愉快なバディのビル消失:Fifth
ちょっと解説
リグ:繋ぐ
魔法と魔法、物と物をつなげる魔法
勝敗は、すでに決まっているようなものだった。
「デカブツには、デカブツを……ネグズ・フルム・カレスド、リグ!」
生成された鉄の棒を、警棒に繋ぎ、完成したのは黒い刃の……ナギナタ。
それを、呼び出されたゴーレムに向かって投げつけ、見事手に取ったゴーレムは、それをスライムに向けて、構えた。
「この場は託します!」
そう言って、サファ本人は逃げる。
逃げる。
「ちょっと、サファ!?」
「真っ直ぐ突っ込むのは、バカのやることです!あれはダミー、二分しか持ちません。圧倒はできても、辛勝もできません!スペランツァを安全な場所に運んで、また戦線に復帰するまで時間が稼げるかどうか……あのビルの間に隠れますよ!」
建物の間に駆け込んで、その瞬間、空間がぶった斬られる音、巨大な存在が蠢き、突撃する感覚が届く。どうやら、スライムも反撃に出たようだった。
ビルの間の空間に逃げ込み、スペランツァを壁にもたれかけさせる。
少し動くだけで、スペランツァは喘いだ。
「ちょっとしんしゃ!もう時間がありません、こっちの手伝いを」
だが、ひといきつく暇もない。
ざ、と歩みを止める音がした。
「サファ、後ろ……!」
「後ろ?……わぁっ!」
鋭い一撃を、サファが腕の装甲受け止めた。
斬りかかったのは……黒い、鎧。
「生きた鎧……リビングメイル・モーブ!サカキバラとかいうやつ、こんなのまで隠し持ってたんですか……っ!」
受け止めた腕を無理やり振り下ろす。
抑えきれなくなった剣が、そのまま地面に振り下ろされ、突き立つ。
リビングメイル・モーブが大きな隙を晒した。
それを逃す、あたしたちではない。
「ナクル・リグ・ザン・カレスドッ‼︎」
剣の生えた拳で、相手の鎧を間を縫って、突き刺す。
勢い良く引き抜いた次の時には、黒の鎧はチリになって消え失せていた。
スキルを使い、一撃でチップの位置を貫いたのだ。
だが、ここで安心できないのがこの世界。
絶望は簡単にやってくる。
チリの後ろで、また新しいリビングメイル・モーブが佇んでいた。
それも、二体。
「……っらぁ!」
何も考えず、飛びかかる。
剣の拳を振り下ろし、応戦しようとするが、奴らの一人が剣で受け止め……拳の剣が、へし折れた。
もう一体が、懐に飛び込んでくる。
そして……
「しま……ッ!」
切り上げられた。
鮮血が、飛び散り、黒い鎧を紅く染める。
「……だぁ!」
それでも、サファは懸命に反撃した。
ぶん殴られて、一体が崩れ落ちる。
同時に、サファも、膝から倒れた。
まとっていたリビングメイルがほどけるように消え、普段のサファの姿に戻る。
「すぺらん、つぁ」
まずい、血を流しすぎた。
あたしとのつながりも弱く……と、思っていたその時。
「ヒール!」
スペランツァの、声がした。
そして、魔法も聞こえた。
次の瞬間、魔力が流れ込み、傷が癒える。
でも、でもこの魔法は。
「禁忌……全快『ヒール』……」
「使ったことは……内緒」
スペランツァが口に指を当て、立って言う。
そう、あそこまで傷ついていたのに、立ち上がっていた。
「……もう一体のリビングメイルは!?」
焦って、サファも立ち上がる。
でも、その頃にはもう終わっていた。
漆黒の馬……人間?
ちがう、ケンタウロスだ。
黒いケンタウロス……ケンタウロス・モーブがそこにいて、リビングメイル・モーブを突き刺していた。
「うちにだって……切り札があるの」
リビングメイル・モーブかチリと化す。
「でも……どうやら」
再び、いくつかの鎧の音。
リビングメイル・モーブ。
サファに対して、願うようにスペランツァは言った。
「うちらはここで……戦ったほうがいいみたい。サファ……あなたにしかお願いができない……スライムを、倒して」
……ああ、そうか。
こいつらは、バディ、なのか。
再び覚悟を固めたサファが、返す。
「……もちろん!」
『Start livingmail. Open the 3rdworld!』
ええ、いきましょう。
それが、真っ直ぐ突っ込むことが、バカなわたしにできること!
