心の深く、獣の思考:part3
「生きてるか」
俺の腕を、血が伝った。
俺の、じゃない。
魔王サタン、の、宿主、ミュレイ・シンナのものだ。
俺の手は、ミュレイの腹の中にあった。
ミュレイは硬直し、瓦礫の上に立ったまま、喘ぐ。
今にも尽きてしまいそうではあったが、まだ、生存している。
リビングメイルを存分に扱えない今であっても、その生命力は健在のようだ。
……ただ、最強であり、最恐の魔王だとは思えないほど、呆気のない戦闘で、情けない有様だった。
肉塊の感覚から逃避する様に手を引き抜く。
吹き出された血でミュレイがのけぞり、そしてべっとりと、俺の視界を覆った。
鉄のにおい。
「……“ヒール・アリティア“」
どす黒い光が渦巻き、彼女を覆う。
「かハっ……!?」
サタン・ダイ-A・カインは、目を、覚ました。
「……俺の勝ちだな」
宣言、宣告した。
「認めない……!」
往生際の悪い。
だが、彼女も、それ以上は何もできまい。
魔力を、失い過ぎ、体に負担をかけ過ぎた。
何より、リビングメイルすら引き出せない今、サタンの力は、ひどく弱まっていた。
「弱くなられたな、サタン」
「僕はまだ……戦える!」
「まだ諦めないか」
「僕だって、魔術士だ」
「まだ誇りだの、くだらない話をするのか。これだから、老人は、ダメだ」
ため息を、ついた。
そして、
「そんなあなたに、提案がある」
本題を、語りかけた。
「ひとつ、俺の手伝いをするのは、どうかな」
「……つけあがるなよ、ザコ‼︎」
ミュレイが噛み付いた。
否、噛みつこうとした。
「魔術士の死因の九割は、下手なプライドに因るものだ」
不安を煽るように、ニッコリ、不気味に、笑いかけた。
「まさか、あなたが、そんなことをするだろうか。命と誇りを天秤にかけて……誇りを取るような阿呆だろうか?」
この状況で戦って、ミュレイが勝利する確率は……控えめにいって、ゼロだ。
今ここで、再び戦うようなことはないだろう。
「……さて、どうかな?」
そして、彼女は、確信の通り、こくりと頷いた。
「よおし、いい子だ。では、初仕事はここの修復としよう」
ぐるりと見渡すと、ミュレイは首を傾げた。
「……どんな、魔法で?」
「魔法じゃない。スキルでだ」
その一言で、ミュレイは察したようで、早速取り掛かる。
俺の感情は、まさに歓喜だった。
なんと、魔王を、従えることができた。
これで、さらに研究が進めやすくなる……そう、優越に浸っていた時だった。
きらり、
遠方で、蒼い光が、輝いた。
「!?」
その光の正体、槍は、俺の頬をかすめ飛ぶ。
「さッかきクぅン、あッそびましょオッッ‼︎」
背後から、凄まじい殺意のこもった声が……‼︎
「……“ツァクラオ”‼︎」
制限、調整なしの魔法が、とんで出た。
とっさに回避した攻撃、しかし奴は、構えてすらいなかった。
それは、力を失ったサタンなどとは比べ物にならないほど恐ろしい相手。
……全盛期の、最強の魔術士の一角……‼︎
「何をなさっている……マーキュリー‼︎」
彼は、魔王軍幹部。
「昨日の友が今日の敵になっただけさァ……腕の一本ぐらい、貰っていくぜェ‼︎」
前触れもなく、彼は襲いかかった。
今日は、乱暴な客人ばかりだ。
*
……魔物生活保護法。
この結合した世界において、最もはじめに編まれた法律であり、根幹であり、そして、障害であった。
曰く、「この法が定めし処において、種族または個人に於ける例外はないものとする」
可決した瞬間こそ、この世界が、魔物の存在を、そして、魔物の移住を認めた瞬間であった。
大雑把に解説すると、魔物の能力を縛るする法だ。
それは、人間すら含む。
つまり、種族としての特徴……魔法に、スキル、種族の特性、全てを規制するのだ。
魔法がレベル1までしか扱えない理由も、こちらの世界の人間にスキル未覚醒者が多い理由も……向こうの世界での、魔物は人を襲うものであるという常識が通用しな理由も、これにあった。
こちらの世界は、魔物の存在は、認めた。
ただし、その能力、文化は、決して認めなかった。
日本は異世界に支配されながらも、独立したのである。
しかし、これを作ったのは、人ではない。
こちら側の、日本人ではないんだ。
魔物生活保護法。
それは、種族間、または、個人間においての制約を記した法。
そう……組織においての例外は、規制されていない。
その作られた穴を的確についた組織こそ、僕たちだ。
僕たち警察庁警備部魔術一課は、キュルバール・ランドゲル・クレストによって作られた。
彼こそ、作家であり、国を変えた政治家であり、戦争を終わらせた男であり……この法案を通した者であり。
僕、サリバール・ランドゲル・フェイアの、父だった。
補足。
当然、組織さえ作って仕舞えば、スキルも魔法も使い放題なんてわけじゃあありません。特殊な許可が必要なのです。




