナログスティックだけだし!」


「問答無用!」


ひええええ!という情けないフブの声と

手品用のサーベルを振りかざす私を

面白そうに見ているセリーナと

不安そうに見ているユチナ。


「本当にこんなので大丈夫なのかい?」


「あら、あの赤い魔物は

私たちが幻影倒した時に

ケタケタ笑ってたわ。


私たち人間に近い感情を持ってる。

だから、きっと食いつくはずよ」


アランの言葉に私は確信をつくように答える。


「それに、何もしないよりはいいでしょ?」


にっ、と笑いながら言うと

アランは安心したように笑い返してくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本日のチェルシー団のショーは

なんと劇形式だよ〜!!

お見逃しなく!」


団長さんとドルイラさんが

玉乗りやらジャグリングやら

炎吹きやらを派手にやったおかげか

昼間の広場は人がわんさかいた。


「こ、こここ、こんなんでほんとに大丈夫なのか!!?」


初めての剣術演技で緊張しまくっているフブを

尻目にフブの衣装を治していく。


フブの格好は頭に箱をギラギラのカラフルな砂を

塗りたくって加工したものを被せ、

シェルイラが要らなくなった

少しだけボロボロになった宝石や

ネックレスなどのアクセサリーをその箱にくっつけ、

最後に硬貨の入っている袋をイメージして

作った袋には実際ユチナが趣味で集めた

瓶の蓋が入っているものを箱に詰める。

これを帽子のように被ってもらうのだ。


さらにフブには真っ赤な衣装を

盗賊風にセリーナがリメイクしたものを着せ、

手には手品用のサーベル。

これで完璧にあの赤い魔物を再現してみせたのだ。


「いい。フブ?

思いっきりやるのよ?

手加減したら…

シェルイラが教えてくれた

あのこと、バラすわよ?」


「は!?お前何聞いたの!?」


「ふふ…。

シェルイラに聞いたら?」


「……。」


フブはどうやら心当たりがあるようで

みるみる顔色が青ざめていく。

実際はシェルイラから

フブの弱味を握っていることしか

聞いてなくて、内容までは知らないのだが

脅しは成功したので気にしないことにした。


「さあ、ショーの始まりよ!」


私はそう言うと、フブを広場に押し出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うおおお、ここの町から

襲ってやるー!」


「あの兄ちゃん魔物役か!

すげえ出来だな!」


フブの棒読みに近い台詞に

客が拍手する。

序盤の掴みは良いようだ。


「この町の宝は俺のもんだー!」


「やめなさい、赤い魔物!」


最早やけくそになっている

フブの投げやりな台詞に

私は手品用のサーベルをフブに向けながら

登場してみせた。


「これ以上ダサくてカッコ悪くて

見ていられない行為はやめることね!」


「誰がやめるかー!」


「いいぞ、姉ちゃん!」


私の登場により観客はわっ!と湧き、

そこらじゅうから拍手が起こった。

まあ実際いつも下町では

私が魔物相手に戦っているから

いつものノリだろう。


「くらえ!」


フブが私の教えた通りにサーベルを振り、

私はそれを素早く交わし

サーベルをガキン!と鳴らした。

バトルを盛り上げる為か、

普段打楽器のやらないセリーナとユチナも

太鼓などで音を鳴らす。

どんちゃん騒ぎだ。


「これでお終いよ!」


「ぐわあああ!」


私がフブの脇腹に向かって軽くサーベルを当てると

フブは大袈裟に叫んで倒れた。


「いいぞー!」


「ブラボー!!」


「またやってくれー!」


観客は喜んだようで、広場は大盛り上がりだ。

そして、獲物は釣れたようだ。


「おい!あれ!本物の魔物だ!」


客の1人が指差すと

建物の上にこちらを見下ろす形で

現れた赤い魔物。


「すごい、シェラ!本当に来た!」


隠れて待機していたアランがすぐさま

赤い魔物の目の前に行くと

赤い魔物は怒っているのか、

奇声を上げた。


それもそうだ。

自分の役をやっているフブが倒れれば

魔物だって自分がやられたと思って

バカにされた気分になり、

ムキにだってなる。


だからやったのだ。


この公演で赤い魔物役のフブが

倒れることによって

この赤い魔物が怒って現れると

私が思いついたんだから。


「アラン、そのまま行って!

