表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
26/67

翼のある使者:パート5

「シャルロッテ、シャルロッテ……ッ!その姿、その声、お前、まだ……‼︎」

「思い出しても遅い!」


 火花が散りました。

 青の槍と、ユニコーンのランスの衝突です。

 じり、じり、と、パワーでは勝るはずのマーキュリーが追い詰められていきます。


「……っつええっ……!」

「伊達に、彷徨ってたわけじゃない‼︎」

「なんで戦おうとするんだァ、お前ェッ!せっかくまた、会えたんだぞ!」

「教えてやろうかッ‼︎」

 力強く、踏み込みました。


「お前が、スペランツァを、サファを、この世界を!傷つけたからだッ‼︎」


『RESET』


 しんしゃのランスが、強く発光しました。

 しんシャの想いが。

 シンシャの痛みが。

 私の心に、刺さります。


 それを全て、得物にのせて。

 シンシャは強く、なぎ払いました。


「グゥゥゥゥウウ……」

 マーキュリーが地面を踏み締めても、そのまま後退させられて行きます。

 そして。

「もうイッパァァァァァァッツ‼︎」

『RESET』

 たたき込む‼︎


 バキン!と、音がなって。

 大きなハサミに止められました。


 まるで蟹のような大きな大きなハサミは、どす黒く変色していましたが……微かに、ほんの微かに、見覚えが。


「この、ガキィ……!」


 その口調で、はっ、と気がつきました。

 わかってはいけない、と思いながら。

 ですが、わたしは、勘がいいもので。


 目の前にいるのは、紛れもなく……

 クラック。

 わたしを襲い、アラタさんを殺した、あの、魔物。


「あ……あ」

 あたしの口から、悲鳴が漏れていた。

 ……違う。

 あたしの声じゃない。

 サファの声だ。

「クラ……ック、クラック、テメェが、クラック‼︎」

 鎧が、無理やり外される。

 飛び散った先で穴に吸い込まれ、その中から、するりするりと、鎧が這い出る。

 右手首の手錠が光っていた。

 彼女は。

 あたしは。

 怒りを込めて、変身する。

『model……G O L E M‼︎』

「殺すッ‼︎」

『RESET‼︎』

『RESET』

 ランスと、手錠。

 両方のチップをたたき込む。

 魔力消費の、桁が違う。

 しかし、それを、彼女は。

 あたしの能力で再生していく。

 スペランツァの、マーキュリーの、キオクから。

 あたしの存在が消えてゆく。

 サファ、よせ、と呼びかけても、彼女は絶対に止まらない。

 次の時には、サファの持ったランスは、大蟹の甲殻を貫いていた。

 風穴開いたクラックに目もくれず、マーキュリーに突撃する。

 しかし……すでに。

 マーキュリーは、いなかった。

 残ったのは、クラックの残骸。

 小さく転がる、数枚のチップ。


「……マーキュリーッ‼︎テメェだけは、絶対に許さない‼︎跡形もなく、殺してやる‼︎恨まれるほど、グチャグチャにしてやる‼︎テメェだけは、テメェだけは……」


 そこまで言って、ぶっ倒れた。


 ************


「おはよう、サファ」

 早希の声だった。

 おはようの言葉に反し、窓の外は赤い。

 時計は6時直前を指す。

 見慣れたここは、どうも、署まで戻ってきていたらしい。

「……おはようございます」

「定時前に目を覚ましてよかった。他の二人は、今、後処理だ」

「そうですか……犯人は?」

「サカキバラに……きっと、お前が会ったはずの、マーキュリー。それと、わたしが接触したリビングアーマー使い」

「逃げられたんですか?」

「……あのな」

「逃げられたんですか?」

 言い淀む彼女に、繰り返し聞く。

「……すまない。逃した」

「そう……です、か」

 会話が止まった。

 今回の件、すべてに置いて、失敗に終わってしまった。

 誰も捕まえることもできない。

 協力も仰げない。

 わかったことは、絶望的なまでの存在。

「……あの、隊長」

「なんだ?」

「クラックに会いました」

 そして……宿敵の、正体。

「……な」

「正体は、マーキュリーです。マーキュリーの、モーブです」

 反抗のしようがない、その……。

「……わたしは、アラタさんの存在を、まだ思い出せていない頃から、きっと、彼の仇を取ろうとしていました。だから、ここに入りました。理由もわからず、必死に勉強して、警察学校なんかに入っちゃって、頭のどこかで、理由が分かってて……その、えっと……ここにくれば、どうにかなるかと思ってて」

