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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
32/67

自信過剰は救世主:part4

「……さて、ネタばらしとしよう」

 校門が見えてきた。


 *


 遡る。


「隊長、これ使いますよ」

 と、サファは一枚の真っ白な紙を掲げる。

「……別に構わんが、どうしたんだ、それ」

「さっき使ってた取調室にあったんですよ。ほら、血液検査の書類の隣」

「ん、ああ……ん?」

 ……なにか、不信感を抱いたが、今は、そこは重要ではないと判断した。


 まず、ミュレイの位置が特定できない。


 次に、ミュレイの殺し方が特定できない。


 二つ目に至っては、殺したかすら断定できてない。あいつの言葉から判断するに、確実に殺っているのだが、証拠がないのだ。

 ミュレイの、あの性格で有れば、真っ先に、殺した証拠を提示するはず。

 目的はわからないが、ただ、私たちに自分が殺したことを証明したければ、証拠を提示すればいいのだから。

 だのに、言わなかった。

 スペランツァとサファが、昨日丸一日かけても、死体も、それらしき魔力反応も、関連していそうな被害届、行方不明届すら出てこないのだ。

 ……脱走した時、あの場からは、禁忌級の魔力反応があった。

 “オープン”を使えばいいものを、それすら使わず、壁を打ち破って逃げ出したのだ。結界すら、木っ端微塵に砕かれていた。


 力を示すためか。

 自分は殺ったのだ、と。

 証拠の代わりに、躊躇なくできることを表したかったからか。

 ……その場に、誰もいないのに?


 その時、驚くべきことに、見張りの一人もいなかった。

 誰も、見張りを指示していなかったのである。


 ……いよいよ、本人の錯乱か、と思わざるを得ない。


 それでも、あの魔力量。

 それに、今の時点でかなりの罪を積んでいる。

 確実に、捕まえなければならないのだ。


 ……なのに!


「サファ、逃げたあいつの、足跡を辿れるか?」

「今、やってます……ああっ、飛ぶな……っ!」

「……はぁ」

 姿を表さずとも人を追える、追跡の専門家のような奴がいながら、場所も特定できない。

 サファも、『向こう側』までは見れないのだ。

 それに、範囲を広げれば広げるほど、体力を浪費するらしい。


「サファ、過去は、どうだ」

「ダメです、まず、人と接触してなさそうです」

「人と、接触してない?」

「それは……私が……」

 スペランツァが手を上げた。

「……えっと、ですね。やっぱり……いなかったです。友達とか」

「トラブルは?」

「も……無さそうです」

「恋愛とか」

「……ゼロです」

「バイトは」

「やっていない……ようです」

「家族」

「いませんでした」

「……どうやって生きてきたんだ」

「……わかりません。わかりませんが……きっと上手いことやってきたのでしょう」

「待て、家族がいないってなんだ」

「なにって、存在がなかった……あれ」

 ……霞がかかったようで、思考が進まない。

 なにかが、おかしいはずなのに。


「……生徒数、調べられるか」

「調べてあるよ、ありますよ」

 サリバールが真っ先に声をあげる。言い直したのは、部下の前と気づいたからか。

「面白いよ、こりゃ」

 あっという間に崩れた口調、そのわりに、いたって深刻そうな目が、データの異常性を示していた。

「……ミュレイ、いくつだったか」

「えっと、16だね。今、2年生」


「なんで、この年だけこんなに少ないんだ」


 そう、やはり、というか。

 ミュレイの学年のみ、数十人ほど、少ないのだ。

「さあ。入学者が少なかっただけじゃない」

「……そう、かもな」

 と、納得する。

 ……その先の思考が、どうしても、出来ないのだ。

 全てにおいて、合点がいく。

 なぜだ。


 ……なにがおかしいんだ。


 ……なんで疑ってるんだ?


