翼のある使者:パート2
今回だけ読む方々のために、前回のあらすじです。
秘密がばれました。
しかも結構重要なやつ。
隠してちゃいけないやつ。
仕事に支障はないけれど、上司にはしばかれるやつ。
「で?」
その、上司なのですけども。
「全て、話してもらおうか?」
「…………」
「返事ィ‼︎」
「ハイッ!」
取り調べの時のような剣幕で、怒鳴りつけてきます……いいじゃないですか、もう。
(静かにしてろ、サファ)
表に出てる人格が語りかけてきます。
そう、ばれてまずい秘密(今はもうばれた秘密)は、これ。
「だから、言ってるだろ、あたしはサファの人格の一つだと」
二重人格……というやつです。
正確には、少しだけ違います。
彼女はわたしに寄生している状態で、わたしをのっとる事はありえないはずなのです。
わたしが、あるじです。
でも、こうなっているのですから、不思議。
「……で、何に怒っていらっしゃるので?」
今の人格、「しんしゃ」が姿勢を崩して言います。わたしの体に慣れてきたようです。
「わからないのか?こっちはお前のことを何もわかっていないんだ……何故、ずっと黙っていた」
「言ったところで、得がない。現に今ばれて……この状況だ。そう、あたしもてめえらのことは何も知らない。人づて……サファの目や耳から入ってきた情報以外はな。あたしが、信用できるのは……」
しんしゃが、自分の胸を叩きました。
「こいつだけだ」
「……そうか。そうだな……お前からしたら、私たちが一方的に利を得ようとしてるように見えたか?」
「当然」
「よし。ならば、お前にも利を与えてやろう」
「へえ?てめえらの情報を洗いざらい教えてくれたりするのかい?」
「いいや、歌うのはお前だけだ」
額に、殺意を持った冷たい感触が当たりました。
……あまり、受け入れたくないですけど。
金属音と共に向けられたものは、拳銃でした。
「対等であるという前提から破壊しようか」
「……ってめえ……!」
「おっと、あまり動くな。暴発する」
「これが許されると思って……‼︎」
「許されないだろうな。バレたらクビだ。それどころか刑務所行きだろうよ。だがな……私からしたら、お前はリビングメイルが使える、脅威だ。依代がサファ・クラウンでなければ、もう死んでいるぞ」
サファ・クラウン。
桐上隊長は、わたしのことをそう呼びました。
「サファ・クラウン・フェイア」ではなく、「サファ・クラウン」と。
「フェイア」は役職を示す名前。
格は違いますが、魔王の「カイン」と同じようなものなのです。
自分自身の、誇りです。
それを……剥奪された。
あの人にとって、今のわたしは、警察にふさわしくないと告げられたと同じでした……いいえ、当然なのでしょう。
だって、危険分子を、その身に宿しているのですから。
「わかったか?私はゼロからスタートかもしれない。だがお前はマイナスからスタートだ。もし、ここで吐くならば……撃ちはしない」
「せこいなぁ……っ!」
「それで結構」
しんしゃが舌打ちをします。
……そして、ゆっくり。
話し始めました。
「そうは言っても、語ることなんてないぞ」
「かまわん」
「あたしは、サファのスキルについてきた、ただのおまけだ」
「……他は?」
「さあ?覚えてない。あたしにある記憶は、サファと出会ってからのものしかない」
「……な」
……話が終わりました。
「……それだけか?」
「ああ。この場面で嘘をつくほど、愚かじゃない」
「……違うだろう」
「は?」
桐上隊長の拳銃が、より一層握りしめられました。
「持っているはずだ、キオクを」
瞳が、鋭く……憎しみを込めて、わたしたちを睨みます。
「魔物よ、貴様らが教えたのだろう……世界の、成り立ちを。貴様らが、恐れ信ずるものを。貴様が、『キオクを描く者たち』なのだろう……!魔物を、滅ぼしうる力なんだろ……ッ!」
力が……抜けたように。
