メガネ警官の暴走救助:Sixth
クラックが、興味深そうにこちらを眺める。
その鋏は、獲物を選ばんと、あちこちを指した。
その様子を見て、ほかのチップとは色の違う、土人形の絵が描かれたチップを取り出した。
ぴん、と指ではじき、受け止める。
手首の錠の穴に、チップを差し込んだ。
『start livingarmor』
声が、その錠から聞こえた。
『open the 3rdWorld!』
その声と同時に、四方八方に光の穴が開く。
光の中から、近代風のバシネットが、ガントレットが、グリーブが、プレートが、姿を見せた。
全身を、魔力が走る。
体に目を向けると、無数の光の筋が通っていてそのうち数本は顔まで伸びていた。
『ready……』
声を聞き、右手を……錠のついた手を前に伸ばした。
さすがにまずいと思ったであろうクラックが、鋏を振りかざすが……。
「set!」
『go!』
飛び回る装甲が、鋏を迎撃し、そして。
魔力の筋を通って、体に装着された。
兜のバイザーが赤く発光する。
<model……>
『G O L E M !!!』
声がやんだ、そのあと。
そこには、一風変わった鎧をまとった者がいた。
「そういや、名乗ってなかったな」
腰に携えた、警棒を構える。
左右に振ると、白い光の刃が展開した。
魔術『ザン・カレスド』
無属性のレベル2斬撃魔法である。
「俺は、新田安良汰。正義のおまわりさん、だ」
地を踏みしめ、駆け出す。
そして、警棒を伸びる刃ごと勢いに任せ、叩き込んだ!
慌てたクラックが急ぎ鋏で受け止める。
「なんだ、お前のその力はァ!」
赤い殻から、火花がほとばしる。
少しずつ削れていくそれを見て、クラックは忌々し気に腕を振り回した。
「くっ……そ!」
受け止めきれない衝撃が体を流れ、骨が軋む。
「邪魔だな、あの鋏……よし」
す、と立ち上がって手首のチップを引き抜いた。
そして……光沢のある白のチップを入れた。
『frame change!ready……』
「set!」
『GO!model……』
『I R O N G O L E M !!!』
装甲が、鋼のものへ付け変わった!
変身が終わった直後に、鋏が殺到したが、それを動くことなく、その身で受けた。
胸の装甲で火花が散るが……しかし、全くの無傷。
「なん、だとゥ?」
もう一度、さらに一度攻撃を入れるが、何も傷がつかなかった。
「もうわかった?お前じゃ俺には及ばない」
「ふざけるなァァァ!」
次こそ破らんと、大きく振りかざしたそれを……鎖が、縛り上げた。
「シェネ・フルム・カレスド!」
その鎖は、新田が放った魔法。
カレスドは無属性呪文、カレスのレベル2、シェネは鎖、フルムは鉄のごとき、という意味。
「このフォームのほうがフルム系を使いやすい。だから、変えたんだ」
理解できたか?、と律義に説明する。
クラックは、その説明も聞かず、もがいていた。
だから、それに気が付かなかった。
目の前のそれの形がまた変わっていることを。
『model……S H I N E G O L E M !!!』
そして知らなかった。
鋭くとがった鎧をまとった彼が、自分の頭上まで移動していることを。
「ナクル・スオラ・カレスド!」
蹴りを、まるでギロチンのように繰り出した。
鋏が付かなかった、その半ばで、節のところからへし折れる!
「ぎゃぁァァァ!」
クラックが、先の消えた腕を見て、悲鳴を上げる。
「おい、蟹野郎!敵から目をそらしちゃダメじゃないか!」
ただ、よく見ていても対応するのは不可能に近かっただろう。
先ほどの鋼のフォームを『硬化』とするならば、今のフォームは『神速』。
スオラという高速化呪文を使いこなすそれの速度は、最大で音速の二倍を超す。
そこにナクル……肉体強化魔法が加わると、まさにそれは一撃必殺の威力となる。
そして最後に。
『model……G O L E M !!!』
基本的な形態でありながら、すべての無属性魔法に精通したフォーム。
この三種を組み合わせて使うのが、新田の戦闘であった。
余裕な様子で立ちふさがるそれを前に、なぜか、クラックの頭は冷静にものを考えていた。
腕を一本もがれた状態で、生き残るすべを。
こいつに勝つ方法を。
全力で考えていた。
クラックもまた……ただのバカではなかった。
その目が、後ろに寝そべる少女をとらえると、口角がきゅう、と上がる。
「警官さんよォ、なにかわすれちゃいねえかァ?」
オレが穴をあけられる魔物だってこと、わすれちゃいねぇかァ?
クラックはそう、言った。
「どれだけ強かろうが、当たらなければ意味がないさ」
「そうだなァ、それじゃ当ててやるよォ……ボル・エーヒガルゥ!」
蟹の周りにいくつもの火球が浮かぶ。
「エーヒガル……レベル3魔法!」
レベル3魔法ともなると、そうやすやすと作り出せるものではない。
しかもそれが大量にあるのだ、クラックの魔物としての格の高さを物語っていた。
「当たるとまずいな、これは……そんな時は、こいつだ」
『S H I N E G O L E M !!!』
鋭利なデザインの鎧が、新田の体に装着される。
(そうくるよなァ!)
