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青春の終わりに  作者: 社聖都子
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青春の終わりに2

「さて、私の話ですが、」

と先生は切り出した。

「4年生の皆さんはこの大会が集大成だと思います。でもそれってもったいなくないですか?そういう話です。技術的にどうとかそういう指導をしたいと思ったわけじゃありません。なのでホントに興味ある人だけ、聞いてやってもいいかなって人だけ残ってもらえれば大丈夫です。これから私がする話が将来振り返ったときにプラスになったと思う人はほんの一握りだと思うので。」

先生はそう仰ったが、当然その言葉を鵜呑みにしてその場を立つ人間はいない。曲がりなりにも、3年半武道に打ち込んできた人間が、先生のお言葉を頂戴する場から背中を向けられない。

「うん。まぁそうですよね。皆さん真面目。なるべく短くするように努めますが、多分途中から僕も熱が入ってきて話長くなると思うのでご容赦ください。」

と先生はぺこりと頭を下げた。胡坐姿でちょっと頭を下げただけなのに、とても礼儀正しい座礼に見えたのはきっと私だけじゃない。

「じゃあ、まずはこれから話をする人間がどんな人間か知ってもらえればと思います。」

先生はそう仰ると自己紹介を始めた。

「佐伯良哉と言います。小学校1年生の時に合気道をはじめ、大学3,4年生の皆さんが今日死力を尽くしたこの学生大会は大学1年で個人、団体、型の3冠を取っています。4年生の中には、これから卒業までに3段を取得しようという人がいると思いますが、私は大学1年の6月に3段を取りました。大学4年で指導員資格を。社会人になっても合気道を続け今に至ります。大学の1年から館長の元で指導員の真似事をしていましたから、大学4年間で下は3歳児から上は70歳のお爺さんまで、本当に多くの方に指導しました。大学生活では、授業は道場がお休みの日に講義を詰め込み、ひたすら道場に通いました。道場は私の青春というのをはるかに超えて、家でした。第2の家。そんな私にとって、社会人になったら道場をやめるという選択はありませんでした。皆さんもそうでしょう?家ですよ、家。大学卒業して社会人になっても、お金貯まるまでは実家から通うとか、一人暮らし始めても正月とお盆は実家帰るとか、家族をやめることはないですよね?私にとって合気道はそういう存在でした。」

先生のこの時のお言葉を捕捉するなら、合気道の在り方の話になるだろう。

合気道というのはいくつかの流派があるが、その多くが道場というところで本格的に稽古をする集団と、高校・大学の部活動で稽古をする集団に二分する。もちろん部活動も本格的に稽古をする。ただ、部活動では多くの指導者がOB/OGであり、その流派での指導員資格まで取られた先生が稽古をつけてくださるのは極めてまれな事例である。また、OB/OGの人も、部活動でどんなに全力やりつくしても、その後道場に通うという事例は少ない。道場ではお月謝が必要になり、部活の時に必要な金額とは大きく異なる。継続的に合気道を続けるOB/OGの先輩方も、道場に通われるのではなく、部活に顔を出すことがメインになる。大学生が4年間で全力を尽くす青春として合気道をとらえるのに対して、道場で合気道をする人たちは、お月謝を払い専門的な先生からご指導を受けて合気道を行うわけだ。

また、私がやっている流派には大会があって、個々の演武力を競う個人戦と、それを5人一組で行い3勝した方が勝つ団体、2人1組で決められた方を演武し内容の善し悪しを競う型、の3種が存在する。学生の大会では大学4年間をささげた集大成を見せる場であり、3年生は勝つことはおろか出ることさえまれである。

「ところで、私の大学時代はすべてを合気道にささげたかというとそうではありません。フットサルサークルに入ったり、趣味でピアノを弾いてジャズバンドを組んでいたりと、他の青春も謳歌しました。大学に行くと、授業の半分くらいはサークルのメンバーと一緒の授業を取ったり、休み時間や1コマ空いてる時なんかはいつものたまり場に行くと必ず誰かサークルのメンバーがいて一緒に時間をつぶしたりしてました。フットサルサークルなので、サッカーの話をよくしました。こっちの話はきっとはるかに共感してもらいやすいと思います。皆さんも学校に行って、ひたすら勉強して勤勉に単位を取得しているわけじゃないでしょう。時に遊び、時に馬鹿をやり、時に単位を落として後悔し、来期は真面目にやろう!と心に誓いまた単位を落とす。留年はしない!と思いそこだけは避ける。勉強に対して最も一般的な向き合い方はこのくらいで、勉強以外の大学にいる時間は部活の仲間との時間であると思います。その時間というのはかけがえがなく、今後の人生では得難いものです。皆さんはその得難い時間の題材に合気道を選んだ人たちです。