『ready……』
「set!」
『GO!model……G O L E M!!』
「行ってきます!」
いってらっしゃい、と聞こえた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
私はその頃、サカキバラと戦っていた。
実力は拮抗、押し、押し返されの繰り返し……!
ガン!と再び力がぶつかり合う。
「お前が事件の犯人か。お前の目的はなんだッ!」
「そう簡単に……教えるかッ!」
サカキバラが剣を弾く。
「だが、ヒントは教えてやろう……!」
「なに……?」
サカキバラの爪を、剣で受け流す。
「俺は、誰かの正義の味方になる。舐め腐ったテメェらとはちがう……なッ!」
サカキバラが魔力を加速させ、私を振り払う!
私が大きく下がったのをみて、サカキバラが声を張り上げる。
「テメェにリジェクトが効かないことは、よくわかった。ふん、魔法もろくに使えない未熟者が。その程度だったら、俺には到底及ばない。知れ!俺の一撃の重みを!
極斬、ザングルーズッ‼︎」
爪が肥大化し、襲いかかる!
その一撃は、まさに獲物を刈り取る鎌。
擦れば、即死。
だが、到底。
「なにが重みだ……ッ!なにが、正義だ‼︎私の鎧は、民を守る盾。剣は、民に牙剥くものを討つ矛‼︎お前なんぞと、背負ってる重みの格が違う‼︎」
私には、及ばないッ!
「リセットで保持するのもいい加減疲れた。禁忌を使ったものは、もはや討伐の対象。どれほど痛めつけても、なにも言われん!食らえ‼︎我が全身全霊の一撃を‼︎
愛を捧ぐ者ッッ‼︎」
巨大な光の剣を切り上げ……次の瞬間には、相手の爪は粉々に砕け散っていた。
「なん、だと」
「オオォオオオオオッッ‼︎」
その、まま、斬り下ろす!
サカキバラ目掛けて、叩きつけるっ!
「……っち
反射、リファイウェール」
相手に届く、寸前に。
魔法陣に、止められた。
「この魔法の強みは、もう一撃あることだ」
衝撃、逆流……!
手元の剣ごと叩き折られ、元の姿……拳銃へと姿を変える。
「な……」
「期待できると、思ったんだがな。俺に理想とは違ったらしい。だからといって、ここで始末するのも惜しい。ここで退散させてもらう」
「待てっ!」
引き金に、指をかけるが。
「おっと、これでも撃てるかな……オープン」
サカキバラが、黒を生ませる。
暗闇の中から取り出したのは、一人の、男だった。
「こいつは、事件を起こした黒幕」
「は?なんだと」
「俺はこいつを手伝っただけだ……撃つなよ、こいつに当たるぞ。さて、時にテメェよ。カイン、という禁忌魔法を知っているか」
「カイン……魔王の名か」
「そう、魔王のカインはここから取られている……が、本家は知らんだろ。見せてやる、目の前でな
装着、カイン・グラン」
男の背後に、魔法陣が展開する……!
その中心に、サカキバラは黒いチップをはめ込んだ。スライムの絵が描かれたチップ。
スライム・モーブチップ!
「なにを!」
走り出し、殴りかかるも、また寸前で跳ね返される。
「そこでみてろ」
「っちぃ!」
『ready……』
魔法陣から、よく聞いた、あの声が。
『GO!……MOOB,reset MOOB!S L I M E‼︎』
見ず知らずの男の体に、鎧が纏われる……それは、まるで。
「リビングアーマー……!」
「俺の代わりに相手しておけ。いっておくが、手強いぞ」
「知るかそんなもん!逃げるな、このっ!」
ちょうど、サカキバラが穴の中に入り込もうとしたその時。
「あの日の雪辱、今ここで晴らさせてもらう!」
スライムの鎧を纏った男が飛び込んできて……。
「邪魔だ、雑魚!」
見事に吹き飛ばされた。
鎧も剥がされるおまけ付き。
「逃、げ、るな、サカキバラァァァ!」
モブのごとく退場したあれを、頭の隅に追いやって、逃げるサカキバラに銃口を向ける。
だが、引き金を引く頃はもう。
「残念、また会おう、現場でな」
そこにサカキバラはいなかった。
残ったのは、リビングメイルもどきを引き剥がした時に手に入れたスライム・モーブチップだけ。
しばらく手の中を眺めていると、聞き慣れた変身音。
ゴーレムを纏う音と、駆け出していく音。
そして、立ち向かわんと飛び上がる音。
決断は早かった。
「サファ!こいつを使え!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
飛び出していったその時、タイミングよく、置いていったゴーレムが消滅した。
しかし、消えたゴーレムの手元にはあのナギナタはない。
スライムに突き立ったまま、そこにあったのだった。
「ナイス、ゴーレム……!しんしゃ、早く終わらせますよ!ナクル・スオラ・カレスド!」
高く飛び上がる!
