表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
35/67

心の深く、獣の思考:part1

 放火事件。

 至って簡単で、一見、僕たち『警察庁警備部魔術一課』には関係のないように思える。

 だが、もし。

 明らかに、不可解な点があったとすれば。

 ……今回は、そんなお話。


 *


 僕たちの第一小隊は、壊滅した。


 正確には、半壊だ。

 4人のうち、2人も病院送りになってしまった。

 早希は目を覚まさない。

 サファは、目は覚めるものの、すぐに発作が出る。彼女の場合、よっぽどひどいスキルの使い方をしたのだろう、と、ヘルネルは推測していた。


 そうだ、ヘルネル。

 血液を調べてもらった結果が、事後であれ、ようやく出たのだ。

 結果は、白でも、黒でもなく、「グレー」だった。


「サタンの血の成分は検出されなかったよ。前、小指のミイラを診たことがあったから、きっと間違いない。ああ、でもね。魔力の組成式まで成分とするなら……居たよ、サタン。あんなねじ曲がった組成式、常人の体にあってたまるもんですか。だから、あの子の体には、サタンが関係してる。気をつけて……って、もう、遅いか」


 ヘルネルの視線の先には、早希がいた。

「……ミュレイの戦い方は、悪魔のものだよ。実力に感けて、強い魔法を連発するんだ。あの自信満々な性格も、それの現れかもね。直接見てきたから、わかると思うけど……だから、どうしても油断ができる。本当だったら、それが弱点なんだ。でも、あの子、人間だから、それに、一撃思いっきり喰らっちゃってるから、警戒心はずっと強くなってる……総合的に見ると、めちゃくちゃに、強い」

 気をつけて。

 二度目は、さらに深刻そうであった。


 *


 これが、一昨日の会話。


 今日、活動能力を失った僕ら。


「ようこそ、第二小隊へ」

 リザードマンが、出迎えた。

「エヴゲ・オカトフ・フェイア隊長、よろしくお願いします」

「……お願い、します」

 僕に続いて、スペランツァが頭を下げた。


 僕たちは、第二小隊へ編隊されることになった。

 ただし、そうは言っても、一時だけ。

 今ここにはいない彼女達が、退院し、復帰するまでの、(おそらく)短い期間のみの編属だ。


 表舞台に立って暴れまわる第一小隊。

 裏方の仕事を淡々と処理する第二小隊。


 部隊が違うのみで、その仕事もがらりと変わる。

 実は、ほんの少しだけ、いいや、だいぶ、心が踊っていた。

 上辺のみの情報は度々耳に入るが、深い所までは、知らなかった。


 第二小隊の状況が知れれば、あわよくば、比較の末に待遇が上がるかもしれない。

 常に死が隣にある過酷な環境下だ、きっとそうだ。

 そうに違いない。

 そんな淡い期待を抱きながら、菓子折を差し出そうとした、その時だった。


『火災発生、繰り返す、火災発生。座標送る……第二小隊は至急現場に向かうように』


 けたたましい鐘とともに、命令が下された。

 あまりのタイミングの悪さに動けずにいた僕らに目もくれず、不審火か、またか、とざわつきながらも、すぐさま準備を整える、第二小隊の面々。

「ああ、君らもこい。うちの隊の仕事は、現地で伝えるから」

 エヴゲは常に、淡々としていた。


「……そうか、そうだよね、当たり前だ」

 そもそも、部隊がひとつない現状で、環境が改善されるわけがない……むしろ、悪化するだろうに。


 音を立てて……幻想と、やけに値のはった菓子折が、崩れ落ちた。


 *


 彼は、火災現場で、笑っていた。


 鎮火し、拘束された今も尚、笑っている。

「はーっ、はっ、はっ、はっ、はーーーっ」

 感情の起伏のない、薄っぺらな笑い声。

 だのに、満面の笑みだ。

 おぞましいとすら思った。

「……あれが、犯人……?」

 あまりの不気味さに、スペランツァもたじろいだ。

 車両に乗せられている最中に、ぐるりと、犯人は首を回し、見開いた瞳で、僕らに笑いかけた。

 くる、ぐる、ぐるり。

 駆けつけた消防隊員やら、第二小隊の面々を見渡した後、支離滅裂な、そして、素敵で奇妙で不敵な……妄言を、戯言を、垂れはじめた。


「ここは、星の王子様の、巣窟だ。きら、キラ、恒星が、画竜点睛っぽく、だーっと、走り回るんだ……」


 *


 連れて行かれた後も、奇抜な戯言と、呻くかのような笑い声が、耳をついて離れなかった。

 ……薬か。

 それとも、洗脳か?

 あれほど酷い発狂は、久しく見ていない。

 また、サカキバラの仕業か?

「そんな、まさかね」

 あらぬ方向へと飛んでいた思考諫める言葉が、ついうっかり洩れてしまった。

 耳のいいエヴゲに、一喝された。

「ランドゲル巡査部長。無駄なことを考える必要はない。我々は、警備しているだけでいいんだ。いいな」

「……了解」

 クソ真面目め、と、子供のような反抗心が湧き立つ。


 そもそも、ここに長時間突っ立っていること自体、難しいのだ。

 自分たちは鉄砲玉のような……ただのあらくれもの、武装集団であったことを痛感させられる。

 よっぽどのことがない限り、警備部らしいことをやってこなかったのだ。

 それは当然、反感を買うだろう。

 そんな腐った性根を叩き直すためか、この場には僕とスペランツァとエヴゲと……それだけだ。

 他は帰ってしまった。

 エヴゲがわざわざ残ったのは、監視のためか。

 ……「僕らの」監視、という不名誉なおまけ付き。

「……巡査部長」

 スペランツァが、こっそり話しかけてきた。

「どうしたの」

「……今回の、あの人なんですけど」

「あの人?」

 エヴゲを振り返ろうとすると、スペランツァが慌てて止めた。

「いえ……いえ、違います。そっちじゃなくて……容疑者です」

「ああ、なるほど」

 スペランツァにしても、ショックは大きかったようだ。

「なにか、思うことがあるのかい?」

「……ウチ、あれが薬だとは、思えないんです」

「……つまり、他の推測が?」

「あります」

 その断言は、確信のものだろう。

 背中を指すエヴゲの視線を感じた。

 それでも、思考は止められない。

 行動を戒めたのみでは、考えることをやめさせることはできない。

 そもそもエヴゲが見ている中で話してきたんだ、ろくでもない結論に至ったに違いない。

「へえ、そうかい。少し話してみなよ」

「……いいんですけど、その、ですね」

「どうしたのさ」

「巡査部長にとっては、不快に感じる話かも、しれません」

「……へえ?」

「えっと、ですね


 ……魔物生活保護法に、触れかねないんですけど」

今回はここまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