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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
21/67

翼のある使者:パート1

 たとえば、横暴な上司と、それに反抗する部下がいたとする。そして互いが、互いを潰しうる力を持っていたとすれば?


 そんなわけで。


 ここは、署の地下にある模擬戦室。

 なぜ存在するのかは謎である。

 その純白の正六面体の中には、拳銃を構える女と、背の低い女が向き合っていた。


 経緯を説明しよう。

「サファ。お前の食事当番週三日な」

「なんでですかっ!?理不尽です!」

「お?やるか?」

「受けて立ちます!」

 以上。

 バカか、この人らは。


「さて、ルールは簡単」

 観戦席に座って、スペランツァとともに、その様子を眺める。

 申し遅れました。

 語り手はサリバールでお送りしております。

「どっちかが降参するまで殴り合う。バディのサポートは無し。OK?」

『了解』

『わかりました』


 試合開始。

 ……もう、なにもいうまい。

 リビングメイル同士の殴り合いの開始だ。

(ready……)

『『SET‼︎』』

(GO‼︎)


 model……G O L E M‼︎

 model……B R A V E‼︎


 両者ともに、ドレスが装着される……ってあれ?

『サファ……それ』

『へへーん、うらやましいでしょう?ミニスカート』

 サファのリビングメイルが、リビルドされていた。

 花弁のようなドレスと違って動きやすい、短いスカートへと。

『ゴーレムの特性は、自律と守護!最大限生かせるように改造しました!』

 グラスの下の、目が笑う。

 だが……。

「どっちも……下がってそう……?」

 スペランツァが代弁してくれた。


 そう思われてることを知ってか知らずか、サファは警棒を構える。

『恐れ慄きなさい!R魔法、ザン・カレスドリ!


 と!ファマ・エアロハ!』


「ファマぁ!?」

 素っ頓狂な声を上げた。

 仕方ない、許してくれ。

 ファマって。

「サファ、なにする気?」

「飛ぶ気……ですよ‼︎」

 隣のスペランツァが興奮気味に言った。

「ただ身体能力を上げるだけじゃ……隊長には追いつけない。だから、飛べば……!」


『追いつけます!』

『ありか、そんなのォ‼︎』

 互いの力が、衝突し、拮抗する。

 ただ、早希はまだスキルを使っていなかった。

 すなわち……。


 早希が、押し負ける。


 彼女の手元の拳銃は、ゴーレムの剣に弾き飛ばされた。

『……チィ‼︎』

 早希が地を蹴り、距離を取る。

 それを、ファマで追いかける!

『にが、しま、せ……ん‼︎』

 加速が、増してゆく。

 そのまま、まっすぐ、直進。

 その速度についていくことは、たとえ勇者であれほとんど不可能だろう。

 だが。


 一直線に進むサファを迎撃するのは、容易いことでもある。


『愛を捧ぐ者‼︎』

 早希が叫び、拳を振るう。

 その瞬間、誰もが早希の勝利を確信した……サファを除いて。


 サファは、スラスターとなった背中を、一気に天井へ向けた。

 自分自身と同じように、真っ直ぐ飛ぶ早希の拳の軌道を、まるで最初からわかっていたかのように。

 いいや、そこまではまだ、早希も予想の範囲だろう……飛び込むサファを次ぐ拳で迎え撃つ。


 驚くべきは、そこからだ。


 サファが、必中のはずの一撃を、表情も変えず回避した。

 さらに、交差された腕の間を縫うように……一発、早希の顎に拳を入れた。


「……は!?」

 信じられなかった。

 人ができる動きの限界を超えている……!

「すごい……サファ、未来を……みてるみたい」

 スペランツァが、興奮して言う。

 その言葉に、合点がいった。


 彼女は、サファはどうやら、亜人、すなわち魔物の一種でありながらも、スキルを持っているようだ。通常、魔物がスキルを持つことはないのだが……彼女は、人とのハーフ。「魔物」半分、「人」半分だ。