「なにがしたかったんだっけ……」

「はいはい、対策と逮捕でしょうが。見失ってるんじゃないよ」

「おかしいじゃないか。探せば探すほど、証拠から遠ざかる」

「うん。おかしなデータはあるけど証拠から遠ざかる」

「……は?」

「ん?」

「そもそもなんで、ファーストコンタクトで逃したんだ。せめて、親を呼べば……」

「だから、親いないんだってば」

「ああ、そうか」

「うん」

「…………は?」

 何故か、何故だかわからないが、考えれば考えるほど、遠ざかっている気がする。

「……あー、確認してもいいか」

「うん」

「私は、なんで、この事件に集中してた」

「さあ。急に必死になって」

「そこだ。まずそこは変だ」

「……?」

「証拠もない段階で、疑い、その挙げ句逃してるじゃないか」

 靄のかからない方向から、アプローチを仕掛ける。

 これ以上、あの方向からやっていては、発狂しそうだった。

 それに……考えられるので有れば、使った能力が違うのだ。

 余計に手間がかかるか……もしくは、手がかりになるかもしれない。

「……ああ、サカキバラの“人払い”の類を疑ってるのかい」

「可能性だ。可能性だよ」

「わかってる。調べてみよう」


 *


「サファ、大丈夫か」

「………」

「サファ?」

「ん、あ、大丈夫です」

 サファが、あくびをこぼす。

「眠いんです、ちょっと」

「一晩中付き合わせてしまって、悪いな」

「いえいえ。全然」

 それだけ言って、また悩むような表情を見せた。

 かと思うと、紙に何かを書き留める。

 なにしてるんだ、と訊ねようとしたら、


「……あっ!」


 スペランツァが、驚きの声を上げた。

 彼女には、サリバールと共に、魔術式の分析を任せていた。

「ちょっ……これです、これ」

 ノートパソコンに強引に視点を合わせられる。

 スペランツァにしては珍しく、慌てていた。

 画面に映っていたのは、魔力放出量のデータのようだ。

「これ、ミュレイが“オープン”を使った時の記録なんですけど、ここ……この先の、ところ。ほんの少しだけ……飛び出てるでしょう?」

「……誤差にしか見えないが」

「誤差なんです……でも、ここに飛び出るのは、普通の、学生魔術士並なら……絶対にあり得ないんです。修正できる、誤差なんです」

「それを修正しないとどうなるんだ」

「チカラが出せなくなります……存分に」

「というと?」

「ほら……例えば、ボールを投げるとするじゃないですか。正しく投げればよく飛ぶボールでも……下手にチカラを込めれば、全く違う方向に飛んだり、全く飛ばなかったりします。これは、まさにそれです」

 “エーヒ()”と、スペランツァが唱える。

 すると、彼女の掌の上に火の球が生成された。

「……んっ」

 顔を硬らせ力んで見せると、安定していた魔法は、いともたやすく崩壊、解けて消えた。

「これは少し……過剰な例です。これはもっと……複雑です。エラーの上に、エラーを置いてる……そのエラーだって、完璧すぎる魔力放出の裏に隠れて、ほとんど見えなくなってる。外から認知するのは、絶対に無理でしょう」

