天敵がやってくる:part2
「だーかーらー!帰らないって言ってるでしょうがーっ!」
と、砕けた口調で、サファは受話器に怒鳴っていた。
「えっ、来る⁉︎ちょっ、ちょっ、ちょっ、待ってください、おじいちゃー………」
ぶつん!と、有無をいわせず電話は切られる。
すごいじいさんだな、と、サファをからかうと、
(困ってるんですから、少しぐらい助けてくださいよ、しんしゃ。まったくもう、あの人は、話が通じない……)
と、頭の中でぼやき始めた。
一方そのころ、サリーと早希の2人は、一歩引いたところから見守っていた。
「……サファって、何者なんだい」
「確か、こっち出身だったはずだが」
と噂話が聞こえたので、ひとり、上の空のサファに伝えてやる。
「噂話ですか?本人のいる前で」
「いや……うむ、そうだな。本人から聞いたほうが早いか。お前、生い立ちはどうなってる」
と早希がいうと、サファは困った顔を見せた。
「どうなってるって……履歴書通りです」
「はあ、そうか。じゃあ、保護者にはなんて説明したんだ」
「保護者」
「あの爺さんのことだ」
早希はため息をつく。
「どうなんだ。よっぽど変な説明でもしない限り、あんな怒り方はしないだろう」
「…………」
すっかりだまりこんでしまった。
何か、悟られたくないものがあるらしい。
「スペランツァが云々以前に、まずはお前だ。吐け」
「だから、履歴書通りで……」
「隠してるな、なにか」
「まさか、そんな」
「まあまあ、そんなぎすぎすしない」
と、サリーは、紅茶の入ったカップを2人の前の机の上に置いた。
椅子を引いて、どうぞ、と示すと、早希はどっかりと座って、湯気の立つ紅茶を一気に飲み切った。
追うように正面に腰掛けたサファも同じようにして座り、紅茶のカップに腰をかけると、カップの縁を唇にあてて、紅茶を飲もうとすると、
「あちっ」
と言って、すぐさま離した。
早希が意外な顔を見せる。
「猫舌か?」
「ええ。苦手なんですよ、熱いの」
といって舌を出す。
それは、火傷を冷やすためか、煽ったのか。
「……はあ、まったく。そんな隠すものか?」
「他人の家庭事情ですよ」
「その他人の家庭事情が私たちに迷惑をかけるかもしれないんだ……むこうに、帰ってこいといわれたな」
「……まあ、そうですけど」
「いいぞ、帰っても」
「薄情もの‼︎」
突然、サファが立ち上がり、激昂した。
「ど、どうした」
「私がいなくなってもいいんですか!」
「一悶着ついた後、数日ほどの帰省なら、許そうと思っただけだ」
「……え」
「うちだって、有給を取らせないほどブラックじゃない」
「あっ、ああっ、はい」
納得したように椅子に座り直し、
「それで、どうしました」
と、何事もなかったかのように聞き返した。
「……どうしましたじゃないだろう‼︎なんだ今の焦りよう⁉︎」
「ちっ」
「舌打ちしたなテメェ⁉︎」
「早希、落ち着いて……どうしたんだい、サファ」
いよいよ引き下がれなくなったぞ、と、彼女に言うと、意外にもすんなり、硬く結んだ口を開いた。
「……怒らないでくださいね」
「ああ、怒らん」
どっかり座った早希は、今にも怒りが爆発しそうだった。
「あーっと、えーっと、そのですね、わたし。実は……
うん、その。
I'm a halfling princess …… maybe.」
と、サファは、無駄な足掻きを最後に残した。
早希と、サリーはフリーズして。
サリーが笑い出したかと思えば、次の瞬間、脳天に重い衝撃があった。
*
「痛っ⁉︎」
「嘘を言うな、馬鹿者」
「ほんとですよ‼︎」
後ろでけたけた笑っているサリーが、
「残念だけど……ふはっ、サファの言ってることは本当だよ、ははっ」
「本当だと?」
「ハーフリングの、クラウン家。とある小さなハーフリング国家の、王家だよ」
「なんでそんなこと知って……」
「有名なのさ。僕たちの間では」
その僕たち、というのは、魔物間のことかと思ったが……すぐに違うことに気がつく。
「そうか、お前の親」
「そ。なかなかオープンハートしないことで有名でね。何度掛け合っても、開国してくれない、国交を結んでやくれないんだ。おかげさまで、その国の情報すら流れない。幻の国扱いされてる」
「どうして、そんなに傾注するんだ?利益がないようにも思えるが」
「魔鉱石が大量に埋まってる土地に国があるんです」
サファが答えた。
「ほら、魔鉱石って、こういう……実物を見せたほうがいいですね」
そう言って、サファは懐から、灰色に濁った宝石のついたネックレスを取り出した。
「これです」
「よく見る。いかんせん高価だからな。違法な取引が、わんさか出てくるんだ。不純物イオンの代わりに魔力が紛れ込んだ、コランダム……」
酸化アルミニウム、コランダム。
これに不純物イオンが混ざると色がつき、ルビーや、サファイアに……
……サファイア?
「サファ、お前の名前の由来ってまさか」
早希も同じことを思ったようだ。
アタシたちはよく似ているのかもしれない。
「そう、正解です。結界の影響でこちらでは日本語に縛られますから……向こうだと、もっと響きは違うんですよ」
懐かしそうに、語った。
「なあ、サファ。お前、この仕事は、好きか」
「?はい」
「……素性を教えてくれないか。今回のこと、私たちも協力したい」
早希は、決意したように言った。
サリーもうなずく。
アタシも、同意だった。
「……わかりました。お話しします。ただし、政治に関わらない範囲で……」
と、その時。
空間がぐらつく、嫌な感覚があった。
錯覚のようにも思えたが、間違いなかった。
「……穴⁉︎」
「来たんだ、早すぎる!」
「来たって何が⁉︎」
「国の奴らですよ!」
鎧を纏った老人は、署の前で、声を張り上げた。
「サファ・クラウン・プリエ様‼︎お迎えにあがりました‼︎‼︎」
今回はここまで。




