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ショータイム




チリチリと身を焦がす太陽が今日も眩しい。

気温も手伝ってか喉が異様に乾くのは

この砂漠の都市、アルリアではよくあることだ。


私、シェラはこの砂漠の都市、アルリアで

踊り子として生計を立てている

齢20の何処にでもいるような女。


ひとつ違うと言うならば。


「わああ!!魔物だあ!!」


叫ぶ人々の声をかき分けて、

目の前にあった武器屋のおっさんの腰から

サーベル2本を慣れた手つきで借りる、もとい盗むと

魔物目掛けて素早く一刀両断した。


周りは一瞬シン、と静まり返ったが

やがて拍手が湧き、

姉ちゃんやるな!

と声をかけられたりした。


「どういたしまして。

もし良かったら今宵の

チェルシー団のショー、

見に来てくださいませ」


私は声かけしながらさりげなく武器屋さんのおっさんに

落としましたよ、とサーベルを手渡して

なんでもない顔でその場から去って行く。


そう、どこにでもいる女の子は

魔物目掛けて飛び掛かったりはしないのだ。

この素早さと手癖の悪さが何の取り柄になるかと思えば、

我がチェルシー団のショーである

踊り子役と手品役を任されたのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜の砂漠は昼間とは違い不気味な程に涼しい。

都市の広場に大きな松明を掲げ、

チェルシー団の団員たちが楽器を鳴らす。

その音楽に合わせて踊るのは

私の役目だ。


「いいぞー、姉ちゃん!」


フィナーレに団長が口に松明の火を突っ込んで、

ボオオオッ!、と勢いよく口から吐き出せば

周りから溢れんばかりの拍手が湧く。


「最近では魔物の出やすい近況になりつつあるが

その中でも希望を忘れず、

生きていくことをこのチェルシー団は

続けていきたいと思う」


団長の真っ直ぐとした瞳に

観客の拍手は鳴り止まない。

今日も稼ぎは良さそうだ。


これが私の日常。

この日常は変わることがないと

いつまでも続いていくものだと思っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝方。

いつもより砂嵐が吹き荒れる今日は

あまり商売には向いてない日になりそうだ。

昼間の公演までに砂嵐が

やんでくれればな、と思いながら

石造りの宿の窓のカーテンの布切れを開ける。

薄いブルーの空に相反するかのような

黄金色が目立つ大きな宮殿。

いつかあの宮殿でチェルシー団が

公演する日を夢見て私たちは

今日までショーを出来たら、と思っていると

窓の外に人影が3つ。


なんだろう、と思いつつ

団長から以前ショーの成功を祝って貰った

双眼鏡を机から取ると

それで見てみた。


ひとつの影は人型の赤い魔物。

サーベル片手に頭の上に乗せた財宝。

たぶん、どちらも何処からか

盗んで来たものだろう。


もうひとつの影はあまりに小さい。

動物か何かだろうか。

それはすぐさま赤い魔物に捕まり、

その赤い魔物は逃げていく。

その後を追うのは1人の青年だ。


下町の人なのか、慣れたように

屋根から屋根へと走っていく。

私は気がついたら部屋にあった

マジック用の杖を持って

宿を飛び出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「待て!ブアルを返せ!!」


声のする方へ向かうと、

先程双眼鏡で見えた青年らしき人物がいた。

となるとその先に赤い魔物がいるということだ。


「くそ、このまま砂漠に逃げる気だな!」


青年は屋根の上から下町の市場へ降りると

私はそのまま着いていくことにした。


すると、目の前に新しい魔物が飛び込んで来た。


「危ない!」


私は軽い身のこなしを利用して

その場に飛び込むとマジック用の杖を

魔物目掛けて振りかざした。

ドスッ!、と鈍い音を立てて

その魔物は消滅していく。


「ありがとう。君は?」


「シェラよ。貴方は?」


「僕はアラン。お礼をしたいところだけど

急いでるんだ!ごめんね!」


アランと名乗った青年は

そのまま先程の赤い魔物を追うつもりだった。

だが目の前から先程の赤い魔物はいなくなっていた。


「くそ、どこに行ったんだ」


「何があったの?」


「…実は、俺の大切な友達が

攫われてしまったんだ。


絶対助けてやるんだ」


「…手伝う?」


「君が?

…気持ちはありがたいけど、

この先の砂漠は女の子には危険だよ」


アランの言葉にドキ、と胸が痛む。

女の子扱いなどこの方されたことがないからか

調子が狂うのだろう、と思い

胸の痛みは無視した。


「…そう。

気をつけてね。

友達、取り返せるといいね」


「ありがとう。

何かあったらまた助けて貰うことに

なるかもしれないね、今日みたいにさ。


その時はよろしくね」


アランはそう優しく私に返すと、

そのまま砂漠の方へ走って行った。


「…変なの」


私はポツリと呟きながら

胸を抑えて宿に戻る。

ドキドキと痛む胸に呟いたその声は

誰にも聞こえることもなく

砂漠の砂嵐にかき消されていくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「シェラ!何処に言ってたんだい!」


団長の奥さんであるドルイラさんは

見事な赤毛を三つ編み2つを鬼の角のように

逆立てながらめちゃくちゃ怒っていた。


「えーと、朝方魔物が出てたのを

発見しましてですね。

退治しようと思って追っかけてました」


「アンタ!仮にもチェルシー団の

大事な要役が魔物退治で

うちの宣伝するのはいいことだけど!

