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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
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天敵がやってくる:part1

「サリバール巡査、大丈夫か?……サリバール?」

「うん、ああ、うん、大丈夫」

 サリバールは、以前ひどく疲労し、ぼうっとしているように見えた。


 容疑者逮捕から9時間。

 容疑者が口を割るのは、はやかった。

 本人の口から、容疑を認める発言が出ない限り、「夢を操り人を崩壊させた」という、殺人よりよっぽどたちが悪いこの事件の犯人として逮捕ができない状況では、実に都合が良かった。

 ……ただ一点。

 容疑者こと、フェルシャナ・アキタクトの精神もまた崩壊寸前であったこと。

 これだけが、ひっかかった。


「……巡査部長、どうやって、あんな気づきようのない……気づいても接触できないような、事件。解決できちゃったんですか」

「ま、いろいろあってね〜……」

 サファの質問も、あっさりと受け流される。

「……もう二度とやるもんか」

 と、サリバールの呟きが、聞こえた気がした。


 *


「さて、サリバール巡査。聞きたいことがあるのだが」

「なんだい?……なんでしょう、桐上隊長?」

「1人足りないな、ここに。どこ行ったんだ一体」

 そう、1人、消息不明になっていたのだ。

 スペランツァ・ルッキーニ巡査。

 サファのバディである。

 真面目な彼女が、捜査に出たきり、連絡も取れなくなっていた。

 頼みの綱のサファの能力も、病み上がりの今、まったく安定しない。

 探そうにも事後処理に追われ、やっと少し余裕が出てきたばかりだった。

「ま、そんな仕事をほっぽるやつじゃあないし。すぐに帰ってくるって」

「帰ってきてないから……だから聞いてるんだ」

「……残念だけど、知らないんだ、これが」

「巡査部長」

 サリバールが、跳ね上がった。

「なにか。知ってますね?」

 よく見ると、サリバールの後ろに小さな人影があった。

 それは、にっこりと、おぞましく笑い、彼の背中に警棒を突き立てる。

 すでにチップは挿入されており、今にも魔法は放てるだろう。

「……話しなさい」

 初めて、サファのことが、怖いと思った。


 *


「喧嘩したぁ⁉︎」

「……ハイ」

「それだけで……そんな……」

「あちょっとサファ魔力をこめないでくれよあちちちちっ‼︎」


 服の焦げた臭いが、漂っていた。

「……サファ。やりすぎだ」

 ハーフリングの彼女は答えることなく、ぷいとそっぽを向く。よっぽど腹に来ていたのだろう。

「スペランツァだって、馬鹿じゃない。サリバールを肯定するわけじゃないが、まあ、すぐに帰ってくるだろう」


 とは、いっても。

 ……私の中の不安が解消されたわけじゃない。

 こんな真っ昼間に、人の目がある中で犯行しよう、なんてやつ、そうそういない。

 スペランツァもわかっているだろうから、きっとすぐに切り上げて戻ってくる……はずなのだが。


 彼女は、今ここにはいない。


 何かに巻き込まれたんじゃないか、と言う不安が、大きくなっていく。

 もし巻き込まれたなら、また、サカキバラかもしれない。

 ……スペランツァは、ヒトとは思えないほどの、強大な魔力をその身に内封している。

 研究対象として……十分な


(考えるのはやめておこう)


 嫌な、予感がする。

 あいつの力は、未知数だ。

 いい意味じゃない。


(スペランツァは……まだわからない。人間なのか、それ以外かすら……」

「たぶん、スペランツァは、ヒトじゃありません」

 いつのまにか口に出していたようで、サファが応えていた。

「スペランツァは、もっと大きな、なにかだと」

「何か」

「感じるんです。わたしとは、絶対に違うから」

 悲しげな瞳を、サファは浮かべた。

「桐上隊長や、サリバール巡査部長とも全然違う。魔物ですら、ないのかもしれません」

 でも、と、続ける。


「スペランツァ・ルッキーニ・フェイアが、わたしの相棒が、何者であったとしても。仲間です」


 自信満々に、小さな正義の味方は大きな声で言った。

「だから、信じましょ。隊長の想像通りのことが起きてても帰ってきますから。きっと、きっと絶対に」

 それは、自分に言い聞かせていたのかもしれない。

 サファだって、ここに来ている以上バカじゃない。

 頭も回る。

 予測ならば、私よりうまい。

 だからこそ、サファも、あの可能性に行き着いたのかもしれない。

 それでも、彼女は強かった。

「……早く切り上げて、探しに行かないとな。なあ、サファ?」

「はい!」

 不確定な情報では、動けない。

 だから、私的に動いてやれ。

 意気揚々と、仕事に取り掛かろうとした時。


 水を差すように、電話がなった。


 サリバールが応答する。

「はい、こちら……アアアッ⁉︎」

 決まり文句も言えないまま、彼は絶叫した。

 すぐさま受話器を遠ざけたサリバールは、サファに手招きして。


「サファ、サファ、君のお爺さまだ。かなりお怒りだぞ、応対して、はやく」

 と、小声で、助けを求めた。

今回はここまで。

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