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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
33/67

自信過剰は救世主:part5

『”open“ the 3rdWorld.ready ……』

 光の奥より、現れし鎧。

 それは、獅子を模す。

 それは、山羊を模す

 それは、蛇を模す。

「TURN」

『GO‼︎』

 僕たちは、テューポーンとエキドナの間に生まれた仔の末裔。

 獣人となって、臨界。

 三位一体の獣……

『model……C H I M A I R A!!!!』

「僕はもう、退かないぞ」


 *


『えっ……キマイラ⁉︎』

 スペランツァが驚きの声を上げる。

「そうだ。あいつの兄は、キマイラの獣人だった。あいつ本人も、それだよ」

 獣人は、自分が何の獣人であるかを、自らの口から語りたがらない。獣人の世界にも、まだ確かに弱肉強食の理念は存在していて、己の存在を明かすことは、死につながりかねないそうだ。

 だから、時にして獣人は己の種を偽る。

 ひどいところでは、角や牙を折ってしまう種族もいるらしい。

 その中でも、ランドゲル家は異質だった。

 魔物の、獣人。

 二重にもかけられたベール、その奥の存在がまさか、キマイラの獣人だなんて誰も思わないだろう。

 獅子と山羊を混ぜたような顔つき、隠してはいる尾には、蛇がいる。

「獣人の中では有名らしい。面白いよな、キマイラの獣人。お、始まるぞ」


 *


「”浄化する者(デリート)“……“ボル(発射せよ)エーヒガル(火炎)”!」


「……カウンターアタック、”ウォル(壁を展開)フルム(鋼の如く)ガズルゴバ(大地の如く)“」


 火球が飛来し、生成された土の壁に着弾。

 壁の向こうの火の球から、嫌な『気』を感じた。

 なるほど、”浄化する者“との絡め手か。


「”リグ(接続)“”ブラボ(破裂せよ)エーヒガル(火炎)‼︎‼︎」


 勢いに任せた、ど基礎の接続。

 火属性の魔法は、爆破に転じやすい。

 簡単だが、強力な魔法だ。

 ……ならば。


「”リグ(繋げ)“」

 同じもので返そう。

 だが……


「”ファマ(噴射)リグ(接続)ウォル(壁を開いたまま)スオラ(加速)エアロハル(風の如く)


 見栄は張りたいものだ。

 先輩として。

 魔術師として。


 なかなかお目にかかれない、複雑な呪文。

 土属性から風属性への主属性の転換。

 初めから組み直さねばならず、少しばかり面倒だが、まあ、いい授業になっただろう。


 強風に押し返された爆炎、その向こうに、唖然とするミュレイを捉えた。

 だが、もう終わったと思っているようで、次の魔法を必死に考え始めている。


 ……あまりにも、遅かった。

 これが決闘であれば、もう死んでいるだろうに。

 だが、運がいい。

 悪しき文化、少年法に守られているうちは、殺すまでしては怒られる。


 だから、圧倒的なチカラで屈服させればいい。


「”リグ(繋げ)“”ボル(発射)エーヒガル(火焔の如く)……」


 三段接続。


 そして。


「”リグ(繋げ)“”ブラボ(炸裂せよ)エーヒガルド(火焔の如く)‼︎‼︎」


 ……四段接続!


