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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
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心の深く、獣の思考:part7

「……なんで、なんで壊れない……!」

 夢を操るサキュバスにとって、夢の中で圧倒されるというのは、屈辱的なものだっただろう。

「アタシの夢は……アタシだけのものだッ‼︎アタシの夢は、アタシで決める‼︎」

 顔を真っ赤にして、声を張り上げた。


 魔法が放たれる。

 地上では回避しきれないだろう、故に、とんだ。

 跳躍ではない。

 飛行だ。


 サキュバスが、血相を変えて猛追する。

 飛来する光球を、いちいち回避してはいられない。

 数枚の盾で受け流しつつ……急速停止。

 光球と人型の大群が、横切った。


「“ヴォルカリス(暴射)”」


 蜂の大群のように過ぎ去ってゆく彼女たちに、魔法を放つ。

 大半が蒸発し、しかし、尚も追撃は続く。


 射線を切るために降下、地面すれすれを飛行すると、再び増殖したサキュバスが攻撃を始める。

「鬱陶しい!」

 雨霰のように降り注ぐ法撃、雑なように見えて正確で、僕の体を的確に狙い撃つ。

 盾で受け流し、弾かれた球は、地面に突き刺さる。


 衝撃だけが突き抜け、受け流すように床に転がり、もはや使い物にならなく成った盾を敵の群に

 放り投げ、両手に構えたマグナムで撃ち抜いた。

 ……盾の裏に、魔弾を添えて。


 盾は半ばから砕け、共に貫かれた魔弾が爆ぜる。

 桃色の煙を突き抜け現れたサキュバスを、両腕に纏ったリビングメイルから伸びた毒牙で、両断した。

 尚も、続、続、襲いかかる。

「くそっ、どれだ、本体⁉︎」

 銃、牙、盾。

 武装を全て駆使しても、キリがない。


 夢の本体、それを叩かねば、終わらない。


 当然、僕の本体は、僕だ。

 被害者たちの夢の本体は、ここに残る、無数のカオスだろう。

 だが……このサキュバスは、なんだ。

 まさか、物体じゃないとでもいうのか……。


(こいつそのものじゃない)

「はっ、ははっ♪」

(こんな雑に突撃させるもんか……物体でも、ない)

「ははは……っ」

(あれだけ躊躇なく、壊せないだろう……なんだ)

「はははーーーーー“ボル(放て)

(こいつの夢は、なんだ)


「ーーーーーエーヒガル(火炎)”‼︎」


「どこだ」


 はっ……と。

 覚った。


 盾も、砲も、牙も、捨てた。


 やっと諦めた、そう錯覚したサキュバスが……魔法を、放つ。

 地上の僕に向けて……


 だが。

 僕が。

「“オープン(開け)”」

 そんな、わけ。

 ないだろう!


 僕は、穴を使った。

 敵の魔法が、地上に落ちる。

 ……真上に躍り出た僕は、目撃した。


 一発も撃っていないにもかかわらず……敵の数が、減っていくのを。


「やはり‼︎本体は……この夢そのものか‼︎」


 人の夢を喰らい、保管する、まっさらな胃袋。

 それこそが、彼女の夢そのものだった。

 何もない。

 だから飢えるのだ。


 気がつかなかったのは、僕が墜としすぎていたからだ。

 さらに、過剰なまでの爆発、意味のない攻撃が、その事実を隠し遠ざけ、そして対応に集中させた。


 しかし。

 確かに、攻撃の前には、増えていたのだ。

 手数を増やすためではなく……隠すために、増殖していたのだ。


「わかってしまえば、脅威じゃない‼︎」


 術式を組み始める。

 それは、長大な、式。


「“ボル・エーヒガル(いち)”……“リグ”」

 “リグ”で術式をつなぐと、威力が上がる代わりに、燃費が悪くなる。

「“ボル・エーヒガル(じゅう)”“リグ”……“ボル・エーヒガル(じゅういち)”」

 そして、ひどく、頭を使う。

「“ボル・エーヒガル(にじゅう)”」

 それは、魔術師の自爆に使われるまでに。

 ……無茶をすればあっさり死んでしまうほど、負担が大きい。

「“リグ”」

 これは、ある種の、挑戦だった。


「……“リグ”」


 自分の限界を探るため。

 最強の相手に立ち向かう、予行練習。


 ……世界を壊す、勢いで。


「“ボル・エーヒガルド(さんじゅう)”‼︎」


 解き、放った。


 *


 罅だらけ、崩壊寸前の世界の中心に、彼女は横たわっていた。

 他でもない。

「気分はどうだい……フェルシャナ・アキタクト」

 今回の事件の、首謀者だった。

「まだ、口は聞ける筈。崩れたくないんだったら、自分から吐いたほうがいい。多少は、罪が軽くなる」

 ここを漁れば、いくらでもこいつの情報は出てくる……しかし、それで終わらせたくはなかった。

「……アタシは、サキュバスらしく、生きただけ。なんで、裁かれなきゃいけないの」

「それが法だからだよ。ここが法のもとにある以上、守らなければ秩序が失われる」

「秩序?……魔物を、蔑ろにして?」

「そうでもしなければ。僕たちは……共存できない」

「ユートピアが、聞いて呆れるほどのディストピアね、ここは。いいわ、わかった」


「全部アタシ。アタシがやった」

 サキュバス……フェルシャナは、ついに、自白した。


「……動機は、ただの食事。お腹が空いたから、襲っただけ」

「そう。で、住所はどこだい?」

「住所?」

「捕まえられないじゃないか」

「……ふふ」


 唐突にフェルシャナは飛び上がった。

 あっという間に、上空に消える。


「教えるわけないじゃない‼︎バカね、夢なんて、寝ればいくらでも視れるんだから‼︎」

 ざまあみろ、と嘲笑って、声は消えた。


「……めんどくさいなあ、まったく」

 目を覚ました。

 別に、住所がわかっていなかったわけではない。

 だが、自首することはないだろうし、捕まえにいかなければならない。

(口実、どうしようか)


 その時だった。


 ケータイに、一本の着信があった。


 *


「逃げる……逃げないと、ここから……離れないと‼︎」

 死に物狂いで逃げ出した。

 警察はすぐに来る。

 自分の種族は現では弱いことは、この身が一番理解していた。


 足を引きずり、転げながら、逃げる。

 背中の羽にすら、力が篭らない。

 夢の中で受けたダメージが、尾を引いていた。


「……捕まる……捕まる!」


 せっかく悪夢から解放されたんだ、まだ、まだ、と、焦りの感情で、汗が吹き出した。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ……まだ、普通に、暮らしたい……!」


「へえ。あなたに襲われた人は、それすらできないのに、ですか?」

「贅沢いうな。止まれ、フェルシャナ・アキタクト。逮捕する」


 それは、二人の、人影。

 朝日に逆光で、顔も見えない影でも……正体は、はっきりわかる。


 あの長身と、短身の二人組。

 最も恐れていた、存在……‼︎


「くっ、くるなっ」

 反射的に、魔法を放っていた。

 それはよろよろと飛び、二人の間を抜ける。

「隊長。この攻撃、口実としては十分ですよね」

「当然だ。さ、行くぞ、巡査」


『『ready……』』

「「SET‼︎」」

『『GO‼︎』』





 その日を境に……

 危ない「火遊び」は。

 ぱったりなくなったそうだ。

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