 しどろもどろしながら、サファは続ける。

「でも……違った。せっかく力ももらって、クラック倒して、でも、その先にいるのは到底手が届かない存在……マーキュリーの槍には、孔がありました。ちょうど、チップが入るような孔。手を抜かれてました。それでも……逃げられて。わたし、どうすればいいんですか」

 耐えきれず、涙がこぼれる。

 隠すよう俯けば、ポケットの中で何かが擦れた。

 小さいそれを取り出してみると、それは、宝箱と蟹の描かれた、小さなチップ。

 クラックを成していた、チップ。

「こんなに、人を殺したいと思うのは、初めてなんです。人を恨んだのは、初めてなんです。でも……わたしは、わたしは……」

 そのチップを、投げた。

 見たくないものを、もう、手から離した。

「………………弱い」

 絞り出すその声は、嗚咽にかき消される。

 サファは気がついていなかったが、それを聞いてすぐ、早希は、真っ黒なチップを、サファの前に置いて、抜け出した。


 部屋の外に出て、電話を繋ぐ。

「サリバール巡査部長。聞こえているか?」

『……かしこまって、どうしたの』

「犯人の行き先は掴めたか?」

『いいや、ダメ。どうも、一個の魔法が邪魔してる。未知の魔法だから、解読を急がせてる……やっぱり気になる?ヴァンパイアのリビングアーマー』

「もちろん。装着者が死ななくなる鎧なんて、聞いたことがない。世に出回ったら、大変なことになる」

『そうなる前に、捕まえないとね』

「ああ……それと、サリー」

『何?』

「これは、私事なのだが。クラックって、確か……



 まだ、刑務所の中だよな?」



 ************


「何故だ、マーキュリー。どうしてだ、マーキュリー」

 マーズの声だった。

「あなたに任せたはずだ。任命したはずだ。なぜ、倒さない。なぜ、殺さない」

「バカ野郎、まともにやり合ったらなァ、こっちがあぶねェんだよ」

 その口調、その内容に、周りの幹部全員が反応した。

「情けないのぉ、あっさりと」

 と、サターンが言う。

「ジジイは黙ってろ。状況も読めねえ雑魚がよォ、よくいいやがらァ。いいか。相手はチーターだ。オレらクラスでも、あっさり殺せる」

「では」

 重々しく口を開いたのは……魔物の王。

 オレらの、主。

「呪殻を使わなかったのは、なぜか」

「…………」

「答えよ」

「……お前、自分が、なんでそこいるのか覚えてるのか」

 ガタン!と、全ての幹部が得物を構えた。

 主を侮辱された、と、感じて。

 魔王がそれを宥めながら、問い直す。

 答えた。

「覚えてねェんだろ、どうせ。なァ。オレも、覚えてねェ。だが、今回の出撃で、一瞬だけ、掴めた……なァ、おかしな話だァ、理由もわからず、玉座にいる、横暴な王」

「口を慎め。我は、先代王を穿ち、この地に降臨した、正義の王なるぞ」

「正義だァ?はっ、笑わせんな。二つ、言いてェ。一つ。先代魔王を殺したのはお前の功績じゃねェ。間違いなく。理由は、忘れた。二つ。先代魔王の方が、なァ……誠実な顔してたぜ?」

 上半身が、蒸発した。

 マーズの振るった大剣に、その身が焼かれたのだ。

「慎めよ。黙れよ」

 と、マーズは言う。

 しかし。


『model……M E R C U R Y 』

 黙 る も の か。


「‼︎リビングメイル‼︎」

「遅せぇ」

 マーズの大剣を、弾き飛ばす。

 円卓に上に飛び乗り、槍の先端を魔王に向けた。


「弱ェ、弱ェ。テメェら全員クソ弱ェ。不意打ちに対処できねぇ、状況判断もできてねェ。チビっちまうぐれェクソ弱ェ。特にテメェだ、クソ魔王。力のねェ、クソ魔王。そこまでして、自分の鎧が欲しいかァ?それがねェと、心配かァ?そうだろうなァ、テメェ、弱ェもんなァ。オレなんかより、全然弱ェもんなァ。とりあえず、よォ。その変な喋り方、変えたらどォだァ?」

今回はここまで。

コロナに気をつけて……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