話の初めに私は私の合気道とのかかわり方、特に大学時代の合気道とのかかわり方について話をしました。大学1年で白帯になった皆さんとはスタートラインが違うので、自慢に聞こえてしまった人がいるかもしれません。でも、そんな私の大学4年間より、皆さんの大学4年間の方が合気道にかかわった時間は長い。私より長いということは、恐らくほぼすべての道場生より長い。私が大学を卒業して少しの時間が経ちますが、私より長い時間道場にかけた学生私はまだ見ていません。子供のころから続けてきたものなので、それなりの思い入れをみんな持っていますが、どの一人も私ほどじゃない。でも、それでも、そこが第2の家だという感覚は多かれ少なかれみんな持っていて、大学まで続けた人は社会人になっても続ける努力をする人が多いです。皆さんはどうですか?ここが集大成ですか?大学という青春真っただ中の時間を、皆さんより短い時間しか費やしていない人たちが、続けることを当然とする中で、ここを集大成にするのはもったいなくないですか?」

先生は私たちの方を見渡しました。そして、

「ここまでで話の前半です。ここからは社会人編。」

そう仰ると、一息置いて話を続けられました。

「私は社会人になって、フットサルも続けました。続けたというか、10回くらいはやりました。また、社会人になってできた会社の同僚とバーベキューなんかにも行きました。楽しいか楽しくないかで言ったら、楽しいに分類していいと思います。でも、あれは違います。フットサルサークルとは違う。道場の仲間と遊ぶのとも違う。少なくとも馬鹿をやりません。社会人として、同じ会社に勤めるものあるいは取引先の仲の良いものとして、節度を持った遊びです。フットサルも無茶をしません。私が考えていたフットサルと違うものでした。私自身当然のようにブレーキを踏みますし、周りもみんなそうしています。私だけじゃない。みんなそうしています。きっとフットサルだけじゃない。大学でサッカーをしていた人も、野球をしていた人も、バスケをしていた人も、テニスをしていた人も、社会人になって草野球とか労働者組合の集まりとかそういうのでもう一度やっても、あの時と同じようにはできない。あの時と同じような仲間は作れない。

道場は違います。子供のころからの仲間がいます。皆さんにとっては、今から溶け込まなければならない仲間になるかもしれません。でも、どうでしょう。隣に座っている今の仲間と二人で行ったら。大学の部活の延長線上にある時間をずっと楽しむことができます。その時間は、会社の仲間と遊ぶ時間とは豊かさがはるかに違います。ここだけの話、私は会社の同僚が一緒にどこかに遊びに行くのを見て、ほんの少し可哀想だと思っています。青春時代の仲間と月1で会って遊びに行くってことはほとんどの人にとってできないことなんです。私は週1で会っています。何と豊かなことだろうと思います。私の人生は。

その豊かさを皆さんに伝えたかった。

皆さんは学生生活3年半、合気道にささげました。私よりも長く、熱く、合気道と共に過ごしました。その集大成が今なのはもったいない。サッカーに費やした人たちが、同じチームで社会人もやろうぜ!11人そろってサッカーしようぜ!って、それは無理でしょう。合気道は2人からできる。同じ思いを持っている人たちが道場に集まっている。社会人としての節度とか関係ない。だって道場に集まってる人たちとは自分の仕事では一切かかわらないから。全然気にしなくていい。今のまま、素のままの自分を出して良い。そういう環境がそこにあります。

青春のその先を、見ませんか?

そういう話をしたかった。しろ!というわけじゃありません。でもそういう道があることを知ってほしかった。少なくともその道を先に行っている私は、その道が充実につながっていると思っていることを知ってほしかった。皆さんに選択肢を提供し、その選択肢も眺めたうえで選んでほしかった。知らずに集大成にして終わりにして欲しくなかったんです。」

先生はもう一度私たちを眺めました。

「私の話はこれで終わりです。長くなってしまいました。ありがとうございました。」

先生はそう仰ると立ち上がり立礼されました。私はまだ座っていましたが、下から見上げた先生の立礼も綺麗でした。私が周りを見渡すと、後ろには他の大学の学生も集まっていました。少し驚きましたが、佐伯先生の話す姿も声も内容もみな魅力的に私に響いていたので、私が変わりものじゃないんだな、と思えました。



私は今、青春の続きを歩いている。

現役最後の試合。その畳の前にいる。

こここそが青春の終わり。

あの時の若い佐伯先生は今は私の師匠。

偉くなり、この全国大会決勝戦の主審だ。

私のすべてを先生に見せたい。

私は、あそこを集大成にしなくて良かった。本当に充実した人生を生きている。

まだ30過ぎなので、ここからまだ道は長い。でも今日が集大成。

ここからはあの時の佐伯先生のように、私が今の若者に伝えていきたい。

続けることがどれほどの充実感を人生に与えてくれるかということを。


「お願いします!」

立礼をして競技戦を超えた。先生、私の立礼は綺麗ですか?

これからも見ていてください。

今日の私を。

明日からの私を。

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