翼のある使者:パート3
禁忌魔法の一つ、意識改変「ゼリルガンナ」
最近、新型が発明されました。
人払い「ナーバン・ゼリルガンナ」
これは仮称であり、唱えたところで魔法は発動されません。
理由は簡単。
開発者が、わたし達の敵なのです。
「サカキバラ」……魔法犯罪で用いられるモーブのもとを辿れば、ほとんどがこいつに行き着くと考えられる、いわば魔法犯罪の元凶。
彼の強さは、その開発力にあると、接触し、戦闘を行った桐上隊長は言います。
それもそのはず。
魔物でも使えるはずのない禁忌を、人の身でありながら連発するのですから。
「ナーバン・ゼリルガンナ」もその延長線でしかなく、それにとどまらない、多くの禁忌の廉価版を彼は持っているのでしょう。
その目的は、なにもわかりません。
現状分かっていることは、解読不能で凶悪な魔法陣が、彼の手の中に多数あることです。
当然、彼は即、討伐対象となりました。
最も優先される程の。
彼もそれは承知のはずなのに。
何故か、のこのこ顔を出してきました。
何故でしょうか?
襲い掛かる全ての敵を撃退できるとでも?
いえ……そんなわけがありません。
ここで討伐されなかったとしても、ただパターンを読まれ、対策されるだけです。
最悪、彼がアジトとする場所が、特定されるかもしれないのです。
あえて言います。
ここで現れるメリットは、ゼロです。
ならば、現れたのはサカキバラじゃないか?
いいえ、それも、ありえません。
禁忌を二箇所同時に発現するなんて芸当が、彼以外にできるでしょうか?
魔王でも無理でしょう。
それも、近くならまだしも、距離が離れすぎてます。
じゃあ、どうやって?
簡単な方法は、魔法陣を描いておくことです。
が、全く気がつかれなかったのは変な話。
……協力者の、可能性を。
考えてみれば、しっくりきます。
それであれば、彼の技術力も、二つの反応も、何もかもが説明がつきます。
それであれば、サカキバラじゃないかもしれない?
ふふっ、確かにそうですね。
わたしもまだまだ、詰めが甘いです。
ですが……結論から言えば、今回の主犯はサカキバラでした。
ええ、対応しましたとも。
……桐上隊長が。
わたし達が出くわしたのは、協力者の方でした。
……ネタバラシとしましょう。
彼の技術を欲するほどの存在は誰か。
……最悪の、回答ですが。
あまり考えたくないのですが。
ヒントを出しましょう。
彼の禁忌の技術は、魔王すらも引き離しています。
……わかりましたか?
彼の協力者は。
「魔王」
「……は?」
目の前の男は言いました。
全く、みたことのない男でした。
データ上にもきっとないでしょう……スペランツァすら、驚いているのですから。
新たな脅威を認知した瞬間です。
彼が使った魔法は「ナーバン・ゼリルガンナ」。
周りに誰もいないことから、確実でしょう。
ビルは林立しているのに、車も通行人も誰もいないなか、ぽつんと、まるでだれかがくることがわかっていたかのように、彼はそこに佇んでました。
敵か、味方か……敵でしょうね。
だって、槍を、握りしめているのですから。
「そゥ、魔王だ。これに関わってくるのはなァ……言ッちゃァ、不味かったか」
しまッたなァ、と頭をかく、まるで緊張感のない男。スペランツァ、わたしの順で眺めると、また口を開きました。
「すげェ組み合わせだな、化け物同士が手ェ組んでやがる」
「……そっちはあたしらのこと知ってるのか」
「そりャあ、魔王様の側近だからなァ」
「へえ!一回戦ってみたかったんだ、そんなつぇえ奴と」
「いいねェ……かかってこい」
金属音と共に、魔王の側近を名乗る男が蒼い槍をこちらに向けて構え、しんしゃは、リビングメイルを纏おうとし……。
「……っだめ!出でおいで……ケンタウロス‼︎」
スペランツァが、強引に止めに入りました。
『C E N T A U R U S !!……M O O B』
『connected magicchip……VEDO』
「ザン・アンブ・ヴェドルゴ!」
泥をかき集めて作られたような人馬と、影のような剣を握った少女が、突撃します。
……わたしを置いて。
「速えっ……!」
反応が遅れました。
駆け出す頃には、すでに、2人は戦闘を始めていました。
「急ぐぞ、サファ!」
……ええ。
行きましょうッ!
チップホルダーから、乱雑にチップを取り出します……ゴーレム・チップ‼︎
「セット!」
叫び、手錠にチップを装填しました。
……しました。
終わりです。
それだけ。
装填して……なにもなし。
いつもみたいに、体が大きくなることも、アーマーが飛んでくることもなし。
有り体に言えば……「変身失敗」でした。
原因は簡単。
「チカラが……魔力が」
一切わきませんでした。
魔力が尽きていたのです。
「……ッ‼︎」
理由?
あの模擬戦があったからでしょう。
戦闘中であれば、しんしゃの体……そのため、しんしゃの魔力で戦えますが。
変身だけは、装着だけはわたし自身の魔力です。
わたしもハーフリングの血が入ってるので、魔力はありますし、最近は無茶振りばかりで魔力が育ってきたのもあり、一回の装着ぐらいじゃ倒れなくなりましたが……仮にも、変身には、二回の禁忌を挟んでいます。
魔力消費を極限まで抑えてはいますが、ふつう、体がチリになっているでしょう。
ここで無理に変身すれば、少なくとも、わたし自身は死にます。
「……それ、でも、なぁ‼︎」
そう、それでも。
敵は、魔王の側近。
抵抗しなければ……全員、塵芥となるでしょう。戦わない理由が、ありますか?
いいえ。
「ない、だろうが」
しんしゃが、ぐぐ、と地面を踏みしめます。
ちょうど、ファマ戦法の時のように。
……ロケットスタートの姿勢。
全力で、蹴りました。
その時、黒い人馬の首もかっ飛びました。
二対一にも関わらず、表情も変えずに同等の戦力差にしうるのは、さすがとしか言いようがありません。
そして……今までは2人がかりで持ち堪えていたものが崩壊したのですから、槍の切っ先は、迷うことなくスペランツァへと伸びます。
止める方法は?
まともなやり方じゃ間に合わないでしょうね。
「……サファ、無茶してもいいか?それでも、あたしのことを、覚えててくれるか?」
……どういうわけかわかりませんけど、もちろん、と、答えます。
だって相棒ですもの。
了解して、当然です。
忘れなくて、当然です……と、応えると、しんしゃは「にやり」と笑いました。
そして強引に、2人の間に割り込み……スペランツァに届く、寸でのところ。
その身をもって、その肉をもって槍を受け止めることで、敵の一突を防ぎました。
……こちらは確実に、致命傷なのですが。
土手っ腹突き抜けてますからね。
痛いなんてもんじゃない。
そもそも麻痺して痛みすら感じない。
「……ぉ」
惑う敵を正面に……笑い、唸り。
「ぉお……」
命を貫かれながら。
「……お、オ」
咆哮。
「オオオオオオオオオ‼︎」
……次の、瞬間。
敵の上半身が、宙へ。
わたしの手には、得物が。
ユニコーンの角のような、ランス。
それが、敵を、薙ぎ払ったのでした。
今日はここまで