「……あっ、」

 唱え終わってから、気づいた。

 勢いに任せて、滅多にやらない四段接続なんてするものだから、組み立てがいい加減になっていた。

 勢い余って放たれたレベル4……エーヒガルド。半端な場所で破裂したとは言え、女子高校生の身体を飛ばすには十分すぎる火力だった。


 ミュレイは、二度、三度、バウンドして、仰向けに倒れ、動かなくなってしまった。


「……まあ、リビングメイルが砕けていないうちは死んでないだろうし。授業料代わりさ、うん」

 適当な言い訳で不安を鎮め、ゆっくりと近寄る。

 すっかり気絶してしまっているようだったが、血色はよく、まだ息もあった。


「……チェック・メイト」


 *


「終わったか。早かったな」

 拳銃からマガジンを引き抜いた。

 特殊な形状のマガジンに仕組んでいたのは、銃弾と……『リジェクト・チップ』。

 最近ようやく入手した、最後の手段だった。

 それも、出番なく終わりそうで、安堵した。

「おい、サリバール。さっさと捕まえて……」


 その時だった。

 黒い刃が、天に突き抜けた。

 明確に、サリバールを狙ったその一突。

 必死に躱したサリバールを嘲笑する様に、高笑いが轟いた。


「“ザングルーズ(極斬)”⁉︎」


 直感だった。

 しかし、確信だった。

 私は一度、あれを剣で受けたことがある。

 禁忌。

 被弾すれば、スキルが“浄化する者”だろうがそうでなかろうが即死だろう……巨大な、爪。


「っチぃ‼︎」


 再び構え直した。

 狙いをミュレイに合わせ、引き金に指をかける。

 ……だが。


 私はどうしても、これを引けなかった。

 撃てば、全て、終わるのに。

 魔術師たちの視線は、私を捉えて、逃さなかった。


 ーー手を出すな。


 ーーさもなくば、殺す。


 彼らの眼は、語っていた。


 *


「ハロー!元気ぃ?」

 横になったまま、ミュレイは歪んだ笑みをこちらに突きつけてきた。

 声音はミュレイの、少女のもののまま……しかし、その気迫。


「……サタン‼︎覚醒したのか……‼︎」

「良い目をするねぇ、サリー。強くなったねぇ、サリー」


 かっ、と、頭に血が上った。

「……その名で、僕を、呼ぶなッ‼︎」

 “ネグズ(棒を生成)リグ(接続)ファマ(噴射)ヴェドルゴラ(光の如く)

 咄嗟に放った棒状の『レベル4』魔法。

 最大火力の魔法……だと、いうのに。


「“オープン(開け)”」


 直線的な攻撃は、当然、読まれる。


 ……現れた虚空に、光は消えた。

 “オープン”だって、禁忌魔法のはずだ。

 魔力をよく食う、すなわち、複雑化した術式は、即時発動を許さない……はずだ。

 ましてや、初心者であるミュレイが使えるはずもない。

 なのにミュレイは、いともたやすく発動した。

 ……もはやミュレイがミュレイではない、証だった。


「さぁ、振り返ってみなされ」

 その一言、すべてを察した。

 入り口のある『穴』。当然、出口が存在する。


 真後ろだ。


「‼︎‼︎」

 掠ることも許されない。

 “浄化する者”があるのだから。

 頭で術式を組みつつ、気配で躱す。

 ……もっと、加速できたはずだ。

 舐められている。

 その事実が、僕の怒りをさらに煽った。


「「“オープン(開け)”」」


 同時に放たれ、深淵に消える。

 距離を置いて、向き直した。

「……ははっ、いいじゃないの。ボクが選んだだけあるねぇ、サリー」

「何度言ったら、わかる……ッ⁉︎」

 ばちり、と、空気が撥ねた。

 空間に満ちた魔力の慣れ果てが、怒りのままに放たれた魔法未満の『なにか』に反応したのだ。

 暴走した感情の、反射であった。

「……それを。口に、するんじゃない」

「どうしてぇ、駄目なんだい?強いトキの名前なのにサ?」

「強い?違うよ、ミュレイ。あの時、僕は、限りなく弱かった」

 サタンに向けた言葉ではなかった。

「自分を、奪われたからじゃない。倒されてしまったからじゃない。なにもできず、友達を、仲間を、傷つけて、忘れてしまったから……贖罪すら、できなかった。でも、君は、違うだろう?」

 瞼を、閉じた。

 影が見えた。

 僕の、救世主だ。

 名前も思い出せない。

 顔すら、覚えていない。

 ……でも、きっと、空想の存在ではない。

「君の救世主に、僕はなりたい。なにも、全部終わったわけじゃない。これから先も、人生だ。


 ……だから、絶対に、逮捕する」


『SNAKE』


 左肩、蛇の装飾に触れた。

 手の甲に、毒牙を模した武装が現れる。

「ファング・オン」

「“ザングルーズ(極斬)”」

 返すミュレイは、禁忌魔法。

 正面からの打ち合いは苦手だった。

 ……それでも、引き下がってたまるか。


「”ナクル(早く)スオラ(速く)カレスドリグ(疾く)‼︎‼︎」

「”ツァクラオ(超躍)“」


 全身、全霊、全魔力。


 全てをもって、交叉した。

今回はここまで。

魔術戦もう二度とやらん。

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