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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
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自信過剰は救世主:part1

 スキルと呼ばれるものがある。


 魔物の持つ、魔法の代わりに、人間が持つ特異な能力のことだ。


 例えば、私の『愛を捧ぐ者(レベルアップ)

 例えば、サファの『キオクを描く者たち(チート)


 これは、望んで得られるものではなく、偶然、なんらかの理由で得るものだ。

 どれほど鍛えようが、狙ったものは来ないし、まず、もらえないかもしれない。

 それに、よっぽど特殊な例がない限り、成長することもない。(まさに私が、この特殊な例で、有数の、ともすれば唯一の、成長するスキルなのだ)

 ……だからこそ、スキルに振り回され、苦しむ人々が存在する。


 それを、武力を持って解決する集団がいる。

 人呼んで、荒くれ者の闇鍋。

 我々『警察庁警備部魔術一課』である。


 *


 これはまた、厄介な事件を押し付けられたと、私、桐上早希はため息をつく。

 目の前にいるのは、この課では珍しく、制服を着た人間の女の子だった。

 髪も瞳も綺麗な、輝く紫で、染めてもこの色は到底出ないだろうし、何より、スカートの丈をすねの中腹まで下ろすような、至って真面目そうな子が髪を染めるだの、カラーコンタクトを入れるだのはしないだろうから、おそらく、向こう側出身なのだろう。

 まあ、そこまではいいのだ、そこまでは。

 問題はそこからで。


「……だから、人を殺してしまったと?」

「はい。そうです。本当なんです」


 ……最もな問題は、これだった。

 おぞましいほど、清々しい自首。

 まずは、いったいどうして、躊躇することなく自分の罪を吐けるのかを小一時間ほど問い詰めたいところだが、それ以上に聞きたいことが多すぎる。


「もう一度、君の言ったことを整理するぞ」

「はい」

「ええっと?まず、自分には友達がいた気がするのにいなくて?自分も他人も覚えてなくて?それで、自分が殺したんじゃないかと?」

「そうです」

「もっとマシな嘘をつきなさい」

「本当なんです!」

「じゃあ何で『誰も覚えてない』から『自分が殺した』なんてところまで発想が飛躍するんだ⁉︎」


 思わず身を乗り出してしまっていた。

 ……ふう、と再びため息をついて、勢いよく椅子に座り直す。

「とりあえず、学生証、出しなさい。親と学校に、連絡するから」

 打って変わって、大人しく、少女は学生証を渡した。

 警察の言うことには従う。

 やはり、不良ではないようだった。

 ますます気になる、なぜ、こんな嘘をついたのか。

 それも、私のこれまでの経験の中で、一二を争う、馬鹿げた嘘を。

 ……虐めでも、あるのだろうか?

「ミュレイ・シンナ君、一応、確認なのだが、これ、コピーをとっても大丈夫か」

 ミュレイ・シンナと呼ばれた少女は、こくりと頷いた。

「サリバール巡査部長。連絡先に片っ端から繋いでくれるか。あと、ここにも」

 部屋の隅で、ずっとメモ書きを続けていたサリバールに、学生証と、もうひとつ、小さな紙切れを渡す。

 その紙切れには、電話番号しか書かれていないが、サリバールは見覚えがあったようで、要らぬことを言う。

「……これ、カウンセリ……」

「しっ!」

 聞かれちゃまずいのだ。

 なるべく小声で、会話を続ける。

「……ここには、ちょっとした、コネがあるから。とりあえず、万一のため、つなぐだけ繋いでおいてくれ」

「……了解。それと、気になったことが」

「なんだ?」

「この学校。人間の通うところじゃない」

「……どういうことだ?」

「知らないの?賀納谷魔導高等専門学校、つい二年ぐらい前に創立された、魔法系の専門学校だよ」

「どういうカラクリだ」

「わからない。これを見る限り、両親とも人間のようだけど」


「……ミュレイ君!」

「はい?」

「君……人間だよな?」

 突拍子もない質問に驚かれるものか、もしくは怒るかと思ったが、そのどちらでもなく、数秒、考え込んだあと、ふふふっ、と笑った。

 緊張がほぐれてきたのか……とも思ったが、どうにもおかしい。

 この空気で、笑いを発する。

 ……奇妙な感覚を覚えた。

「……えっとですね、ちょっと違うんです」

「違う?」

 椅子に座り直す。

「ボクの母親は、ホムンクルスなんです」

「ホムンクルス?……っておい、それクローン規制法……」

「もう作った人は捕まってます。ボクの母親も、人間としての権利を得てます」

 強い口調で反論された。

 ボク、という、不思議な一人称は置いておこう。

 ……向こう側、向こうの世界でも、クローン技術は無数に存在する。

 話に出たホムンクルスだって……モーブだって、クローンに近い。

 それが容易であるから、こちらよりも、ずっと深刻で繊細な問題だった。

 その問題の当事者の彼女に、わざわざ話したくないことを訊ねるのは気がひけるが、職業柄、許してほしいものだ。

「そうか。だから、君は、魔力を持っていて、この学校に入学できたのか」

「あ、いえ。ホムンクルスだって人間なので、そこは関係ないです」

「じゃあなぜ?」


「お母さん、人間の血じゃなくて、悪魔の血を、それもサタンの血を使われて作られたんです」


「……は」

 聞き間違えかと思い、沈黙の中、振り向き、サリバールの顔を確認しようとする。

 ……あの、滅多に焦ることのないサリバールですら、凍りついていた。

「サタン、だって?君、どういうことだい」

 サリバールから、訊ねた。

「あら、聞きません?サタン様の血は、まだ現存しているって」

「……していてたまるか、初代魔王だぞ、奴は⁉︎」


 ……SaTaN・LOB.