 そのため、魔力を持ちながらスキルを覚醒させる、特異な存在となりえたのだろう。

 問題はそのスキルだ。

 彼女はいった。

「地図を思い浮かべる能力」だと。

 それだけ聞けば、スキル「虚を埋める者」と同じようにも思える。

 だが、違う。

 全く違う。

「虚を埋める者」は、あくまで視野を広げる程度。どれほど才能のある人物が発現しても、燃える範囲は半径100メートル程度であり、大した能力ではない。

 だが、彼女はどうだ。

 世界を覆うほどの、巨大な「地図」。

 そして……未来を見るかのような動き。

 後者がスキルによるものであれば、「虚を埋める者」では、決してないのだ。

 簡潔に言えば、サファのスキルは、四次元に干渉する能力。

 縦、横、奥行き、そして時空。

 万が一、この考察が当たっていれば。

 これに匹敵しうるスキルなんて……。


「『キオクを描く者たち』ぐらいしか……ないじゃないか」

 気がつくと、サファが、早希にもう一撃、入れていた。


 早希は、防戦一方であった。

 すでに壁側まで追い込まれており、丸腰の彼女に反撃する手立てはない。

 彼女のスキルは「愛を捧ぐ者」。

 一つの特殊を除けば、ただの肉体強化スキルである。

 攻撃が当たらなければ、意味はないのだ。

 そのうえ、彼女は人間であり、魔力を持たない。

 一見、相性が悪い。

 それでも。


 スキルを使いこなしていたのは、経験を積んでいたのは……早希だ。


 サファは、ほんの一瞬、顔をこわばらせると、思いっきり地球を蹴った。

 ファマを噴射し、距離を取る。


 サファに、余裕がないように見えた。


『……ああ、予想は合ってたようだな』

 早希が、ゆっくりと自分の得物を拾いながら言う。

『どうやら、お前は未来が見えるらしい。ただ、それは確定した未来ではない。いくつかの可能性だろう。


 さすがに、私が自爆しようとすれば、退くか』


「は……」

 息が漏れる。

 驚いてばかりだ、今日は。

 自爆……魔力を持たない彼女の言う自爆とはすなわち、スキルの暴走だ。

 その可能性が未来の一つとして示されたのはすなわち、暴走寸前まで能力を引き上げたのだろう。

 間違いない。

 この世界で、最強の2人がぶつかっている。

 ただ、僕の脳が受け入れることを拒否しているのか……真っ先に出てきた言葉は。

「頭、わるっ」

 ただの、暴言でしかなかったのだけど。


『……ファマ・エア……』

 サファが再び、魔法を使おうとする。

 ……が。

『させるか』

 早希はサファの元へ一瞬で近づき、弾丸をたたき込んだ。

 リビングメイルは、ダメージは軽減するものの、当然幾分かの衝撃は抜けるし、痛覚もある。

 たとえば、弾丸をゼロ距離で撃ち込まれたら?


 ……許容できない痛みに、人はフリーズするようで。

 サファが、固まった。


 瞬きすらできないほどの時間だ……だが、確実な隙である。

 サファに蹴りを喰らわせ、さらに隙が大きくなったところに……展開したブレードを叩き込む!


 そこから先は、先ほどまでの防戦一方とは逆に……早希が凄まじい勢いで斬撃を繰り出していった。


 その最中、早希が呟く。

『……なるほど、物理には硬いのか』

 息をきらせながら、サファが応えた。

『前も、聞きました……!今は、あの時のようにはいきません‼︎ゴーレム‼︎』


(RESET‼︎)


『ファマ・エアロハ‼︎』

 サファが飛び上がった。

 早希を飛び越え、その先で着地する。


『……っらぁ!』

 そして、前のようにゴーレムを召喚した。

 簡易的な自律コアを入れた、擬似ゴーレム。


 だが……到底、そんなもので早希が止められるものか?

 否。

 そんなわけがない。

『……ふざけているのか』

『いいえ。ゴーレムもどきじゃ敵いませんから。……だったら、本来のゴーレムすら上回るような魔力の密度にしてしまえば』

 唐突に。

 サファが、ゴーレムに喰われた。

 彼女をすっぽり覆うゴーレムは……その右手に、集結する。

『わたしの全力で、撃ち出せます』

 完成したのは、右腕を呑む、石の巨大な拳だった。


『おもしろい。ならば全力で受けて立とう』

(RESET!)

『正面からな』

 早希の得物が、光を放つ。


 サファが構え直した。

 どうやら、回避を諦めたようだ。

 結局行き着く先は、読み合いのない、ただの殴り合い。

 力の、ぶつけ合いである。


 双方、全力。


 双方、全開。


『ナクル……』

『レベルアップ……』


『スオラ……』

『オーバー……』


『カレスドリグッッ‼︎』

『ファイブッ‼︎』


 鯨波。

 貫け。



 爆…………発‼︎



 ……画面が、黒に染まった。

 地面が揺れる。

「れ、レベル4の魔法と……」

「スキルの限界を……」

 ぶつけやがった、とまでは繋げなかった。

 もう、わけがわからない。


「……早希、あいつ、無事か?」

「サファ……生きてる……?」

 1分ほどして……ようやく、カメラが復活した。

 そこに映されていたのは、ただ一人立つ、早希の姿である。

「決まった、かな」

「……ええ」

 どうやら、勝ったのは。


『私だな、サファ』

『ああ、負けた』


 二人の声が入ってくる。

 ……が。

「……サファ?」

 スペランツァが、違和感を覚えた。


『だーかーらー、サファ、てめえが油断せずちゃんと相手の動きを読んでればなー』

 と、言い出した。

 ……サファの声で。

『あぁ……どうした?』

 彼女の目の前にいる早希が、訊ねる。

 だが、それはサファの耳には入らなかったようだ。

『は!?あたしが戦えと!?戦おうにも体がないって何度言ったら……』

『……誰と話してる?』

『は?』


 ようやくサファが反応した……サファのような何かが、反応した。

『……ん?』

 体、視界の順で、彼女は見直した。

 腕を回してみたり、走り回ってみたり。

 やっと理解したサファ(?)が、汗だくで早希に向き合う。

『あー……えっと』

『うん』

『なにかありました?』

『無理がある!』


 どうやら……

 いよいよ頭がおかしくなったらしい。

今年はここまで。

新年間際ですが……良いお年をお迎えくださいませ。


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