ちびっこ警官の潜在意識:その4
「作戦は簡単。僕らがふたりがかりで直すだけ」
「詳細に、詳細に言えよォ」
「インキュバスのチップを使って、サファの精神にアクセス、半分だけ残った精神をコピー、組み合わせて、作業終了」
「問題は?」
「……活動限界と、精神汚染。インキュバスのたったひとつのリビングメイルを、無理やりふたりに使うことになるから、活動できるのは多く見積もって30分。それに、壊れた精神に立ち入るリスク……」
「30分もいたら、2人とも壊れちゃうよ。15分。それが限界」
「……たったそんだけか」
「サリバール君だって、10分も居れなかったもの。それでオーバーマジックを起こしたから、本当だったらもっと短くして欲しいぐらい」
「そう。だから、君の協力が欲しい。メディア」
「…………」
「君を信じる。メディア」
「5分」
「えっ」
「5分で終わらせるぞ。いいな、サリー」
*
「危なくなったらこっちから引き上げるから、安心して行ってね」
「りょウかいりょウかい」
ヘルネルを、メディアは適当にあしらった。
彼は、まだ心の中に余裕を残しているようだった。
「さァ、行こうぜ」
「うん」
僕の横にどっかりと座ると、脚を組み、横たわったままのサファを見た。
「……よくもまァ、敵の目の前で寝てられるよなァ?」
「敵ね」
「そらよォ、オレはオマエらの大切な大切な同僚をブッ殺した、大罪人だぜ?」
「それは、そうだね。うん、後で散々謝ってもらうとするよ」
「それでいいのかァ?」
彼はにやりと笑って、険しい顔をし続ける早希に視線を向けた。
「ダメに決まってる。ダメに決まってるが、今は頼るしかない」
確認をするように片目を向けられたヘルネルが、応える。
「そう、ふたりじゃなきゃダメ。他人の精神、魂に触れるんだ、ふたりがお互いの自我を確認し合わなきゃ、直ぐに飲まれて自分じゃなくなっちゃう」
「そういや、あんたじゃダメなのかよ、このチビにアクセスするのはよ」
「医者がダメになったらどうするの。外から、中に入った人と会話する術は心得てるのかしら」
「……すンません」
「ま、そうじゃなくても、私そこまで魔法上手くないもん。2人みたいな化け物じゃないから、失敗しかねなかったのよ」
ヘルネルは、にこりと、メディアに笑いかけ、
「お願いね」
と言った。
「メディア?」
「なんでも、なんでもねェ」
そっぽを向いた彼を見て、まさかな、と。
「やるよ」
「おう」
『ready……』
機械音声が響く。
「TURN」
「BAKE」
『GO‼︎』
ふたりは、足並みを揃えて、サファの中へと飛び込んだ。
『model……I N C U B U S!!!!』
*
「ヘルネルさん」
彼らの意識が落ちたことを確認し、単眼の医者に話しかけた。
「もし何かあったら、これを使ってください」
と言って、取り出したのは、真っ黒なチップだった。
「リジェクトチップ。私がこれまで見たものの中で、もっとも危険なチップです。私の……恩人を、守り、私を救ってくれたチップでもあります」
「……へえ。いったいどうして」
「……キオクを描く者たち、というスキルをご存知ですか」
「噂程度には」
「サファ、それなんです」
「‼︎……そう」
「こんな小さな体じゃ、身に余る。オーバースキルだって起こす。だって、そんなチカラ操り切れるわけないんですから……でも、私は」
掌の中のチップが、どくんと、脈打った気がした。
「私は、このチップを使って、キオクを描く者たちを制御した人間を1人、知っています。サファももしかしたら、自分のチカラで戻ってこれるかもしれません」
*
「タマネギみてぇだ」
と、メディアは表する。
その通り、何層にも重なった、まるでタマネギのような心の壁は、僕らの行き先を阻んだ。
越えるたびに、サファの叫びが流れ込んで発狂しそうになる。
メディアの精神力に、初めて感謝した。
目立った傷が、メディアには見受けられない……決死の声を振り払い、自我を保てているのだ。
「オイ、今、入って何分経った」
「6分」
「あと層はどれぐらいだ」
「……わからない」
「ッチ、厳しいなァ」
潜水するように、サファの心の中心に近づいてゆく。
膜を越えるたびに、その感覚は狭まる。
そして、中心も小さくなる。
「きっともうそろそろだ」
「オイ」
「なんだ、こっちは集中してるんだ、少し話しかけないで……」
そのとき、背後で火花が散った。
「えっ」
「なんだコイツら……!」
メディアが、泥でできた巨人の攻撃を食い止めていた。
その蒼槍を以って首を落とすと、巨人は霧散する。
「……ゴーレム」
消える前の面影が、思い出された。
「そんなん見りゃわかる。なんでこんなところに」
「チップだ。リビングメイルの影響だ……ゴーレムが守ってるんだ、サファの精神を」
「面倒だなァ」
背後に気配を感じ、振り向いて、
「ああ、面倒だ、まったく」
と言った。
無数のゴーレムが、そこにいた。
「サリー、先に行け。時間がない。
「だめだ、メディア」
「ここに2人でかかってちゃァ、あっという間に2人でお陀仏だ。ここでゴーレムは全員潰す。オレはお前みたいな繊細な魔法の操作はできないからよォ、オマエが行ったほうがいいだろ」
「……わかった」
メディアが投擲の姿勢を取ったのを確認し、ゴーレムの大群めがけ突撃する。
(もしこれが、夢の中と同じなら)
「“ヴォルカリス”」
放たれた二つの巨大な弾は、最前線に立っていたゴーレムたちを消し飛ばす。
「“ヴォルカリス”……!」
連続の禁忌使用は、身体と精神に、大きな負担をかける。
それを請負で、再度放った。
次々とゴーレムたちは消えてゆき、また、生まれる。
その時。
「“アリティア・リグリア・ファルマス“ゥゥゥ……ゥゥウウウウウッッ‼︎」
それは、メディアの絶叫。
禁忌×禁忌。
その威力は絶大であった。
放たれた槍の速度はもはや光速の域かもしれない……ゴーレムの群衆を突き破り、サファの心を穿ってゆく。
「なんて無茶を……!」
その技術に感嘆する前に、真っ先に、メディアのみを案じた。
振り向くと、メディアが満面の笑みで手を振っていた。
「ほゥら、早く行け!」
メディアは、いつのまにか槍を握っている。
「メディア!」
ゴーレムの群れに呑まれ、メディアの姿が見えなくなる。
「早く、早く!」
「……っ!」
死ぬなよ、と祈りながら、メディアの槍が作った孔の中へと飛び込んだ。
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