ちびっこ警官の暗闇探索:その3
砕いたチップを口の中に放り込んだ。
血相を変えて、スペランツァとサリバールが駆け寄ってくる。
ほんの数歩近づいた時に、
「来るな」
と静止した。
「来るんじゃない。余計なことをするな。仕事だ。準備しろ」
何も言わずに、固まったままの二人に目もくれず、部屋を出た。
出たところで、気が抜けて、ドアにもたれかかる。
重いまばたきをすると、そこに、マーキュリーがいた。
「いいのかよォ、なァ、サキ」
「……黙れ」
「ひでェ顔色だぜ。よっぽど応えてるんじゃねぇのか?」
「黙れッ‼︎」
胸ぐらを掴もうとした時、すり抜けて、手が向かいの壁へと刺さった。
引き抜こうと踏ん張れば、壁一面にヒビが入り、足が床に突き刺さる。
よろりとぐらつき、倒れた。
……オーバースキル。
ただ、チップで抑えていたチカラを戻しただけなのに、本来の力に戻っただけなのに、このザマだ。
「……サキ」
「黙れよ、どいつもこいつもッ!私が、サファのことなんとも思っていないと……ッ‼︎」
「サキ、落ち着け」
「黙れと言っている……はぁっ、はぁっ‼︎」
私のチカラが、私に囁く。
今だ。
今こそチカラを解き放てと。
黒い気配が、私に迫る。
「サキ」
「お願いだ、黙ってくれ、頼む、じゃないと殺す。うるさい、うるさいんだ。みんな、みんな。私はもう、あんな、化け物には、なりたく、ないんだ。なのに、サファは……安良汰は、私を、置いて……」
無意識に溢れた言葉のままに、虚になながら、そのまま這って行く。
「ガキか」
と、マーキュリーは言った。
*
「ガキだよ」
オレの言葉に答えたのは、数日後のサリーだった。
「早希は、成長出来ないんだ」
そこは、件の美術館の前だった。
小さい女の子が、サリーに手を振った。
敬礼で返すのを見届けてから、耳の中の小さな水滴から囁いた。
「どォいうことだ?」
「あいつ、戦争の時から見た目が変わってないんだ。子供のまんま」
「はあ?そうは見えねぇけどな」
「もう30超えてるよ、早希」
「……前言撤回」
「もっとも、戦争のときも、幼い印象はなかったけどね。制服着てたけど、子供らしさはなかった……妙に大人びていたから」
「なんかの病気か?」
「きっと。早希は語ろうとしないけど。それに、面白んだよ、あいつ」
「なにが?」
「魔法が一切使えないんだ」
「?そりゃそォだろ、人間なんだから」
「それでも、魔法陣に手を翳せばある程度の反応はあるはずだよ。サファやミュレイみたいな存在だっている。人間がもともと魔力を一切持たないとするなら、あんなに魔法を使える人間が存在するのも変な話。みんな若干の魔力があるはずなんだ。第一人間だって魔物の一部なんだから、魔力を持たないってのもおかしい」
「でも、早希は?」
「それすらない。でも、魔導探知には引っかかるんだ」
「……あいつそのものが、魔力の集合体。他者の干渉で、初めて魔力が発生する?」
「そう言うこと。魔石みたいなものだよ。自分ではその引き出し方を知らないくせに、その中に秘めた魔力は底知れない……だから、下手にチカラが戻った瞬間。扱い方も知らないのに、小さな器に溢れるほどのチカラが注がれた瞬間。決壊して、倒れる」
ヒトにとっての魔法……スキルでもまた然り。
それを示すかのように、サキは、ここにはいなかった。
すっかり寝込んでしまって、だのに病院にすら行かず、署の端っこでうずくまって寝ていた。
「スペランツァと似てるな」
オレは囁く。
「そうかい?」
「ああ、あいつも、チカラは強大なのに、使い方を知らねぇ。オレが必死こいて魔法を教えた甲斐もねぇ。ただゲート開いただけで街が消えかけたぜ?すげえだろ」
「すごいね」
「……こんな奴らを解き放つ方が、オレはよっぽど危険に見える」
「同感。それでも、第一小隊を解散させたくてたまらないらしい」
ふと、サリーは向かいにいるスペランツァに目を向けた。
視線に気づいたスペランツァは、ほんの少し、首を傾げた。
そして夕暮れ時、オレは気づいた。
サリーに手を振った、あの女の子。
昼間に会った、がきんちょ。
親と、二人……今の今まで、閉館時間になっても、見かけていないことに。
今回はここまで。