桐上隊長は勢いよく、椅子に倒れ込みました。
額に手を当て、冷や汗を拭っています。
「……本当に」
先ほどまでの剣幕を抑え、彼女が問います。
「何も?」
「2度も確認が必要?」
「……そうか」
桐上が、頭を抱え込んだ。
「ようやく、見つけたと思ったのに。挙句、部下に銃口を向け。このザマか。最悪だな、私は」
その時。
警報が鳴った。
『二箇所同時に超魔力反応。禁忌の使用によるものと思われます。第一小隊は出動してください』
「禁忌……サカキバラか?こんな時に……!」
「お前はここで待ってろ」
あの狼狽が嘘かのように、さっと、桐上隊長が立ち上がりました。
「どうして?二箇所同時なんだ、二手に分かれないと」
「いや、ここでお前を解放するわけには……」
「いいや」
全く違う声が、割り込んできました。
すぐに、空間が開きます。
穴が、現れたのです。
「位置が位置だ。隣接してればまだしも、離れすぎてる。弱い方は、きっとモーブだ」
出てきたのは……サリバール巡査部長でした。
「だが、今こいつを出すことは……」
「じゃあ、禁忌を使える相手に、戦力が整っていない第二小隊を向かわせる?それとも、外の街から応援が来るのを待とうか。どうやら、あなたはは街が壊れていく様がお好きなようだ」
「……なにを」
「いっそのこと、僕が向かおうか」
自信満々に、彼が言います。
「負けない自信がある」
「やめてくれよ……この世界にとって、お前以上の危険分子はいないよ、サリー」
「はいはい」
さて。
と、二人がこちらを見ました。
「サファ……いいや、おまけ。返す」
桐上隊長が、何かを放り投げました。
とっさに受け取ってみて、それが、彼女にとっての拳銃に匹敵するものであるとわかったのです……桐上隊長が投げたものは、手錠と、チップホルダーでした。
「……これは」
「私が持っていたら、落としかねん。預けておく、が。絶対にここから逃げるんじゃない。鍵は閉めずに行くし、逃げたところで誰にそれが知られるでもないが、逃げるな。わかったな」
返答を待たず、二人並び、部屋のドアを開け放ちます。
……その先に、待ってましたと言わんばかりの顔で、わたしの相棒がいたのですが。
隊長は、虚を疲れた表情をしてから、大きく、ため息をつきました。
「……はあ。どいつもこいつも……」
「で?どこから攻めるんだい?」
「反応の大きい方からだ。行くぞ」
遠ざかる足音を耳に控え、正面と、手錠を、交互に見て、確認しなおします。
……どうやら。
「……あたしらにタダ働きをさせる気らしい」
「いいから……いくよ……!うちは、給料が出るの……!」
スペランツァが、私たちの手を引きます。
……わたし達だけ、こうなんですか。
「理不尽」
「いいから!」
可憐な乙女にあるまじきパワーで、無理やりわたしたちを起こし、そしてはにかみました。
「ちょっと大変な……ボランティアだと思って」
「……はい」
「いこう、一緒に」
「どっちに?」
「反応が小さい方」
「どうやって?」
「みてて……!」
スペランツァが、目を閉じました。
ゆっくり、ゆっくり、呼吸して……開‼︎
「オープン‼︎」
叫んだ途端に、空間がねじ曲がります。
現れたのは、穴。
「練習したの」
「……人の魔力じゃないな、こりゃ」
どうやら、魔物以上の魔力を持つ人間のようです。
スペランツァは。
よく考えてみると、彼女のことをなにも知らないのでした。
……あとで、聞きましょうか。
「よおし、出発だ」
しんしゃが、踏み出します。
「……出発」
スペランツァが、後に続きました。
……さあさあ。
行きましょうか、3人で。
ええ、3人で。
大体の敵なら、余裕でしょう。
ただ……ただ。
よくよく考えれば、そんなはずはないのです。
余裕なんてことは、ないのです。
なんという慢心。
だって……敵は。
魔物、なのですから。
禁忌を操るような。
モンスターなのですから。
今回はここまで。