「?話を聞いている限り、修正できる要素が全く見つからないのだが」

「……外部からは無理、と言ったのです。それが自分が扱う魔法だったら……全く別の話。正しさを追求する魔法使いは、魔法がちょっと違うだけでも……気持ち悪い」

 それは、先ほど必死に力んでようやくレベル1の魔法を崩壊させたスペランツァが示していた。

 思考の根底にあるのが、正しさなのだ。

 そこから少し逸れることすら、許そうとしないように「なっている」……のかもしれない。

「……魔法が使えない人間からしたら、全く、よくわからない感覚だ」

「そこ。そこが、ミソです」

 いつになく強気に、スペランツァは言い切った。

「ウチの推測では……あの子、全く魔法の勉強してなかったんじゃないかと思います」

「……魔法の専門学校に通ってるんだぞ」

「桐上隊長、”ゼリルガンナ“という禁忌魔法があることを知ってるかい?」

 サリバールが、話に割り込んできた。

「……ゼリルガンナ?人払いの、あれか」

「ちょっと違うけどね。本来の役割は、意識改編。記憶をちょっといじるのに使ったりしていた魔法さ……今からやることは、他言無用ね」

 サリバールは、スペランツァの真似をするように、小声で”ゼリルガンナ(意識改変)リジェクタリ(制限なし)“と、唱えた。

「ちょ、お前……あれ?」

「どうしたの」

「……いや、なんでもない」

「僕は今、ゼリルガンナを唱えたよ」

「……なあスペランツァ、こいつ嘘をつきだしたぞ」

「いや……ちゃんと唱えましたよ……って、あれ?」

「忘れちゃったでしょ」

「……なるほど、これですか」

 一人、合点のいったようで、スペランツァが頷いた。ついて行けない私に、スペランツァが説明する。

「実は、ゼリルガンナをはじめとする禁忌魔法って、ストッパーがかかってることが多いんです。ゼリルガンナの場合、ストッパーがないと……欠けた意識が伝染します」

「聞いたことないぞ」

「絶対的な秘密ですから……悪用された日には、人類崩壊待ったなしです」

 魔法のことになると、饒舌になるらしい。絶対的な秘密、といったことを、あっさり暴露した。

「……ね、スペランツァ」

 魔法使いとして先輩であろうサリバールから、戒めるような視線を向けられて、スペランツァは焦った。

「あっ、あー……ゼリルガン」

「おい、よせ」

 せっかくの時間が無駄になりかねなかった。


 *


「話を戻すよ。なんでゼリルガンナの話を出したかだ」

 サリバールが、言い直す。

「それもこれも、この魔法の中に、あるんだよ。ゼリルガンナ」

「……どういうことだ」

「この小さい突起。さっき言った誤差ね。この中に、組み込まれてる」

 真剣な顔だった。

 ……深刻さを、訴えていた。

「……こんなの、僕だってできるかわからない」

「うちは……絶対にできません」

 この二人は、間違いなく最高クラスの魔術師だろう。その二人すらできないこと……それをやってのける、存在。


 ……思い出したくもない存在が、脳裏をよぎった。


「サカキバラ……っ‼︎」


「彼なら、ゼリルガンナのストッパーを外した時どうなるか、知っているだろうね。魔法の基礎もないミュレイに“オープン”を教えたのだって、きっと彼だ。その時に仕組んだのだとすれば……」

「……くそ、また、あいつか」

 ……何も知らない、ただ意欲だけあるミュレイは、さぞ動かしやすい駒だったろう。

 意図は、我々を消すためか。

「……余計厄介なことになったな」

「でも、はっきりしたよ」


 サリバールは、まとめた推測を述べ始めた。

「まず、サカキバラから、なんらかの方法で魔力と魔法を授かった。賀納谷魔導高等専門学校に、入学しているという嘘をでっち上げ、侵入しては殺し、ゼリルガンナで隠した。そして、経験を積んでから、最終目的の僕たちを消すために、ここを訪れた……ってとこかい」


 説得力はあった。

 だが、何かが足りない気がした。

 他の意見を聞こうと、サファに声をかけた。


 ……返答がなかった。


「……サファ?」


 そしてサファは。


 椅子から落ちた。


 *


「被害者の存在を消したのは、スキルだ」

 断言した。

「スキル?……それに、存在を消したって?」

 サリバールが聞き返す。

「なんで親がいないんだ。明らかに、おかしい」

 言われてみれば当然で。

 それでも、気がつかなかった。


 ……きっかけは、サファのたったの一文。思考が霞に消える前に書き留めておこうと思ったのか、乱雑に「親がいないって何?」と書かれていたのだ。


 もしかしたら……生徒を殺したのも、スキルかもしれない。

 もしかしたら、見張りの存在を消したのもスキルかもしれない。


 それでも、証拠……明らかにおかしい、というわけではなかった。

 でも、親だけは、どうにもならなかった。

 理解した時、戦慄した。

 ……まさか、親まで手にかけたのか。


「……スキルであれば、魔力もなく消せる。ただし、死体まで消えてしまうのだろう。だから、言い出せなかった。自分が人を殺した証拠を、出せなかった」

「そのスキルって一体」

「”浄化する者(デリート)“。サタンが持っていたとされるスキルだ」

 サリバールが唖然とした。

「……もちろん、これだって証明はできなかった。だから、伝説上なんだ」

 ……でも。

 と否定した。

「仮に、サタンのスキルが存在したならば……私は、あの栄光を誇ったサタンが、死んだ方法を何も知らない。私は、今まで病死か寿命だと思っていたが。これだと、暗殺だな」

「……殺されたんて、あり得ない」

「サタン・チップ」

 ……サリバールが、絶句した。

「……が、もしあったとすれば。今回のこと、全て納得いくだろう。ミュレイのあの無尽蔵な魔力も、スキルも、サタンの生まれ変わりだってぶっ飛んだ主張にだって、説明がつく」

 ミュレイの魔力は成長を続けている。

 サタン・チップに適応してきているのかもしれない。

「なら、どうして使いこなせているんだ。それこそ変じゃないか」

 サリバールは、明確に怒っていた。

 サリバールたち魔物にとって、サタンとは配偶者であり、崇拝者だ。

 冒涜されれば、気分は良い者ではないだろう。

「どうなんだ、早希‼︎」

「リビングメイルだ」

「……なんだって?」

「あの制服だよ。何も鎧だけが、リビングメイルじゃない」

 今思い返せば違和感しかない。

 ……なぜ、休日だというのに、制服を着ていたんだろうな?