その瞬間、クラックは確信した。
勝った、と。
浮遊していた火の玉を、新田に向けて放つ!
「そんなもんか……スオラ・カレスド!」
彼の姿がゆがむ、その瞬間。
「そういや、オレの目の前に女の子がいたっけなァ」
と、そう言った。
新田の顔が、バシネットの下で大きくゆがんだ。動揺の顔である。
「しまっ……‼」
ここでよければ、少女はきっと死ぬであろう。
だったら、もう手段は一つしかない。
俺自身で、受け止めるしかない。
しかし、不安要素があった。
今のこのフォームは、素早い代わりに脆い。
戦闘は恐れく続けられないだろう。
命が助かる保証もない。
それでも。
(助けるには、これしかない!)
新田は、一点に向かう火球の群れを、その身一つで受け止めた。
「はははァ!愉快だァ!」
炎の間から見える生身の人間に対し、高らかに笑う。
「立派だなァ、おまわりさん」
「なに、こんなこと」
新田は、ゆっくりと、立ちあがる。
「大したことないさ。ただ少し……へまこいたけどな」
口元からどろりと、血の塊があふれ出た。
「ここまで、すべて計算して?だとしたら、もったいない……もっとほかのことに使えばいいのに」
「それはできねえなァ」
即答された。
「これは、オレの天職だァ」
「そうか、しょうがない」
その、戦闘中とは思えない会話をしつつ、新田は次の一手に向かう準備をしていた。
自分のつける手錠を取り外し。
何もない、真に黒一色のチップを差し込んだ。
『connected magicchip……R E J E C T』
「お前は、誰かに頼まれてこれを?」
「あァ、そうさァ。誰かは、いえねぇがな。聞きたきゃ捕まえてみろ」
ああ、もちろん。
つ か ま え て み せ る さ 。
駆け出していた。
生身の、もろいにそれが、手に錠を携えて、走っていた。
「ばかが、遂にトチ狂ったかァ⁉」
残ったもう一方の鋏を振りかざす。
しかし、躱すことはなく……受けた胴体から、血が噴き出した。
それでも、絶対に止まらない!
「俺も、魔物の端くれだが」
「何度も変身を繰り返していると」
「魔術回路が歪んじまってな」
「ほかの魔物にはできない、多少ふざけたこともできる」
「魔力を止められても、動ける」
「でも、お前はそんなことないだろ?」
「だったら、止められる……捕まえられる!」
クラックの細い脚に。錠が届いた。
錠が輪を形作ったとき、クラックは足の節から崩れ落ちた。
「そんな、そんなそんな!いやだァァァァ!!」
魔力を止められてしまっては、魔物は身動きが取れない、一種の冬眠状態になる。
少しうごめいて、ようやくクラックは活動を停止した。
「……終わった」
安堵と同時に、疲れがこみあげてきて地面に倒れそうになった。
しかしそれを、一人の女性が受け止めた。
「桐上巡査部長……」
「遅れた、すまない。大丈夫か?」
「大丈夫です、ただ少し、血と魔力を出しすぎました」
くた、と力なく彼女に寄り掛かる。
「そこに、女の子がいます。助けてやってください」
「わかってる、もう救助されたよ」
「よかった……」
「……ほかに警官は見なかったか?」
「さぁ……」
「そうか」
仕事らしい、報告するだけの会話。
ただ、その場の誰もが、それにいつも以上の価値を見出していた。
「ねぇ、巡査部長」
「なんだ?」
「俺は、あなたの命令を守れましたよね」
「このまま、お前が死んだりしなければな」
「そう、ですよね。じゃあ、死にません」
「そうだな、もっと生きろ」
「ただ、とても疲れました。少し、寝てもいいですか?」
「今回は許可しよう」
「ありがとうございます……はは」
「巡査部長は、優しいなぁ」
そういって、彼の体はチリになって崩れ落ちた。
ついに、のどから嗚咽が漏れた。
彼が行ってしまうまでは漏らすまいと、必死に我慢してたそれが、想いとともに漏れた。
そしてその場にもう一人。
より一層悲痛な顔をする者がいた。
彼女を、この場に立ち合わせてしまった張本人。
また、自分自身も親友の死に立ち会うという、最悪の不幸であり、しかし幸運であった彼。
穴をあけることを、間に合わせられなかった、彼。
サリバール・ランドゲル・フェイア。
いや、ここまできたら、もう隠すことはないだろう。
その真の名を。
本人と、新田しか知らない……もう、一人しか知ることのない彼の正体を。
SARRY・DIE-O・KAIN
言わずと知れた、先代魔王である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、それからさらに5年。
長い長いプロローグの後。
この物語の主人公、サファ・クラウン・フェイアは。
今日も元気に出勤する。
「……行ってきます!」
今回はここまで




