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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
20/67

愉快なバディのビル消失:Sixth

 

 結論。


 どうやら、あいつは俺の求めていたものとは違ったらしい。

 スキルがモデルのリビングメイル……つまり、あれは自らの能力をブーストするものだろうか。

 いや、まずリビングメイルを身に付けられる条件が条件だけに、可能性を視野に入れるべきだったのか……。


 スキルを持っていること。


 それも下等な、量産のようなスキルではダメだ……桁の違うスキルでなければ。


 勇者クラス以上のスキルでなければ、リビングメイルを呼び出すことすら許されない。


 操ることなど、もってのほかだ。


 さて……どうしたものか。

 当てが外れた。

 新たな的を探さねば。

 ……そういえば、あの女。

 ハーフリングと人間のハーフの女。

 俺の求める人間……リビングメイルのチカラで、魔物と深く適合した人間。

 半分でしか取れないが、十分なはずだ。


 ……よし。


 決めた。


 モーブ適合体の、魔導強化デバイスの完成を、急ごう……変身者は、もう探してある。


 もう少し、もう少しだけ待ってておくれ。

 俺の、弟よ。


 -------------


「……で、あれと接触してこい、だってェ?」

 ビルの上で一人、頭を抱える男がいた。

 ウンディーネ、と呼ばれる魔物であった。

 だが、ウンディーネは通常女性である。

 ウンディーネでありながらも男性である彼は、イレギュラー中のイレギュラー。

 通常ありえないもの……バグのような存在であった。


 そんな彼は、気怠そうに、いつか聞いた口調で言う。

「めんどくせェ……が


 面白そうじゃァねェか」


 あのじじいも見る目がねェな、と呟き、立ち上がる。

 手には、槍が握られていた……それを、街の中心に向け、告げた。


「さァて、お仕事開始だ……マーキュリーとしての、なァ?」


 -------------


 約束の、居酒屋にて。

 お通夜ムードの奇妙な4人。

 1人目。

「えー、ということで……事件自体の解決を祝ってかんぱーい……」

 とりあえず言っておこう、という様子で、声を上げるサリー。

 2人目。

「乾杯……は、ははは」

 引きつった笑いのスペランツァ。

 3人目。

「………………………………………………………………」

 もはや一言も喋る気力もない様子の早希。

 4人目。

「いえーい!かんぱーい!」

 空気を一切読まないサファ。


 …………。

「……なんでこんな暗いんですか!?」

 と、サファが尋ねた瞬間。

 ばん!、と。

 無言を貫いていた早希が机を叩き急に立ち上がる。

「あのな?サファ巡査。この後のことも考えろ……被害者の遺族や野次の非難を受けるのが誰か、考えろよ?」


 ……今回の事件。

 あまりにも、人が死に過ぎた。

 だが、事件に巻き込まれた全員が亡くなったわけではない。

 あのスライムも、すべての人間を飲み込めなかったようだ。

 事件に巻き込まれた者の多くは、街外れのいくつかの建物の中に、監禁されていた……少しでも発見が遅れていたらと思うと、ぞっとする。


 これの発見ばっかりは、能力を使わざるをえなかった。

 その際に、サファ自身が、早希ら3人に、自らのスキルを告白した。

 ただ、スキル名をマップと伝え、あたしの事は伏せて、である。

 チートと伝わると、後々面倒なのだ……それはさておき、肝心の彼女らの反応だが、さして驚きもせず、納得がいった風であった。

 それでいいのかと、突っ込みたくもなったが、ただ、まあ、後に続いた早希の言葉で合点がいった。

「これで戦闘以外でも、多少は使い物になるようになったな」

 日本の上司は黒いと、ここまで思わされる事はそうそうないだろう……この時のサファの顔は、たぶん忘れないだろう。


 して、肝心の死者だが。

 遺体が発見された者、17名

 遺体すら発見されなかった者、23名

 そして、殉職した警官3名

 合わせて、43名。

 この街でも滅多にないような大損害である。

 その上、被害を受けた会社がゴーレムコア製造の大手……大企業でもこうなるのだと、つまり、この街の警備の甘さが露呈したことも合わさり、非難が殺到。

 それを受けたのは、我らが警察。

 しかも、情報をほとんど開示していないにもかかわらず、どこで特定されたか、非難のほとんどが魔術一課に集中……


「対応するのは私なんだぞ……っ!日本の上司は働きすぎなんだよ、いつの時代も‼︎大体なんだ、批判の内容が『未然に防ぐことはできなかったのか?』って口揃えて言いやがって……相手を考えろ、相手を!禁忌連発する化け物人間に、百近いチップを持ったモーブ、それにリビングアーマーだぞっ!こんな状況で防ぐ方法あるんだったら、逆にこっちが知りたい‼︎そういう事件に限って、犯行の動機が私怨だったりするんだ。今回はどうだ、あの会社をリストラされた社員の恨みじゃねぇか!マスコミもそれに乗じて首突っ込みすぎなんだよ。しかも、あいつら余計なことばっかりやるから、余計たちが悪い。『桐上早希を出せ』とか、どこまで情報がわれてるんだよ!大衆の前で名前まで出される恐怖、お前らは知らんだろ。今度体験してみろ、日本こえぇなってなるから!」

