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英雄は愛しい女神に跪く  作者: 奈口 結
ルマニアン王国編
7/23

共に歩くため side優理



十夜と初めて会った日から、いったいどれくらいの時間がたっただろう?


私も十夜も、運命という大きな波に揺さぶられ続けた。とても穏やかに過ごせた日々など、ほんの僅かだった。


私と十夜の出会いは、雨が降り続いた冷たい夜だった。



私は、所謂お金持ちの『お嬢様』として生まれてきた。一見何不自由なく優遇された生まれに見えるが、そうではなかった。


私は、一般的に両親の愛を受けて生まれた者ではなかった。『精子バンク』─よそから優秀な遺伝子を持つ人の精子を母の卵子に人工受精させて産まれてきた(造られた)のだ。


両親が私に求めたのは常に優秀(天才)であること。まだ言葉も理解できないほど幼い頃から英才教育を受けて育った。


テストは必ず満点を求められた。両親の期待に沿わないと、折檻と称して虐待されていた。幼い私には、大人の暴力から身を守る術はなく、刷り込みのように『常に優秀でなければならない』と、それが私の存在意義(需要)だと思わされていた。


しかし、そんな日常も長くは続かなかった。


両親の事業が失敗したのだ。多額の借金を負うことになったが、財産を手放すことで免れた。しかし、今まで贅沢に暮らしてきた両親には、一文無しからの生活はきつかったらしい。


そんな状況でも、私に出来ることなどなく、今まで通りテストで成果をだす。だが、金のない生活は両親に日に日にストレスを与え、そのストレスの捌け口は当然の如く私に向いた。


自分達で産んだ(造った)くせに、私を“異常(バケモノ)”だと罵った。


理解できなかった。


金のない生活に耐えきれなくなった両親は、遂に泥沼に足を踏み入れた。


裏組織に借金をし数日で利子は膨れ上がり、返せるあてなどなく、危ない連中が借金取りにやって来て逃げ回る日々。


こう正反対だと、かえって清々しい。


どんなに逃げても追ってくる借金取りに、とうとう音を上げた両親は、私を勝手に売ろうとした。流石に私も焦った。


私はもう血縁の情(家族という認識)などとうに無く、一人逃げ出した。当時、まだ小学生だった。


成人していない私が、一人で生きていける筈もなく、宛もなくさ迷い歩いた。


そして私は、一人の少年に出会った。


雨が降った寒い夜だった。雨宿りしようと人気のない公園に入り、雨宿りが出来そうな公園の遊具のなかで、じっとしていた。そこへ同じように現れたのが十夜だった。


私と同じように衣服も肌もボロボロだった。


お互い初対面で、何も知らない。だけど、私も十夜もお互いに何か近しいものを感じていた。その夜は何を喋るでもなく、自然と二人で寒さを和らげるように寄り添った。


雨の上がった次の日、初めてお互い言葉を発した。


『……私、優理』


『十夜だ』


特に詳しい話をしたわけでもない。『一緒にいてほしい』などとお互い言ったわけでもないけど、何故かこの日から十夜と共に居るようになった。


私の第一の人生で、唯一楽しかった日々だった。


まるでサバイバルのような生活だった。食料は山に自分達できのこや山菜を採りに行ったり、飲食店や食品を扱う店の賞味期限切れの廃棄のゴミを漁ったり、人気のない拠点にした場所で自給自足してみたり。


ホームレスのような生活だったが、それでも十夜と過ごした日々は宝物だった。


しかし、子供だけで過ごすことは難しく、一つ所に長くいることは出来なかった。まるで両親がしていた逃亡生活のように二人で各地を転々とした。


そして、そんな生活を5年続けたある日、再び運命という奔流に飲み込まれた。


どこで調べてきたのか、私達のもとに政府の役人だと名乗った者達がやって来たのだ。何かの実験に協力してほしいと言われ、生活の保証と共に仕方なく協力した。


そんなうまい話があるわけもなく、辛い人体実験の日々が始まった。


実験の内容は知らされなかった。おそらく、人間の脳の処理構造の解明か何かだと思う。薬物投与は無かったが、電気を流されたり、計測器にかけられたり、プライバシーを無視して四六時中観察されたりしていた。


一番辛かったのは、十夜と離ればなれにされたことだった。


私達は三年間それに耐えた。だけど、日に日に実験はエスカレートしていく。身の危険を感じ、再び逃亡生活が始まった。


その頃には自分達がどれほど異常(天才)であるか、理解していた。能力を最大限使って、逃げ回り、海外を転々とした。


そしてあの日、私達はついに力尽きた。


だけど、私達の魂はエレルに拾い上げられこの世界にやって来た。もう一度十夜と過ごせる日々に、エレルには感謝している。


「どうした優理?眠れないのか?」


「うん…考え事してたの」


「……そうか」


十夜は深く聞くことはなく、私を抱き締めてくれた。


十夜に守られてばかりだった。ずっと、出会ったあの日から。私を大事にしてくれている。それが嬉しくて、同時に申し訳なくなる。


私は十夜に十分に返せているだろうか?と。



「十夜…」


「なんだ?」


「大好きだよ…」


「知ってる」


「十夜も私のこと好き?」


「当たり前だろうが」


十夜は迷い無く返してくれる。


私の迷いなど、十夜にはきっとお見通しだろう。でも、十夜はそれを指摘することはない。いつだって私を優先してくれる。それが愛しい。


私の、私だけの十夜(生きる理由)


「お前は俺の唯一の女だ。好きかどうかなんて決まってるだろ?」


「ふふふっ……うん。ありがとう十夜」


「下らねぇこと考えてないでさっさと寝ろ。明日は依頼(仕事)なんだからな」


「はーい」


今度こそ共に歩くために、十夜とずっと一緒に居るために。ようやく私も十夜を守れるくらい力を得たから。


私は私の幸福のためだけに力を使う。


(ずっと一緒にいようね)


そんな私を十夜だけが知っている。



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