自信過剰は救世主:part3
「ミュレイ、座りなさい」
ずぶ濡れで帰ってきたボクに対して、お父さんはいたって深刻そうな顔をしていた。
「なに、どうしたの」
「警察の方から連絡があった」
ああ、逃げたことを言っているのね。
だったら、もっとしっかり囲っておけば……昨日ちゃんと押さえ込んでおけばよかったのに。
そもそも、なんで昨日この人たちからなにも言われなかったんだろう?
……舐められてた?
違う。
「……ああ、ボクが襲うかもしれないから……」
「座りなさい!」
お父さんが、怒鳴った。
「直に、警察の方がくる。それまでは……」
「え。やだよ」
チカラが、湧く。
「だって、まだなにもできていないじゃん」
鍵は空いていた。
突入したとき、あまりの室内の暗さに驚きを隠せなかった。
結局、ミュレイは見つからなかった。
一人で暮らすにはあまりにも広すぎる家が、取り残されていた。
*
サファが椅子から転げ落ちた。
あまりにも急に倒れたものだから、一瞬の沈黙があった。
「……スペランツァ、救急‼︎」
「は、はい!」
「早希!ヘルネルさんまだいたよね⁉︎」
「まだいる!頼むサリバール!……おい、サファ⁉︎」
サファは全身が汗で湿っていて、呼吸も、脈も、著しく早かった。
……まるで、全力疾走をしたかのようだった。
「オーバースキル……‼︎」
スキルの使い過ぎによる、身体的、又は、精神的異常だった。
これもまた人それぞれ、私であれば、思考能力、感覚の喪失だ。
……サファの場合、人の過労に近い症状が出る。
スキルを酷使するリビングメイルを、初めて纏ったときも、同じように倒れていた。今でもたまに、戦闘後はふらつくことがある。
……だが、これはもっとひどい。
「いったい、どれほど酷使すれば、こんな……」
はっ、と、気づいて、彼女の机上を見る。
……ミュレイの行動記録が、紙から溢れんばかりに書かれていた。
禁忌“オープン”を扱えるミュレイを、見失った私たちにとって、唯一、彼女を追えるのは、サファだけであった。
昨日の一夜、保護の作戦を立てている間、ずっと追っていたのだ。
酷使させてしまっていたのだ、私たちが。
「サファ、おい、サファ!返事しろ、サファ‼︎」
「……ぁぅ」
「はいはい、どいてどいてー」
ヘルネルが押しのけて、サファを抱く。
「あら、あっつい。オーバースキルかな。この子、スキルの制御はちゃんとできるの?」
「え、ええ、はい」
「んー、じゃ、変に走っちゃったかな」
呼吸の確認、脈の確認をして、特に異常が見られないことを確認したのか、ヘルネルは安堵のため息をついた。
「とりあえず、大丈夫そう。頭を打った痕跡もないし、スキルにのまれたわけもないだろうからね。ほら、まだ起きてるよ」
「サファ⁉︎」
「たいちょー……」
か細い、今にも消えてしまいそうな声で、サファは呼んだ。虚な目で、笑う。
「ちょっと、失敗しちゃったみたいです」
「勝手に無茶してるんじゃない」
「お仕事増えちゃいましたね」
「まだそんなこと言ってるのか」
……何故か。
新田の、あの時と、重なった。
「……泣いてるんですかぁ、たいちょー……」
「バカ、こんなことで、泣くわけないだろ」
「……優しいんですね」
同じことを……語る。
その後、何か言ったのかもしれないが、けたたましいサイレンが、小さな声をかき消してしまった。
*
「あの……桐上隊長って……昔、何かあったんですか……?」
「「色々あったのさ」」
「……ふぇ?」
珍しい早希の取り乱し方に、何も知らないスペランツァが疑問を感じたようだった。
事情を知っている僕達が、スペランツァをどうにか遠ざけようとした。
「……にしても、驚いたよ。あの子、ここに来たんだね。憧れちゃったんだね、かっこいいもんねー」
「ああ、知ってたんですね」
「そりゃ、君が必死になって飛んでくるものだから、もう、忘れられなくって」
ヘルネルは、あの事件……ミミックの事件のあと、サファを治療した張本人だった。
今回。
一番初めに依頼して、二つ返事で来ていただいた。
……父さんを介さなくても、OKと、報酬もほとんど無しに引き受けてくれたのだ。
「……別途、両金はお支払いします」
「いいって」
「しかし」
「私がしたのはただの人助け。OK?」
「……で、有れば」
ヘルネルの耳元で、ボソッと呟いた。
「口止め料ということで、個人的にお支払いしましょう」
「おっ、ワイロだ。さすが政治家の息子」
「あえて、何も言いませんよ。敢えて」
「あの……さっきから何を……話しているのです……?」
スペランツァが、呆れたようにこちらを見ていた。
「……全部聞いてた?」
「……はい」
警棒でビシリと差される。
「罪……です」
「き、聞かなかったことにしてくれてもいいんじゃないかい?」
「それで……ああ、なったんです」
「……えっと、ねえ、スペランツァ巡査」
「はい」
「……お願い」
「ダメです」
「ぐっ……」
「……と、言いたいところ……です、が。面倒なので。日常茶飯事ですので」
「日常茶飯事……?サリバール君?」
終わらない会話が始まろうとしていた。
……さて、どうおさめたものか、と思っている最中、早希が割り込んでくる。
「サリバール巡査部長。今何時だ」
「え?」
「今、何時だ」
「……そろそろ4時半だけど」
「待ち伏せするぞ。賀納谷魔導高等専門学校前だ」
今回はここまで。