 あるいは、SaTaN・DIE-A・KAIN.

 向こう側にて、魔導大戦、と呼ばれる、世界最大の戦争の発端を作り上げた暗君として知られ、迫害の傾向にあった魔物の地位を限りなく高めた、名君としても知られる。

 彼は、魔物の中でも最高位、悪魔の、さらにその中で最も力が強かったとされている存在だ。

 一説によれば、たったの一人で、人の領地を干上がらせ、草の一本も生えぬ不毛の土地を潤し、災厄があれば、指を鳴らしただけで止めたとも。

 また、神代魔導書群(魔導書の教師(せんせい)とも呼ばれるほど、あまりにも優秀すぎる魔導書の山)の九割は彼の執筆であると。

 証拠として、数多の魔法陣には、彼のサインが組み込まれていることがある(そのサインすらも魔法陣の一部として認識し、差別化しているものもあるため、発動ができない魔法も多く存在する)。

 こんな話がある。

『魔法使いの話をするときは、サタン様の名を出さないようにしなさい』

 あまりにも例外が過ぎるので、いかに高名な魔導師でも、霞んで見えるのだった。


「……そろそろ、いい加減にしなさい」

 侮られている。

 と、確信していた。

「警察を。舐めるんじゃない」

「証拠、見せればいいですか」

「……何をするつもりだ」

「“オープン”」

 ギョッとした。

 まさか、迷わず禁忌を使うとは。

 穴に消えたミュレイは、背後から現れた。

 座っていたパイプ椅子を、私の頭の上に振り下ろそうとする。

 ……全く、こうなるか。

愛を(レベル)……」

「“シェネ(鎖を巻け)カレスドリ(容赦もなく)”」

 スキルを構えるより、サリバールの詠唱が早かった。ミュレイの体に、無機質な鎖が巻きつく。

「……警察を、舐めるんじゃないよ。今、君のことを別の罪で捕まえてもいいんだよ」

 余裕そうにサリバールは言うが、彼の使った魔法はレベル3、本気だった。

「今のは見なかったことにしてあげるから、椅子を戻しなさい」

「優しいんですね」

「厄介なことになるのが怖いだけさ。大人だからね、卑怯なんだよ」

 ……真面目、という印象は消え去った。

 圧倒的な自信に、狂ってるだけだ。

 だから、自身が確信したことを疑わない。

 あんなぶっ飛んだ考えも、疑わない。

 おそらく、間違いないだろうし、今回の件も妄想だと思うのだが。

 ……それ以上に、不安が湧き立った。

「ミュレイ君。取り敢えず、今日は帰りなさい。また明日この時間に……ああいや、放課後に、ここにきなさい。親に言いたくなければ、ひとりでもいい。できれば、採血したことがあれば、その時の結果を持ってきて欲しい」

「わかりました」

「巡査部長、開けろ」

「了解」

 解放されたミュレイが、うきうきで帰っていくのを見て、ようやく行ったと、頭を抱えて、机に伏した。


「……馬鹿げてる」

「まだ調査を続ける気?隊長さん」

「あの自信と魔力なら、殺人だって、やりかねない。それに……」


 机の下を探ると、小さな機械片が出てくる。

「やけに語りたがると思えば。どれだけ捕まりたいのか」

 拳の中で、仕掛けてられていたを()()()を握りつぶす。所持品検査の杜撰さが、露呈していた。

「……他に仕掛けてありそうなところを片っ端から探せ、と、サファとスペランツァに伝えておく。私たちは、別の調査だ」

 何が仕掛けられてるともわからない部屋にいつまでもいられるわけもなく、気持ちの悪い空気を置き去りにして、部屋から飛び出すと同時、事件発生のベルがなった。

『宅奈区797-8882の工事現場にて、オークの男が暴れているとの通報が……』

「タイミングの悪い……!」

 第二小隊に任せようかとも思ったが、彼らは出払っている。

 しばし考え、胸ポケットから携帯電話を取り出すと、蓋を開いて、スペランツァに繋いだ。

『はい、もしもし……』

「これ、お前たちに任せるぞ。私たちはやることがあるから』

『ええ……いいですけど、どうしたんですか』

「帰ってきてから話す。リビングメイル使ってもいいから、とっととすませてこい」

 不要な会話を遮断するように、一方的に電話を切ってから、サリバールに会話を投げた。

「やることの確認だ。まず、生徒手帳の連絡先に繋げ」

「カウンセリングのアレはどうするのさ」

「いらん。役に立つとは思えん」

 コネこと、市社拓海に心の中で謝って、話を続ける。

「それと、医者を探す、だな。一応、血を調べておきたい。偽造されるかもしれないから」

「そっちにもコネクションがあるのかい」

「ない。ないが、お前の父上にはあるんじゃないのか」

「無茶を言うね」

「サタンの血が見れるといえば、我先にと飛びついてくるだろ」

「……取り敢えず、やるだけやってみるけど、できなくても何も言わないでね」

 他には何があったか、と、頭を悩ませる。

 サリバールは、ふと、私の顔を見て、笑った。

「……なんだ?何かついてるか」

「いいや、楽しそうだなって」

「楽しい?馬鹿言え」

 鼻で笑って、情けなく返した。

「ただ、怖いだけさ」

今回はここまで。

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