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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
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悲劇のはじまり:その1

時間を……少し遡ろう。


ほんの少し、過去を見よう。

わたしの能力と、キオクで、過去を見よう。


瀕死の鈴鳴がいた。

彼は、わたしの攻撃を、全霊の攻撃をその身で受け止めた。


常人なら、すでに死んでしまっているだろう。

だが、彼は、ヴァンパイアで、アンデットだった。


悲しいことに、死から最も遠い存在だった。


「サファ……サファ」


まだ、彼は、生きていた。

全身から血を垂れ流しながらも、生きていた。

苦痛に苛まれながら、生きたくもないのに。


「サファ」

「……鈴鳴」

せめてと思って、わたしは答えた。


きっと届いてはいない。

彼から発されることばは、意味を持たない文字列に過ぎないのかもしれない。

だがずっと……こんな姿になっても、ずっと、言葉を発する彼を見て、わたしの名前を繰り返す彼を見て、わたしは耐えられなかった。

「鈴鳴、ごめんなさい」

わたしが、この人を狂わせた。

ここまで堕とした。

「もっと、違う方法が、あったはずなのに。もっと、違う出会いがあってもよかった……わたし、あなたをどう殺せばいいかの、知らない。どうすれば、あなたが苦しまないのかを……」

一つ、心当たりを思い出した。

そうだ、わたしは、戻ってこれたんだ。

「鈴鳴……!」

そう、彼に笑いかけた瞬間だった。


「彼をヴァンパイアで無くすれば良い」

上空から、男の声がした。

「君はその身を以て体験しているはずだ。君の半身が失われる瞬間を」

穴だらけの、今にも崩れそうなビルの屋上に、彼は現れた。


「……知っているだろう、チーター」

「サカキバラ……!」

「今すぐに実行しろ、さもなくば、そいつは余計に苦しむことになる」

彼の言っていることへの理解が、すぐにはできなかった。


「チップだ」

「……だめ」

「できないのか、ヘタレめ。こいつと共に戦おうとすら思わないのか」

「こんな姿になってまで、あのチップに押し込めて、彼を、まだ戦わせようっていうんですか、あなたは!……違う方法があります。それを試すまでは」

「無駄だ。鈴鳴琳之介という人間は、彼の中にはもう存在していない。ずっと閉じこもっていただけの貴様とは、違うんだ」

サカキバラは、重さを感じさせず、鮮やかに飛び降りた。

「ならば、罪を感じる前に、死ぬのが本望だろう。退け」

「触らせません」

彼の前に立ち塞がった

「もう一度言う。退け」

「退きません」


彼が、一瞬にして、目前に迫った。

彼の回し蹴りが、顎をねらう。

「……っ!」

回避した途端に、脇腹の傷が開いて、血が滴った。

「……退きません」


『ready……』

「やむをえん」

『GO』


それは、あまりにも、暴力としては()()()()だった。

躊躇のない、敵意だった。

「リビング……っ、」

「リジェクト」

一歩のみ、退く。

彼の両手に生成された黒い剣の、その軌跡がみえた。

噴き出たわたしの血が、彼を彩る。

(掠っただけ、落ち着けっ)

「リジェクト!」

(焦るな)

彼の双剣の片割れが、半円を描いて襲撃する。


わたしは、軌跡のその先に、ランスを置いただけ。

ランスの纏った黒い影が、彼の剣を打ち砕く。


「……!」

すぐさま彼は剣を修復。

リビングメイルが、彼に装着されてゆく。


サカキバラは飛び上がったかと思うと、回転しながら斬りつける。

後ろのスズナリの気配が気がかりで、下がれず、やむなく受け止めるほかなかった。

彼の偽物の、数段脆い刃は、わたしの迎撃のみで砕かれてゆく。


(……勝てる!)

