ちびっこ警官の引き継ぎ会:First
最近、変な夢を見るのです。
大きい蟹に襲われる夢を。
とても怖いのです。
とても、怖いはずなのです。
ですが……なぜか、安心するのです。
それはたぶん、あの警官さんのおかげでしょう。
夢の中でいつも見る、メガネの警官さん。
でも、いつも。
途中で彼は消えてしまいます。
心安らぐ、その悪夢は姿を変えます。
そして気が付くと、いつもベットの上で泣いているのです。
涙を流して、いるのです。
そんなわたしは、彼にあこがれて警察官になりたいとおもうのです。
夢に出てくるだけの人にあこがれるというのも、変な話ですが。
それでも彼は、わたしの目指すべき姿だと。
そう思う。
そう。
だって彼は。
わたしのせいで、命を落としたのだから。
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「いい度胸だな、サファ巡査?」
「痛い!ぼ、暴力反対!警察呼びますよ!」
「私たちがそのおまわりさんだろう」
「ううっ……」
叩かれた頭を、軽くこすりました。
それもこれも、すべて遅刻した私が悪いのですけれども。
とはいっても……
「ひどいじゃないですか、桐上隊長」
「私は優しくないのでな」
隊長は、低い背の私を撫でました。
「こんなちびっこでも、容赦なく殴る」
「ち、ち、ちびっこ……」
一番気にしてることを、ズバッと言われました。
違うんです、これから伸びるんですよ。
……もう、19ですけど。
で、と桐上隊長は続けます。
「なんで遅れたんだ、もう2時間は過ぎてるぞ」
「その……日付を間違えまして」
「今日を何日だと?」
「……えっと、6月の15日です」
「二か月前じゃないか!」
「でも、わたしのカレンダー全部それを示してますよ」
「……カレンダーの意味あるのか、それ」
はあ、とひとつため息をつく桐上隊長。
「もう、いい。とっとと仕事に移れ」
「え、でも」
「いいから行け、少しでも真摯な姿勢を示せ」
「……!ありがとうございます!!」
それだけ言って、飛び出しました。
残った私は、誰もいない部屋でつぶやく。
「新田、お前の守った子は遅刻するほど図々しく育ったぞ」
また一つ、ため息をつく。
いない誰かに向かって、語り掛ける。
届かない言葉は、虚しく消える。
「いやだな……またあいつを、お前と重ねている」
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「やあ!サファ君じゃないか」
巨大な影が、背後から顔を出しました。
優しい口調の割に大きな体格のその人物は、いえ、魔物は、話を続けます。
「また、遅刻かい?君も飽きないねえ」
「サリバール巡査ぶちょー……」
毛むくじゃらのその先輩は、桐上隊長と同じように、頭を撫でます。
「ちっちゃいなぁ、今どれだけあるの?」
「子ども扱いしないでくださいよ……えっと、ひゃくと、さんじゅうくらいです」
「その身長じゃ、子供と大して変わらないと思うけど……ああごめん、ハーフリングだっけ、君の種族。こんな身長の人間がいっぱいいるわけか……かわいいねえ」
「む、その言葉は聞き捨てなりませんね。サリバール巡査部長だって、もふもふじゃないですか」
そういって、先輩に抱き着きました。
モフっとした感覚と、獣特有の独特なにおいが包み込みます。
「わぁ、大胆。さそってるのかい?」
「?何言ってるのですか」
「自覚のない色気と、若さって怖いねえ」
「大丈夫です、信用してますから」
「わかってやってたのかい」
あきれたように、首を振られました。
うーん……。
「だめです、何もすることがないです。サリバール巡査部長をもふもふするしかすることがないです」
「やめてくれないか……そうだ、今の時間を見てごらん」
「はい?」
ポケットに入っていた、小さな端末を取り出しました。
画面には、10:32と書かれてました。
「もうそろそろ昼食かな」
「早くないですか?」
「……実は、何も準備してなくてね」
「?注文すればいいのでは」
「そうおもったが、あいにく電話が壊れている」
「これでやれば……」
「ちょっと出かけて、買っておいで」
途中で話を切り上げられ、でもその内容に、ちょっとびっくりします。
「え?それって」
「言い訳はあるから、遊んでおいで」
気が付くと、目の前には誰もいなかった。
「……ばかだねえ、あと、元気がいい」
仕事中に遊びに行く警官がいるかい、と続ける。
後で怒られること間違いなしだが、まあ置いといて。
「サファ君。サファ」
「君、少し考えたほうがいいよ」
手の中には、漆黒に染まったチップが入っていた。
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なぜか、とってもいい日です。
桐上隊長には許されるし、サリバール巡査部長には遊びに行っていいと言われますし。
あ、しまった。
昼食を買いに行くのでした……いけないいけない。
忘れてしまっては困ります。
仮にも、仕事なのですから。
それにしても、警察の仕事がないとは。
「今日も平和ですねえ」
……やあ、どうも。
あたしだ。
だれか?、だって?
そんなことわかるだろうに。
まあ。焦らさずいうと。
少し先の、あたし本人……シン……いや、サファだ。
全く口調が違うと思うが、そんな些細なことはどうでもいい。
ただ、気になったとしたら、もう少し先まで私たちを見届けてほしい。
と、ありがちな宣伝文句をいって、この話は隅に置いておこう。
さて、読者の皆さんは気が付いたはずである。
思ったはずである。
なんかデジャブ!と。
まあ、ずいぶん先に知ったのだが。
彼の人もこういった後に、平和だといった後に、人生が変わったらしい。
そう、彼と同じように。
あたしもここで、最悪のターニングポイントを迎える。
人であふれかえっている、交差点の真ん中。
黒い、それが生まれた。
今の時代の人はすぐにわかる……穴が。
芽吹いた。
その穴から、乱雑に二枚の黒いチップが投げられた。
そのチップから、どろりとした影があふれ出て、あるものを形作る。
その影は、異世界の住人であれば、誰でも知っている魔物。
いや、元からこの世界にいたものでも、すぐにわかる魔物。
それは漆黒の。
ゴブリンだった
今回はここまで
言い忘れたけど、個人的にはアラタさんの装甲は聖闘士星矢みたいなイメージがあるっぽい……もういないけど