無理はするんじゃないよ!」


大きな手のひらで私の背中をバァン!と叩くと

ドルイラさんはふんす、ふんすと

鼻から息を荒々しく吹き出しながら

宿の厨房へと朝食を取りに行った。

要は心配してくれているのだ。


「シェラ、またあんたやらかしたの?」


茶化すように私に声かけたのは

チェルシー団の打楽器担当であるセリーナだ。

クルクルと巻いた茶髪と

ソバカスの印象的な女の子だ。


「物好きだよね、魔物倒して宣伝って。

まあ、うちらの演奏でのパレードラン

よりかは人気だからいいけどさ」


ぶつくさといいながらも

朝食を口に放り込むのは

チェルシー団横笛担当のユチマ。

眼鏡をかけた彼女はオレンジ色に近い髪色を

ミディアムに切りそろえ、カチューシャの

印象的な小柄な女の子だ。


「程々にしといてくれよぉ?

ドルイラさんの愚痴聞くの

俺たちなんだから。

せめてどっか行くなら置き手紙の

ひとつくらい置いて行ってくれよ?」


困った顔をして朝からエールを飲むのが

チェルシー団弦楽器担当のフブだ。

たぶん、団長に2代目を任されることに

なるのはきっと彼だろう。

なぜなら最近団長に炎の吐く練習に付き合わされ、

別の汚い嘔吐物を晒したのだから。

そこそこの苦労人である。


「ごめんごめん。

なんか気になっちゃってさ」


私が腰掛けると同時にドルイラさんは

朝食のトレーを私の目の前に置くと

静かに去って行く。

その去って行った後には団長がいた。


「シェラ。俺たちに何か言うことは?」


「スミマセンデシタ」


0,何秒の速さで即座に土下座した。

チェルシー団では団長には逆らわないのが1番だ。

逆らったら最悪死に至る。


「お姉ちゃんの騒動でまた荒れそうだね?」


声のした方を見ると

私に似ても似つかない妹であるシェルイラがいた。

私の黒い髪とは似つかないグレーのかかった髪。

私よりも実際踊り子としては才のあるくせに、

いつもサボってショーには出ず

気に入られた客から賄賂だけ貰って

帰ってくる問題児だ。


まあ、彼女は私よりも

プロポーションがものすごくいい。

むしろシェルイラが姉と間違われるのは

日常茶飯事に近いが

最近シェルイラはショーに出ずに

観客側からお金を巻き上げているので

比べられることはなくなったのだが。


「シェルイラ、あんたには言われたくない」


「ただのお小遣い稼ぎに

何反感してんの?

お姉ちゃんの命知らずな

魔物退治の宣伝より遥かに効率いいって」


昔は仲の良かったのに

今はどうしてこうも仲違いをしたのか。

自分でもよくわからない。


「まあまあ、無事に帰って来たことだし

昼までに砂嵐が止むなら

ショーはやる予定だ。


それまで準備にとりかかるぞ」


団長の言葉に私たちの喧嘩は中止になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


砂嵐が止み、

何とか広場でショーが出来そうだ。


「チェルシー団のショーが始まるよ!

その前にパレードランで盛り上げだ!」


フブの声に楽器担当3人と

踊り子役の私が道端に出ると

下町の人達がここぞって見に来る。


「おーい!また魔物だぞ!!」


街の方から兵士の声がした。

金属音が遠くから聞こえる中、

私は既に行こうとしたが

フブに止められた。


「シェラ!今朝のドルイラさんの言葉、

忘れたのか?無理するな!」


「無理なんてしてないわ。


私はただ、困ってる人を

見たくないだけなの」


私はフブの腕を振り切って

街の方へ走って行く。


街の方の金属音から

魔物の多さがわかる。

私は武器屋の商品の中から適当に

サーベルを盗んで魔物を切る。


「シェラ!」


呼ばれた方に向くと、

そこにはアランがいた。


「アラン!?」


突然のアランに顔に一気に熱が集まる。

私はどうかしたのだろうか。

なぜ、アランを見るとこんなにも

胸が痛いのだろうか。


「また会ったね。

実は友達を攫ったやつが

この辺りにまた来ているみたいなんだ。

いたら教えてくれないかい?」


「わかった!」


アランの言葉に

前に見かけた赤い魔物を探しながら

次々と別の魔物を倒していく。


「いた!屋根の上、アラン!」


私の声にアランも着いて来たようで、

街の道端から荷物を登って

屋根の上にいた赤い魔物を追い詰める。


「ブエルを返せ!」


アランの言葉に

未だ頭の上に財宝を付けた魔物は

可笑しそうにケタケタ笑いながら

首を傾げた。


「危ない、アラン!」


私がアランの前に出て、赤い魔物の胸を貫く。


「やった!」


私の声と共に赤い魔物は

ケタケタ笑いながら消え、

また別の屋根に現れた。


「幻影!?」


アランは悔しそうに歯を食いしばり、

魔物はまた何処かへ消えて行った。


「くそ、まさか幻影だったなんて。

でも諦めないぞ。


シェラ、ありがとう。

また君に助けられたね」


アランはそう言うと笑うの手を取る。


「いいの。それより

あの赤い魔物を追わなくてもいいの?」


「うん。今から行く。

君に怪我がないかだけ確かめたかったんだ。

こんなに綺麗なのに、傷なんて

勿体ないからね」


「わ、私は大丈夫。

だから、ね?」


アランの言葉にドキドキと痛む胸を

抑えながらも言うと

アランはありがとう、と言い

去って行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


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