 気づくべきだった。

「”カイン(装着)“を使える存在さえいれば、誰でも装着できる。スライム・モーブの時、新田との戦闘の時だって……当然、チップの主に飲まれるリスクがある。新田は、そう、だった。今のミュレイも、そうなんじゃないか」

 さもなくば……自身がサタンの生まれ変わりなんて妄言が飛び出してくるなんて。

 ……考えたくなかった。

 もしかしたら、あの一人称だって。

「それは、個人的な性格に面もあるのかもしれないが」

「…………」

 サリバールは、応えず、黙ってしまった。

「だが、ひとつだけ疑問がある」

「……?」

「リビングメイルにしては、学生証のつくりが精巧過ぎたな」

「それは、作らせたから……」

「まさか、ほんのちょっとの傷や、擦れまで再現できるわけではあるまい。学校自体に在籍していたのは、事実だろう。転科しただけじゃないか。なにも、魔法を使うだけが、魔法学校じゃあないだろ」

 それでも……魔法を使うことの憧れが、捨てきれなかった。

 ……だから、リビングメイルにまで頼って。

 身を、堕とした。


「まとめると、こうだ。


 魔法使いに憧れる、人間女の子が1人いた。

 女の子は魔法学校に入っても、魔法は使えない。なんとしてでも、魔法を使いたがった。

 サカキバラが、目をつけて、女の子に接近……リビングメイルを授けると、魔法が使えるようになった女の子は、喜んで魔法を使う。

 ……その間にも、彼女の学校全体にゼリルガンナが施されていき、彼女自身もオーバースキルとチップの弊害で、自我を失っていく。

 それを見たサカキバラ、女の子の同級生を消させ、空いた枠に魔法科に転科させる。

 ……そして、準備完了。

 違和感のない『違和感』が、完成。

 私たちを、彼女と衝突するようにすれば、後は任せておけば邪魔な私たちは勝手に消える」


 ……暗殺、という手を取らなかったのは、たぶん、サカキバラなりの美学だ。

 彼やその仲間は、逃走することはあっても、戦闘をしないことはなかった。

 サカキバラだって……歪んだ形であれど、自分の力を誇示したい、子どもらしい魔術師なのかもしれない。


「なんで、ここで待ち伏せたの?」

「親も、友人も居なくなったミュレイの、世界とのつながりは、いつ現れるかもわからないサカキバラ、自分を追いつめる警察……それに、学校だ。サファが必死に書き残したミュレイの位置情報、あれを見てればわかる……ミュレイは、絶対に、この世界から、街から、逃げようとしなかった」

 それは、今のミュレイの高い理想のせいかもしれない。

 プライド、自信のせいかもしれない。

 ただ、言われたことに従っているだけかもしれない。

 でも、私は、未練だと……過去のミュレイの、純粋な意思だと思うのだ。


 仕掛けておいたアラームが鳴った。


 登校時間だ。


「スペランツァ、避難は完了したか」

『ええ……職員はもう、その場には居ないと』

 念のため、署に居てもらったスペランツァ。

 避難させるよう頼んでいた。

『……来ますでしょうか』

「心配しなくていい。ちょうど、今。来た」


 深淵が開く。


「……行こうか、サリバール」

「僕にやらせてくれ」

 力強く、サリバールは言った。

「彼女だって、どんな形であろうと、1人の魔術師なんだ。魔術師として、相手してやりたい」

「……相手は、リビングメイルを着ているんだぞ」

「だったら、僕も着ればいい」

 サリバールは、車から降りた。

「許可を」


「……許す」

「ありがとう、早希」


 取り出した一枚のチップ。

 異形の獣が、描かれていた。

「兄様、チカラを貸してください」

 折りたたみ式のデバイスにチップを差し込み、告げる。

 ……戦闘開始の、合図。


「……SET」

『Start livingmail』

今回はここまで。

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