そう思った瞬間だった。

彼のリジェクトが……模造品にすぎないリジェクトの出力が急激に上がった。


わたしは大きく、後方に飛ばされた。

背中をコンクリに打ち付けて、唾と、溜まっていた血が同時に吐き出された。

そばを見ると、鈴鳴がいる。

蠢く、彼がいる。

「鈴、なり」

次の瞬間、わたしの胸が、強く踏みつけられた。


朦朧とする意識の中、わたしは、サカキバラを見上げた。

……そして、目を疑った。


彼の纏っていた、リビングメイルは。

『MOOB‼︎RESET MOOB‼︎』

「……ふざけるな」

『C H E A T E R』

「サカキバラァッッッ!」

そこに、しんしゃの気配があった。


ランスで突き刺そうとした瞬間に、わたしの両の腕を、鎧の間を縫って、奴のリジェクトが貫いた。

そして、足も。

咄嗟にリジェクトで首元を防御した。

予感の通り、首元を狙った攻撃がわたしを襲った。


その攻撃は、砕けては治り、を繰り返している。

激痛。

そして、血を流しすぎたこと。

一瞬でも気を抜けば、持ってかれる。


サカキバラが、鈴鳴に、チップを向けていた。

「やめろっ」

サカキバラの腕を、切り落とした。

しかし、それでも、もう一歩の手を、鈴鳴に向けた。


「ザン・アンブ・ヴェドルゴッ!」

「ファマ・スオラ・エアロハル!」


その瞬間、彼めがけて剣が飛んできた。

サカキバラは、すんなりと躱すと、鈴鳴を離れる。


「サリー……スペランツァ」

「話さないで……今……ヒールを」

「いらないです」

スペランツァの言葉を遮った。

全身に刺さったリジェクトを砕いて、抜いた。

傷口をリジェクトで覆うと、嘔吐感に襲われ、黒い粘り気のあるものを吐き出した。

ゆっくり立ち上がって、言った。

「……きっと、意味が、ないので」

「……ごめん」

「謝らなくて良いんですよ。わたしの、せい、ですから……鈴鳴は」


その時だった。

……鈴鳴が、塵となって、消えた。


「……ぅあ、そんな」

「残念だったな。俺の、勝ちだ……そこで見てろ」

カイン・グラン。

と、彼は唱えた。


サリーが飛んだ。


「やめろ……!」

手に、エネルギーの球を作って。

放とうとする瞬間に、同等の魔力が、それを防いだ。

……他でもない。

サタンだった。

「早くぅ。やっちゃいなよ、ねえ」

彼女は、おちゃらけた様子で言う。

「……サタン!」

「サタン」

冷酷な、声が響いた。


サタンは、魔法の反動で、サカキバラの元まで跳躍する。

「なに、なに〜」

「お前もだ」

「え」


彼女の心臓が貫かれた。


「……え」

「は」

ミュレイとサリーが素っ頓狂な声を上げた。

「……はは、こういう終わり方も、悪くない……」

サカキバラが、非情に、手を引き抜いた。

「……かも」

ミュレイが血を吐いて倒れる。

「終わりじゃない。始まりだ」

「そっかぁ……おかあ、さん、おとう……」

……ミュレイは、なにも言わなくなる。


「……人として逝ったか」

「貴様……貴様、自分がなにをしたかわかっているのか⁉︎」

サリーが叫ぶ。

「さあな。俺は、俺のすべきことをするまでだ」

「これが、すべきことか。こんなものが!」

「この程度で、なにをいうか!……こんなんだから、ダメなんだ」

カイン・グラン!

サカキバラが、また叫んだ。


二つの魔法陣が、展開される。


サカキバラの手から解き放たれた2枚のチップが、吸い寄せられるように魔法陣の中心にはまり、そして輝いた。


『MOOB』

「戦争だ」

『RESET MOOB』

「お前らのための、戦争だ」

『V A M P I R E』

『S A T A N』


「これが始まりだ」

空に、大きな、穴が空いた。

……ここに、早希さんがいなくてよかった。

それは、いつかの、あの景色とそっくりだった。


ただ、違うことといえば。

そこから現れたのは無数のモーブだった。


「……暴射(ヴォルカリス)

サカキバラが唱えた。


……彼の纏う鎧は、幾重にも、重なっていた。


彼は今、ヴァンパイアであり、チーターであり、魔王だった。


空から、禁忌の雨が降った。

爆発を引き起こし、そして消えていった。

私には、効かない。

けど、でも。

「サリー!」

返事がない。

「……スペランツァ!」

……返事が、ない。


煙が消えた時、血まみれの2人がいた。

スペランツァが、倒れた。

サリーは、鎧を纏っていたが、それさえ……砕け散った。


人々の悲鳴が聞こえる。

現れたモーブは、スライムと、ゴブリン。

それは、単体はなんてことないが、だが、数が集まれば……


そうだ、私は知っている。

このモーブたちを。


これだけの数がいれば、虐殺には十分すぎることを。


「……サカキバラ。ねえ、サカキバラ」

「ああ」

「あなたの目的は、なんなのですか。この地獄が、あなたの望んだ景色なのですか。答えなさい、サカキバラっ……‼︎」

「ああ、そうだ」

サカキバラは、即答した。


「そうだ。俺の目的は、これだった。あの戦争をもう一度巻き起こすこと。その足がけとなること。全ては……全ては、我々人類の、尊厳を守るために」


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