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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
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メガネ警官の暴走救助:Fifth

 しまった、やらかした。

 新田は勝手に突っ走ることと。

 サリバールはそれを止めないことを忘れていた。

 署まで戻って気づいたところで、遅かった。

「……サリバール。確認しようか」

「はい」

 サリバールは、にこにこしながら答える。

 いや……そんな顔されても困るのだが。

「新田が暴走したら止めろと、そう言ったよな?」

「はい」

「ならなんで……新田がここにいないんだ?」

「僕が止めなかったからですね」

 つかみどころのない返答をするサリバールに対し、ため息をついた。


「……もう一度、確認するぞ。新田が暴走したら、止めろ」

「はぁ……」

 はっきりと、止める気がないことが分かった。

 それで尻拭いするのは、私なのだ。

 しっかり止めていただきたいのだが。


 ……もういい。

「次はないからな」

「わかりました」


 それじゃ、楽しい尻拭いの時間といこう。

「ひとっ走りしてくるから、少し待っとけ」

「はい……はい?」

「あの距離なら、三分あれば着くだろ」

「いや、あの」

 疑問を含んだ声に、いったん立ち止まる。

「走る、とは?」

「なんだ、そんなことか。車とかよりも走ったほうが早いのは当然だろう?」

 私を誰だと思っている、と続けた。


「私が何かわかっているのか?勇者だぞ、なめるな」


 気が付くと、目の前から彼女の姿は消えていた。

 その情報を受け入れるまでに、多少のラグがあった。

「……ホント、滅茶苦茶だね、あの人」


 しかし、そんな感嘆している余裕はなかった。

 予告通り三分で着いた彼女から、一本の電話があった。

『まずい……非常にまずい。周りの器具がすべてなくなってる。器具だけじゃなく、人も。当然、新田も。近くに胴体の曲がった自転車……それも、うちの自転車があるだけだ』


 たぶん。


 喰われた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 廃れたビルの、その4階付近から、二つの影が飛び出した。

 その影はとんでもない勢いで、地に向かい落下する。


「きゃぁぁああっ!」

 と、少女の悲鳴が上がるや否や、口をふさぐ。

「バカ、舌かむぞ!」

 いや、舌を噛むだけではなく、このまま地面に落下すれば、ただじゃすまないことは明らかであった。

 おそらく、助かることはないだろう。


 そんなことを考えているうちに、一見砂漠らしい大地が近づく。

 もう、手段を選んでいる時間はなかった。

 やむをえん、とひとつ舌打ちをし。

 腰に携えた、その何の変哲もないように見える、その警棒の柄の部分に……薄いチップを、差し込んだ。


 その警棒は、細かい砂の山の頂上に落ちる直前に、警棒の先端から、エネルギーが放たれる様子があった。

 その道に精通しているものであれば、それが何かすぐにわかるだろう。

 いわゆる、魔術である。


 見えない、しかし確かにそこにある風のクッションは、二人を受け止める。

 多少バウンドしてから、砂の上に転げ落ちた。

 しかし息をつく暇もなく、瓦礫の山も同時に落ちてきた。

「チィッ!」

 上を見上げ固まっている小さな体を抱え、砂の大地へ伏せこんだ。


 ザァッ!、と砂ぼこりが上がり、視界を埋め尽くす。

 砂の幕が少しずつ上がっていくにつれ、うっすらと、ともに落ちてきた巨大な蟹の姿も浮かんできた。

 でかい腕を振り回す、その予備動作を見てとっさに瓦礫の影に飛び込む。

 次の瞬間には、二人の頭の上を鋏が通過した。


 しかしそこで、救いの手が伸ばされた。

 胸元の無線機から、

『新田ァ!今どこにいる!』

 と、声が聞こえた。

 多少ノイズが入っていたが、それでもそれは紛れもなく彼女の……桐上巡査部長の声だった。

『返事をしろ!』

「はぃぃっ!」

 隣の少女が背筋を強張らせる。

 ついでという風に、返事もしたから困ったものだ。


「ばかっ、伏せろ!」

『……誰かいるのか?』

「はいそうですよ、いるんですよ。民間人が!」

 頭上でブゥン!と空を切る音がした。

『おい、どこにいるか報告しろ!』

「えっと……」

 隙を見て顔ぞのぞかせ、あたりを見渡す。


 そこで……今まで気が付かなかった、周囲の状況に愕然した。

 砂漠らしいことは気が付いていたのだが。

 そこには、廃ビルが数えきれないほど乱立していた。

 その情景に見覚えはなかったが、伝説じみた噂として知ってはいた。

 10年前のあの日に、こっちに吸い寄せられたビルが墓石のように立ち並ぶ地。

 名前はたしか……

「記憶の墓場……!」

『なっ……!お前、なんてところに!』

 焦った様子で、彼女は言った。

『しょうがない、その場所に飛べる奴を呼んでおく。少し時間がかかるが、持ちこたえてくれ』

「そんなこと……言われても!」


 とうとう、隠れていた瓦礫までもが崩壊した。

 ミミックが、顔をのぞかせる。

 クラックと名乗ったミミックは、その鋏を再び振るった。

 まだ刺したままであったチップが反応し、二人の人影を後ろへ飛ばす。

 三回ほど転がり、その影のうち一つはゆっくりと起き上がった。

 額から、血が漏れる。


 ザザッ……と音が鳴り、壊れかけた無線機から声を聞く。

『お……った。だい……ぶか⁉』

「はは……なんて言ってるか、わかりませんけど……これは、迷ってる暇はないな」

 かろうじてついていた、そのメガネを投げ捨てた。

 代わりに手には、片方しかない手錠が握られていた。

『お……た!……おい、新田!』

 なんとか、聞こえるぐらいまで回復した無線機が声を放つ。


『絶対に、守り通せ!……死ぬなよ』


 そう言って、通信は切れた。

 まだ横たわって、気を失っている少女に……サファと名乗った少女に、目を移した。

「死ぬわけ、ないじゃないですか。少なくとも、市民を守るまでは死ねませんよ」

 ふ、と笑って。


 右手首に、錠を取り付けた。










今回はここまで

全く今回進んでませんね

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