「早希警部補さん?お酒まわって口調も変になっちゃってるよ?とりあえず一旦座ろう?あとその話、あまり人が集まったところでする話じゃないよ。周りみんな見てるよ」

 サリーに止められ、とりあえず座る早希。

「今日はもう署には戻んねぇからな……第二小隊に全部任せてやる……」

 いつもの早希の面影は、もう残ってなかった。


 サファが苦笑いを浮かべながら言う

「隊長って、お酒弱いんですね……そうだ、さっき隊長が言ってた、リビングアーマーってなんですか?」

「ああ、それね。旧型のリビングメイルのこと」

 サリーが答える。

「今のリビングメイルより、魔物とつながりが深いタイプ。強いけど、使い過ぎるとすぐに死ぬ。でも、結構最近までこのタイプだったんだけどね。アラタがこれ使ってたかな?」

「アラタさんが?」

「うん、そう。ただ、アラタは魔物に飲み込まれないように、少し自分でいじってたかな……全身をすっぽり覆わずに、必要最低限だけ。鎧でありながら、まるで服のように……顔なんて、ゴーグルというか、バイザーだけだったし」

「リビングメイルと同じ……あれ?待ってください。リビングアーマーというか、リビングメイルの形って、いじれるんですか!?」

「そうだけど、どうした?」

「うっそぉ……わたしが動きにくいドレス姿で頑張ってた理由って……じゃあ早希隊長のあれは?趣味?」

「まあ、早希にも考えがあるんでしょ……そうだ、そういえば、言っておきながら伝えてなかったね……アラタが死んだ、あの事件の真相」

「私もはなすぅ……」

「もう誰だよ、あんた……そんなわけで、僕だけで話そうかな」

「でも……その話、は、」

 スペランツァが心配そうにサリーを見る。



「なに、5年も経てば、悲しさも薄れる……そう言う物なんだろうね。けむくじゃらの僕が人間の心を理解するのは難しいけど、人間もこうなのかい?それとも、ずっと引きずるのかな?いや、そんな顔しなくても大丈夫だよ……さあて、話を始めようか。そうは言っても、多少データは読み込んでるだろ?……よしよし。流石に、これに関しては読んでるね……あの事件、側から見れば、ただの殺害事件だ。ああ、確かに殺害事件だよ。普通のな。この世界からすれば、至って普通だ。事件の首謀者は、エンジェルの女性。天使、だ。魔物、というか、亜人。神と書いて亜神、かもしれないけど。彼女は、通報をした張本人でもある……それはさておき、被害者は子ども2人に、大人1人。この子ども2人が問題でさ……たしか」

「ねぐれくと……」

「そう、それ。呂律がまわらなくなってる早希は置いといて、子ども2人はネグレクトにあっていた。なんでかな?簡単だよ、天使じゃなかったから。本来であれば、人間とのハーフ、つまり半分は天使の力が残るはずだった。でも違った。天使も、言って仕舞えば亜人だ。天使の力は、4分の一、もしくはそれ以下になってしまった。それに、その天使は夫を愛していた。子供は邪魔になってしまった。夫が愛せてその子どもが愛せない、というのも変な話だけど。結局、天使はネグレクトに走る。信じられる?天使が、だよ。もっと信じられないのは、自分の子を殺すことが嫌だから、わざわざ、魔物をやとって殺させたことだ。でも、ここで彼女の予想外のことが起こった。夫が動いた。彼もないと、そう思っていた子どもへの愛情が、彼にはまだ残っていた。そのまま、彼も事件に巻き込まれた。天使は焦って通報、であのざまだ。

 なにが怖いって、これを引き起こしたのが天使だということだ……平和そのものともいえる、彼女が引き起こした。わかる?これは、どんな魔物でも、例外無く悪に落ちる可能性があることを示唆している。

 結局、この世界に、救いはないよ。

 ユートピアは、存在しない。

 天国なんて、ない。

 世界なんて、そんなもんさ。

 そうだ、その天使がどうなったか知りたい?

 いち早く通報先に飛んでった早希が、見つけたんだけどさ……ああ、資料じゃあ事故死とでも書いてあった?運が振り切ってそうな彼女らがそんなことするかい。世間様にこんな事実を伝えるわけにはいかないからさ、隠したんだけど。


 首吊ってたんだよ、天使みたいな顔でさ」





今回はここまで

中途半端な気もするけど、ビル消失もここまで。

しばらく鋼命に集中します

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