ちびっこ警官の暗闇探索:その2
面に入るその寸前に、防がれる。
突如頭のすれすれに現れた黒い護りは、私の剣を弾き、刀身が少し浮かび上がって、勢いを失った。
「“愛を捧ぐ者”」
間髪入れず、もう一歩踏み込んだ。
無くなった勢いを、ほぼゼロ距離から生み出すために、全力で打ち込んだ。
「RESET」
その時、サファが告げた。
手元のエネルギーの核が広がる。
今にでも、爆ぜそうだ。
「マーキュリーッ‼︎」
作戦通りに叫んだ言葉に、彼は言葉でなく、技で応えた。
地面が隆起した。
コンクリートを食い破り、姿を表したのは、水流だった。
そこに、彼の意識がある。
マーキュリーの戦意が。
一瞬にしてサファに絡みつき、動きが止まった。
「もらったッ‼︎」
2手目……を……打つ!
その、時、同時。
轟!
氾濫、直撃、サファの放つエネルギーを全身に浴びた。
気づくとサファは、遥か向こう。
赤い視界に、小さな黒点を捉えた。
「行くな、待てっ!」
「サキ、よせ、傷が!」
「私が、私があれを止めなくてはっ!」
血だらけの手を、天に掲げた。
行くな。
「行くな。サファ……行くな、安良汰ぁっ!」
*
「早希。大失態だな」
もはや礼儀は必要ないと言わんばかりに、目の前のリザードマンは、突き放すように言い放った。
「もう見てられん。奴の処理は第二小隊が受け持つ」
「処理、ですか」
「あれが、まだこの組織に身を置いていられると?」
「……待ってください。あれは、第一小隊の人間です」
「人間?あれが人間か。理性を失った、暴れ回るだけのあれが。魔物より、私よりよほど人間離れしている」
それに、とエウゲ・オカトフは続ける。
「貴様に対する信用は微塵も残っていない。次が最後の仕事と思え」
彼はすぐさま目線を逸らすと、ドアを打ち開けた。
「……貴様らに、あれの対応はさせん。絶対にな」
「サファには勝てませんよ。絶対に」
「ほざいてろ。無能めが」
部屋に取り残されてから、ひとりぼっちになってしまってから、
「ここまでか」
と呟き、天井を仰いだ。
*
「次の仕事の概要を伝える
「とある美術館で、人が消える事件が起こっているそうだ
「この一月で、すでに3人
「我々は、ここの警備を行う
「……解決ではない
「くれぐれも、履き違えるなよ
「それと……
*
「それと、次の仕事を探しておくといい。以上」
「ちょっ……と、待って、ください」
真っ先に止めたのは、スペランツァだった。
「サファは、どうするんですか」
と。
私は、愕然とした。
自分のことより真っ先にサファを考えるのか、と。
……そう思ってしまった、自分自身に。
或いは、そうだ、私はもう決心がついてしまっていたのかもしれない。
「サファは……」
それは言い換えれば、ただの「諦め」だ。
「サファは、もう」
諦めを通り過ぎた私には、ひどく……睨みつけるような視線を送るスペランツァが、うざったく見えた。
「……まともな意思を持った存在ではない」
すう、と、息を吸って、一息置いて、続けた。
「理性がない。制御不可能だ。その上、あの力はあまりに強い……討伐対象だ」
「っ!」
「それに、我々に信用はもう、ない。どうでもいい仕事を振って、縛り上げ、第二小隊がサファを倒す。そういう算段だそうだ」
それも、次の仕事は監督付き。
と付け足した。
「どうにか出来るというのなら、やってみろ。また一人居なくなって、サファの討伐がもっと早くなるだけだろうが」
「薄情者……!」
「なんとでも言え」
もう言うことはない。
翻して、スペランツァに背を見せる。
掌の中の一枚のチップを……勇者が掘られたチップを見せつけるようにしてから、もう一度手の中に包み込む。
「私はもう、諦めた」
砕いた。
今回はここまで。
明日も来てね。