私も直ぐに向かう!」


アランが先に赤い魔物と交戦している隙に

チェルシー団全員で客を非難させ、

私はアランのいる建物を駆け上がる。


「もう観念してブアルを返すんだ!」


アランの言葉を無視し

怒りに任せて赤い魔物は突進した。

アランは上手いこと避け、

サーベルを構える。


「アラン!伏せて!」


私が赤い魔物の視覚から

サーベルをぶん投げると、

命中したのか赤い魔物が発狂した。


「シェラ、危ないよ」


はは、と笑いながら言うアランに

私はごめん、と謝る。

そうこうしているうちに

赤い魔物は深手を負った状態で逃げて行く。


「待て!」


「アラン、ストップ!」


追いかけようとしたアランの目の前に

次々と別の小さな魔物が湧いて出て来たのだ。


「くそ!」


「アラン、私はあっちを片付けるわ!

貴方も片付け次第追って!」


「わかった!

国の門で待ち合わせだ!」


アランは赤い魔物を追いながら

他の魔物もなぎ倒して行く。

私は建物から下町に降りながら

町の人達を守りながら戦った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アラン!赤い魔物は!?」


「後少しのところで逃げられた…!

これじゃあ、いつまで経っても

ブアルを救えない」


私が国の門へ向かうとアランが落ち込みながらも

状況を説明してくれた。

あらかた町の方の魔物は退治出来たものの、

肝心の赤い魔物に逃げられては

意味がない。


「…ねぇアラン。

貴方のポケット、光ってない?」


私がアランのポケットが赤く

光っているのを指差すと

アランは不思議そうな顔をして

ポケットから赤玉を出した。

赤く光る玉は砕け散り、

そのキラキラと光ったガラスの破片が

どんどん砂漠の方へ向かって行く。

あれは風のせいなどではなさそうだ。


「あの赤玉の破片…、

もしかして赤い魔物のところに

案内してくれているのか!?」


アランは立ち上がると

キラキラと輝く赤玉の破片を追って行く。


「アラン!あれ、見て!」


国の外の砂漠の岩陰で

休んでいるらしい赤い魔物がいた。


「いた!ブアルを返せ!」


アランのサーベルが見事に

赤い魔物に命中し、

魔物は甲高い声を発し、

手に持っていたサーベルを

アランに目掛けて振りかぶった。


「アラン!」


私は間一髪のところで

赤い魔物のサーベルを止めると、

赤い魔物は後ずさり、

逃げようとした。


「シェラ!」


アランの呼びかけに私は頷き、

2人のサーベルで赤い魔物目掛けて

突っ込んで行った。

赤い魔物は奇声を上げ、

砂のように消えた。


「やったああ!」


アランが私に抱きつく。


「ちょ、ちょっと!

ブアルって子は!?

探してるんでしょ!?」


私は慌てながら聞くと

アランはハッとしたように

周りを見渡す。

するとヤシの木の下に

少し大きめの木箱が

ガタガタと動いているのがわかる。


「まさか…」


アランが木箱を乱暴に開けると

その中から出て来たのは

フェネックという砂漠地方のキツネだった。


「か、可愛い!」


「シェラ、紹介するよ。

僕の友達のブアルだよ」


ブアルは少しだけ警戒していたが

アランが大丈夫だと言うと

警戒心を解いてくれたようで

直ぐに頭を撫でさせてくれた。


「良かったね、アラン。

ブアルが無事で」


「ああ、シェラのおかげだよ」


ありがとう、と言うアランと握手をし、

私たちは町へ戻って行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


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