ふたりの戦い:その8
「ついに目覚めましたのね、彼女」
プリンセスは言った。
「……ついに?お前が、目覚めさせたのだぞ。私を裏切って」
「そう、怒らないでくださいませ。魔王様。先に裏切ったのは、貴方でしょう?」
「なんだと」
「魔王の呪殻の1パーツを探す代わりに、わたしの国民に、もう、他の命を奪わせない。契約を破棄するのなら、軍を用いて、わたしの国を攻める……でしたよね」
「嘘はついていない。私は、あなたとの契約に従った……どうだ、命を、奪わせてはいない。あれは命ではないのだから」
「ええ、存じ上げておりますとも。彼女からお聞きしましたから……そんな姑息な人とは思いませんでしたわ。おかげで、あの人に軽蔑されてしまいましたもの」
プリンセスの温和な空気が、崩れた。
「だから、あの人を雇った。戦争になるとわかったから。あの人を強くもした。彼女の心臓を作ったのは、わたし達ですのよ」
「だからこそ、頼んだのだ」
「だからこそ、戦うのですか。殺してでも奪い取ると。なるほど。さすが。偽王にお似合いですわ。あの呪殻がないと、ですものね」
彼女の周りに、無数の、巨大な魔法陣か展開された。
「ふざけんじゃねぇ、このヤロウ」
「ヴィーナス!」
幹部の1人を呼んだ。
どこからともなく現れたツバサの生えた女が、私を庇った。
「……本当にせこい」
プリンセスが悪態をつく。
「本当に、貴様は!」
「プリンセス、もっとお淑やかになったらどうだ……ヴィーナス、あとは任せた」
「魔王!」
プリンセスが、声を張り上げた。
「わたしは、わたしたちはいつか貴様を殺す、殺してみせる!今に見ていなさい、魔王!」
「好きにしろ。さらばだ、また会おう」
*
「一騎打ちをしようか。一対一だ。勇者」
マーズが言った。
「一騎打ちだと」
「そうだ。その通り。俺と、貴様と。戦う。それが済んだら、我々は退こう。誰が死のうが、どちらが死のうが」
「……何?」
「俺たちは、貴様の体が欲しい。その命の有無は問わん」
「何が目的だ」
「言えない。お前には伝えない」
「なら、そんな都合のいい話が信用できるか」
「……確かに。最もだ」
否定するでもなく、マーズは言った。
「それは確かにそうだ。貴様から見たら、俺が不利に見えるかもしれない」
だが、と。
マーズは続ける。
「俺の方が強いのだから、問題はない」
彼は、ほんの軽く、剣を振るった。
深い亀裂が、私目掛けて走る。
「そうか」
と、答えた。
……風の魔法と共に。
ほんの少し念ずるだけで、簡単にそれは打ち消える。
レベル1の、弱くて、しょうもない魔法だが、私には私なりの使い方があった。
「……諸君‼︎」
私は叫んだ。
「戦争は終わった!私達の勝ちだ。もう戦うな!これ以上、死ぬな!」
「なぬ」
「……兵を退け。一騎打ちは受けよう。だが、これが条件だ。もう、戦争は、やめるんだ」
「そうか。そうだな……そうしよう。そうした方がいい。無用な戦いは齎したくない」
「……ありがとう」
なぜか、敵に感謝していた。
あべこべな感情が湧いた。
……不思議と、心に余裕があった。
全てのモーブが泥と化す。
消えていく。
戦争が終わっていく。
「みんな、よく戦った。後は、私が無駄な戦いをするだけだ」
「やろうか。始めようか」
「ああ」
「せめて、楽しませてくれよ」
「……ああ」
私は、2本の剣を構えた。
「私も楽しもう……死ぬなよ」
周囲に、細かい魔法陣が大量に浮かんだ。
「ザン・エアロ……エアロ、」
「どうした?」
「魔法を繋げたいんだ。詠唱というものを、やってみたくてね」
「リグだ」
「すまないな……リグ」
これから殺し合う関係だと言うのに、和やかな空気が流れていた。
「行くぞ」
「来い。掛かってこい」
「ザン・エアロ・リグ……レベルアップ‼︎」
幾重にも折り重なった斬撃が、マーズに殺到した。
