19 こどもにせっきょう させへんで
「あねさんまって おくれやす
そもそもそちらが さきやろし
ウチのあにさん とりころす
いうたによって こぉなってん」
「いままでたんと くぅてはろ?
それでもおなかが へるのんは
ひとのいのちを くろうたからや
ひとつひとつを おもいだし
くやんであやまる ことなしに
すくうてだては あらしまへん」
ちぎれてちぢんだ かげおばけ
うんとこちいさく なりました
こりすの神様 せいくらべ
ぼくのがちょっと おおきいぞ
いもむしくらいに ちいさくなった
まっくろくろの ちびおばけ
とりつくちからも なさそうで
まっかなおくちを もごもごと
でもでもだってと くりかえす
おばけがちいさく なるたびに
くものあいだを かぜがぬけ
ちぎりとばして まんてんの
ほしとつきとが かおをだす
りーりーじじじと むしのこえ
いつものよるが もどってきます
いまならはなしも できそうと
おいなりさんの あとつぎさん
くびにかけたる みかがみを
ちぢんだおばけに さしだしました
「あねさんこれみて どうおもう
ひとのかたちも ほどけてはる
いままでくろうた ひとのぶん
うらみつらみが たまってはるわ」
つきのひかりに かがやいた
とつくにわたりの そのかがみ
むかしむかしの そのまたむかし
あしききつねを こらしめた
ゆいしょただしき しょうまきょう
のぞきこむなり ほんしょうを
あらわにうつす ふしぎのかがみ
こそげてちびた かげおばけ
おんなのひとの かたちもへびも
ほどけてとけて のこったすがた
かがみにうつるは どろどろの
くさってにごった たべのこし
あまりのすがたに かげおばけ
たまげるひめいを ひびかせて
「こんなのちがう あたしじゃない
やめてよいやよ みせないで!」
「ほんでもみなぁ あかんのえ
これがあねさん いまのすがたや
ひとのいのちをくうたなら
それだけけがれて くさるんや
いままでくうた ひとのぶん
たまりにたまった よどみがこれや」
「そこをわからな はじまらへんで
かさねたつみと いのちのかずを
ようけおもいだして つぐのうて
はじめてらいせに むかえるんやさかい」
おいなりさんの あとつぎさん
しずかにしずかに かたります
びーだまみたいに ちぢんだおばけ
いやじゃいやじゃと なきわめく
じたばたあばれて ころがりはねて
くさにこいしに ぶつかって
しくしくしくしく なきながら
なきつかれたのは あけむつか
はるかにひろがる すいへいせん
ほんのりあかるく しらんだころに
ごめんなさいと ちいさなこえで
かぼそくきえそに あやまりました
「どないかしずまった みたいやし
これから京の ろくどうのつじ
たかむらさんの いどんとこ
ウチがきっちり つれてったるわ」
「こどもにたよって すまないねぇ
それでもみごとな おさめっぷりだ
これであのこも あんしんできる
かあさんからも ありがとね」
「きょうはあにさんの いちだいじ
ほっとくわけにも いかへんし
くるのもやぶさか ちゃうけれど
ろうどうほういはん ちゃいますのん?
しょうがくせいやって わすれんといてや」
「よなかもはたらく けなげな子ぉやけ
ねむおして かなわへんで
きょうはほんまに つかれたわ」
おかあさん くうき




