翼のある使者:番外編
昔々、とある勇者の少女がいました。
その少女は、何回も死にました。
何回も。
何回も。
何回も。
死にました。
それでも、彼女は生き続けていました。
奇妙なことに、死んでも生きていたのです。
しかし、誰もそれを「奇妙」だなんて思いませんでした。
誰も、彼女のことを覚えていなかったのですから。
彼女は、他人の記憶を食べて生き延びてました。
自分に関する記憶を食べて。
変な話ですが、そう表すしかないでしょう。
だって、彼女が目の前にいても、誰も彼女のことを見ないし、感じないのです。
少女を覚えているのは、彼女自身しかいないのです。
……しかし、少女がそれに気がつくことはありませんでした。
みんなが、意地悪していると思ってました。
みんなが、ただ無視をしているだけだと思っていました。
少女は考えました。
どうすれば、みんなが話しかけてくれるのか。
どうすれば、意地悪されないのか。
……どうすれば、みんなと仲良くなれるのか。
長く、長く考えているうちに……100年、200年とたって。
人が、世界の中心でなくなる時がきました。
魔王が。
魔物の、王が。
邪悪の化身が。
覚醒したのです。
およそ500年ぶりの魔王、ナドレ・ダイ=N・カイン、その人の降臨です。
さて、力を持った彼が、なにを始めるでしょうか?
王を得た魔物が、何を始めるでしょう?
力無き人間に、何ができるでしょう?
……なんとも、残酷なことでして。
なすすべなく、人は殺されて行きました。
虐殺は、昼夜問わず行われ、人はますますその数を減らしました。
かつて、人の住処だった場所は、更地となり……ようやく人に好かれる方法を思いついた少女が、人に忘れられた少女が、人と魔物の死骸の上に座っていたのです。
彼女は小さく……言葉を。
初めての独り言を。
「……そんだったのか。あたしは」
細々と。
「魔物を殺せば、魔王を殺せば、認められるんだ」
幸い、彼女には力がありました。
とは言っても、魔王が何処にいるのかすら知らないのです。
あてもなく彷徨っていると、一人の獣人の少年に出会いました。
彼は、本来あり得ぬ、三頭の獣人でした。
幻想すらも超えた、魔物だったのです。
彼は言いました。
「僕も、ご一緒させてください」
と。
精霊たちの村では、男のウィンディーネ、という、これまた、あり得ぬ存在と出会いました。
彼は言いました。
「俺も、ついていく」
と。
人の里では、翼となるペガサスに乗れず、勇者すら見極められぬ、戦うしか脳がないようなヴァルキリーに出会いました。
力はあれど、優しい彼女は、言いました。
「私も、世界を救いたい」
ある時は、声を持たぬ人魚。
ある時は、肉を食うエルフ 。
ある時は、石から戻れぬガーゴイル。
数多の魔物が、世界に嫌われた者たちが、彼女に付き従いました。
そして……死んでゆきました。
しかし、少女は、決して、一度たりとも死にませんでした。
ようやく、彼女が死ねたのは、魔王の住処にたどり着いた時でした。
殺したのは、魔王ではありません。
殺したのは、獣人でした。
はじめに仲間になった彼でした。
魔王は、あっけなく、獣人の彼に貫かれて死にました。
いえ……すでに、その時はもう、彼は魔王ではありません。
その、獣人こそ、魔王になったのです。
……魔王の力は、獣人の彼に取り憑いてしまいました。
力にのまれ、暴走した彼は、仲間を次々に襲い出します。
ただ、彼の顔は……確かに、泣いていたのです。
少女は、初めて、仲間に剣を向けました。
少女は、初めて、自分のためではない、誰かのために戦おうとしました。
……結果は、相打ち。
いえ、ほんの少し、魔王の方が優っていました……少女は、旅の中で初めて、死にました。
その瞬間、誰の記憶からも少女は消えます……しかし、少女が、最後に残した言葉だけは、魔王の頭から消えなかったのです。
「生きろ。生きて、世界を守れ……あたしの分まで、戦え」
……と。
魔王は苦しみました。
誰がこの言葉を言ったのか、それすらも思い出せず、その場で足を止めて悶えました。
……ずぶり、と。
貫かれて初めて、それを止めることができるほど、苦しんでいたのです。
傷を負った魔王に、もう、その致命傷をし逃げるほどの魔力が残されているわけがありません。
魔王も、また、少女と共に死んでしまったのです。
魔王を、殺したものは。
あの、ヴァルキリーは。
……今の、魔王は。
叫びました。
「私の勝ちだ」
と。
そして、いま。
少女はまだ、生き続けています。
ようやく、自分のことを忘れない存在、自分を、見失わない存在に会えたのです。
少女は、今も。
きっと。
幸せに……
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「メ、ディ、アァァァァァァッッ‼︎」
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戦っています。
……めでたし。
めでたし。
今回はここまで




