プロローグ
よろしくお願いします
蒼空を駆ける飛行機が、白い線をひく。
五月蝿い蝉の、その声を、意識の隅で聞いた。
手でペンを回しつつ、ボソッと呟いた。
「今日も平和だなぁ……」
弾丸のような、白いチョークが額に飛んできた。
それは一度、顔に突き刺さり、空中で回転して床で砕ける。
「学生がそんなジジくさいことを言うな。お前らの本分は『べ・ん・きょ・う』だ」
気がつくと、鬼のような形相の教師がこちらを見ていた。
「なにすん……!」
だ、と言おうとしたが、しかし、頭を掴まれたことで遮られた。
「碌に授業も聞かず、補講受けてるやろうが口答えか?おおん?」
「いてぇっ!ぼっ、暴力反対!警察呼ぶぞ!」
「愛の鞭だ」
パッと手が離され、頭を撫でられる。
「しっかし、確かに平和だな」
二人で、ぼんやりと外を眺めた。
まだ、この時までは平和だった。
いつものような日常が、ずっと続くと思っていた。
そう。
空に大穴が開くまでは。
初めに異変に気がついたのは、俺だった。
「センセ、あれ、なんだ」
ポツンと一点、黒があった。
その黒は、急速に拡大を始める……!
まばたきを一度しただけで、それは空を満たしていた。
「なんだ……」
「なんなんだ、あれは!」
襟を掴まれ、引っ張られる。
「新田、おい、しっかりしろ、新田!」
激しく揺さぶられて、やっと目の前の景色がはっきり目に映った。
「せん、セ」
「ともかく、現状が分からん限りはお前は動くな!外を見てくるから、絶対にここから出るなよ!」
飛び出して行った彼を呆然と見つめ、見えなくなったところで、意識がはっきりした。
「先生!何かあったら……!」
追うように、自分自身も飛び出す。
普段となんら変わりのない廊下が目に飛び込む。
階段から足早に駆け下りる音を聞き、急いで追いかけた。
「待ってくれ、先生!」
転げ落ちるように階段を降り、外へ飛び出す。
先生の背中は見つけられなかったが、代わりに見たものは。
我が物顔で闊歩する、悪魔のようなものたちであった。
その光景を見て、ただただ、立ち尽くした。
ついさっき、「平和だ」といったように。
ボソッと、呟いた。
「一体なにが、起こっているんだ……」
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そしてその、10年後。
「新田巡査は、あの日……“穴”が開いた日。なにをしてたんだい?」
上司である、その女性が彼に問うた。
彼は顔を赤らめ、言う。
「恥ずかしい話しながら……その日、俺は補講を受けていたんですよ」
彼は。
『警察庁警備部魔術一課』新田安良汰は。
そう言った。
今回はここまで
よろしくお願いします