マーズがそれを受け止め……
「……なんと!重い!」
そして彼は、受け止めきれず、弾くことで対応した。
「レベル1の魔法でこれと!なんと、なんだと、すごい!」
「驚いている場合か」
私の体が、彼の体に影を映した。
「二手目」
右の剣で、切りつけた。
「うぉうっ‼︎」
またもそれは弾かれる。
「三手目」
くそう。
また、弾かれる。
「……四手目!」
魔法で、追撃した。
重い、強い衝撃。
土煙が上がるが、
「さすがだ。立派だよ」
……意味がない。
彼は立ち上がる。
「本当にさすがだ。幹部にも匹敵する」
「五手目ッ」
「そしてこれが反撃だ」
腹に深く突き刺さる痛みがあった。
「致命傷だ」
彼の腕が、腹を貫いた。
「お前の負けだな」
血を吐き出した。
死の、ビジョンが見えた。
諦めも見えた。
……だが。
それでも。
「違う」
私の戦いは。
傷ついても、死にかけてでも。
「ようやく。デカい一撃が叩き込める」
「……何?」
「愛を捧ぐ者・リグ・愛を捧ぐ者・リグ・ザン・エアロ・レベルアップ……オーバー」
二つの。
いいや、三つの。
いいや。
幾百もの、幾千もの、幾万もの。
「ビリオン」
幾億もの。
刃が、彼を、殺さんと。
「私の勝ちだ。マーズ。じゃあな、死ね」
*
*
*
*
*
*
*
*
……天災のような衝撃だった。
地震だった。
地鳴りだった。
ひとしきり、何秒、何分、何時間と続いたそれが終わったあと。
マーズの姿はそこになく。
腕だけが、私に突き刺さったまま。
逃げたのか。
消滅したのか。
「どうだ、勝ったぞ。見てるか、安良汰。見てるか、サリバール。見てるか、サファ……くそ、余計なことを言いやがって、マーキュリー。結局、この一撃だけじゃないか。たったの一撃だけじゃないか……いいや、それでも、そうだな、連撃が、役に立った。ありがとう、だな。ありがとうか……すまなかった、みんな。喧嘩別れのようになってしまって……すまなかった」
「まだはェえぞ、サキ」
崩れゆく、私の体を支える者がいた。
「まだ死ぬのは、早ェえ」
「邪魔するな、マーキュリー」
「そういう訳にはいかねェんだよ……頼まれたからな、サファに」
「サファに?」
「……いいや、言い換えるか、そうだなァ、向こうの世界の全員にだ」
「……何」
「サカキバラが動いた。向こうは今、やべェぞ。今からヒールをうつ。それと、これを」
差し出されたのは、一丁の拳銃。
「戦え、サキ。サキ・キリガミ・フェイア。人を守るために。魔物を……守るために」
……フェイア。
フェイア、か。
久しく、聞いていなかった。
そうだ、私は……
*
目の前に、サカキバラがいた。
サカキバラ、という、存在がいた。
サカキバラであって、サカキバラでない。
ヴァンパイアで、悪魔で、チーターで、勇者で、魔王。
足元に……ミュレイの遺体。
そして、ズタボロの、私。
ズタボロの、サリー。
ズタボロの、スペランツァ。
空と、血を埋め尽くさんばかりの、モーブの大群。
星の裏側まで聞こえそうな、人々の悲鳴。
「……サカキバラ。ねえ、サカキバラ」
「ああ」
「あなたの目的は、なんなのですか。この地獄が、あなたの望んだ景色なのですか。答えなさい、サカキバラっ……‼︎」
「ああ、そうだ」
サカキバラは、即答した。
「そうだ。俺の目的は、これだった。あの戦争をもう一度巻き起こすこと。その足がけとなること。全ては……全ては、我々人類の、尊厳を守るために」
今回はここまで。
実は、このタイトル自体をこの先の一節で一度区切ろうと思っています。というのもこの先の展開が全くタイトルと合わなかったり、リアルの事情だったり……打ち切りじゃありません、続けますとも。少し余裕ができたら、また再開したいと思ってます。どうぞ最後までお付き合いください。
また明日、21時過ぎに。




