ふたりの戦い:その5
ごう、ゴウ、轟。
山が大地を征く。
とうとう、私たちの目と鼻の先に、それは現れた。
「二番から四番点火……今」
ドウン!
山の裾が、二度爆ぜた。
その塊は悲鳴をあげて、津波のように崩れた。
「他の石板も爆破、急げ!」
私の指示に、慌てたように誰かが杖を引く。
何度もの爆破が塊を襲い、カチ上げては蒸発させる。
うオオ、と歓声が上がる。
「まだだ。第一、第二魔導士隊、爆裂詠唱開始。柵からは乗り出すな、砦の上の魔道士は補助魔法用意。守るな、むしろ危ない」
辺りを見渡して、
「まだ撃つな」
と、口元に魔法陣の描かれた石板をあてがって言った。
石板の魔法陣を通って、兵の装着したピアスから声が出る。
便利だな、この石板。
魔法を保存して置けるもので、発動に魔力が必要とはいえ、頭で魔法陣を組むことなく、好きな場所で魔法を発動できる。
最初の地雷も、それだった。
ずらりと並ぶように埋めた、巨大な石板。
爆破後に、いくつものクレーターができていた。
そのクレーターから、オーク、エルフ、ドワーフといった、あらゆるモーブの群衆が這い上がる。
やはり、殺しきれなかったか。
その数は想像を遥かに凌ぐ数。
布陣されてしまっては、こちらの兵力ではどうしようもない。
「撃ち方用意」
第一魔道士隊が、モーブに向けて杖を構える。
「徹底的に、面で攻撃。殺しあぐねても構わん。次がある。いいな、お前たちがどれほど削れるかが、勝負だ。撃ち方……初めッ!」
太鼓の音と同時に、魔法が放たれる。
その赤い光の矢は、モーブに突き刺さる。
果たして、それそのものに効果があるかと言えばそうではない。
だが……爆発。
周囲のモーブもまとめて、吹き飛ばす。
またも歓声。
「喜んでいる暇はないぞ!第二部隊、撃ち方用意!急げッ」
第一魔道士隊が下がると同時に、第二魔道士隊が構える。
「ッテぇイッッ!」
太鼓の音。
そして魔法。
「よく思いついたな、早希」
後ろに控えたイングヴァルが言う。
「私が思いついたのじゃない。日本じゃ有名な戦術だ。長篠という。だが……」
そろそろ、生物が相手ならば、足が止まる頃。
「……止まらないか」
「サキさん!」
砦の上の、観測兵が言う。
「敵が散開していきます!」
「了解。イングヴァル、出るぞ。おそらく指揮官がいる」
「何」
「通信の可能性もあるが」
ヒュン、と矢の音。
さっき声を発した観測兵の額に、矢が立った。
「……くそ、陣が整ってきたぞ。エルフの部隊がもう退いている」
絶命した観測兵を見て、声をあげる兵が出てくる。
「騒ぐな!」
と静止するが、時間の問題かも知れない。
「騒ぐな、死ぬぞ!陣を組み直す。魔道士の中で一番の達人は⁉︎」
誰も名乗り出ない。
「……最も戦闘に出たことのある兵は!」
「それ、なら、俺だが」
「魔道士の指揮を任せる。部隊を細分化し、散開した敵を各個撃破。敵も部隊を組んでくるはずだ」
「だ、だが」
「頼んだ」
有無を言わせず押し付けると、
「イングヴァル、行くぞ」
柵を乗り越えた。
「騎士隊、魔導騎士隊の部隊再形成。魔導騎士1人、騎士2人の分隊を作れ」
「それでどうする」
「遊撃だ。魔導騎士は全力で騎士2人を守れ。敵からも、仲間からも。聞こえたか!」
その瞬間、前線部隊が並び直す。
「イングヴァルは私と来い」
「なに?」
「私たちは指揮官を一刻も早く潰す。兵が錯乱し、統制が取れなくなる前に」
後ろを仰ぎ見て、
「魔導部隊の指揮官!」
「は、はいッ」
「……後の指揮は、全て任せる」
「了解……」
「お前、名は」
「……クォーツ。クォーツ・クラウン」
「クォーツ。任せた。兵を死なせるな」
「……了解!」
名前に違和感を覚えつつ、遊撃隊の先頭に立つ。
「我々はこれより、突撃する!これは死にに行くのではない。生き残るためと思え!各員、兵を散らし、生存することのみを考えろ。これより行動は、各自判断とする」
私は、剣を腰に当てた。
「……イングヴァル。頼りにしている」
「応」
イングヴァル、抜刀。
襲ってきた一体のオークを両断し、その心臓の結晶を叩き割る。
もはやチカラを抑える必要はない。
「ォ、ぉ、ォオ……オオオオオオッ‼︎」
大きく、チカラを、絞って。
「……愛を捧ぐ者」
放つ。
「オーバー、X」
居合。
一閃。
ぶった斬る。
眼前の、全てのモーブが泥となり、朽ち、消え、そして土となる。
道は開けた。
「……征けッ‼︎」
鯨波。
生命が、命を賭して、征音。
同時、背中を押すように魔法、そして炸裂。
ついに、地獄が始まった。
私は、過去の地獄を想起しつつ、思った。
今回はここまで。