そして、ナギナタを掴め……
「うらっ!」
……なかった。
なにやってんだ。
「だって、こんなこと初めてで……」
壁を建てろ、それを踏み台にもう一回跳べ!
多分それがラストチャンスだぞ!
「……!わかりました。ウォル・ガズルゴ!ついでにもう一回、ナクル・スオラ・カレスド!」
どん!と轟音がして、道のど真ん中から岩の壁がそそり立つ。
垂直な壁に足を立て、一気に蹴り飛ばした。
壁が砕け散る感覚、空を切る音、そして、足を引かれる痛み。
……痛み?
「……ああっ、ちょっと!」
サファが空中でつんのめった。
足に、スライムがまとわりついていたのである。
宙吊りになった状態で、必死に手を伸ばす。
が、しかし。
「手、が、とどかない」
あたしの体を借りて、多少長身であろうと、絶対に埋まることのない空間がそこにある。
それどころか、足にまとわりついた細いスライムでも、少しずつなら人を飲み込めるらしく、脚を這って進む感覚があった。
「ひっ……しんしゃ、ど、どうすれば」
まずはスカート抑えたらどうだ?
「そうじゃなくて……っ、この状況を打開する策を」
それなら大丈夫そうだぞ。
「はい?」
ほら、早希がなんかぶん投げた。
「……は、いいいいい!?」
チップが胸元目掛けて飛び込んでくる!
内臓が飛び出すんじゃないかと思うほどの衝撃を乗り越え、飛んできた方向を見ると、早希が親指を立てていた……。
「……あのゴリラ」
親指が下を向くのが見えた。
終わったな、お前。
「……どれだけ地獄耳なんですか……隊長!貰いますよ、これ!」
そいつの特性は?
「だいたい分かってます!」
手元のチップの黒が、ポロポロと落ちる。
そう、それは!
スライムチップ‼︎
『ready……』
「set!」
『GO!model……S L I M E‼︎』
瞬間、光に満ちた穴から、鎧が……いや、鎧と呼べるか定かではない。
流線型の、まるで液体のようなそれ。
それが、サファを呑み込む……!
つるん、と拘束を抜け出した。
サファ自身が、スライムになったようである。
「うらうらうらーっ!」
スライム・モーブの上を流線型のままサファが滑る。そのままスライム・モーブを踏み台に……
「うらーーっ‼︎」
ジャンプ!
地面に着くまでに、人の形が形成される……!
「ふふーん!……スライム・サファ、ヒューマンフォーム、参上‼︎」
「ああ、やっと着たか」
横に、早希がいた。
「……すごいリビングメイルだな」
「へへ、スライムの割に強そうですよって痛っ!」
額を指で、弾かれた。
俗に言う、デコピンである。
「なにするんですか!」
「さっきの借りだ、ゴリラ呼ばわりしやがって……得物は回収したのか」
「もちろん!」
「貸せ」
「え?」
「いいから貸せ
……愛を捧ぐ者!」
ザン!
スライムがまた、真っ二つになる。
「っち、もう一発!」
ザザン!
今度は四等分に!
しかし、それでもスライムは、ゆっくり再生していく……。
命が何個もあるかのように。
「チップを、何枚も取り込んだみたいだな……よし。私があれを、細切れにして、あの流体の壁を薄くする。サファ、お前が全部、チップを割れ」
「は、はい?」
「お前が、とどめを刺せってことだ……できるな?」
「……もちろん!」
「よーし、リセットで構えてろ……ラァッ!!」
斬撃音!
続いて二、三……何百、何千もの、斬撃‼︎
「よーし、私たちもやりますよ!しんしゃ、サポート!」
おう、と返事をし、地図を展開、スライム・モーブに集中……!
「見えました!さんきゅしんしゃ!拡がりなさい、わたしの腕!」
『reset……S L I M E‼︎』
サファの腕が、細かく、枝分かれして、広がる!
何百にも分かれたように見える腕のひとつひとつに、小さな拳が。
「ナクル・カレスドリ、を、のせてっ」
一撃はたとえ弱くとも、的確に急所をつくサファの拳は、
一 撃 必 殺 ッ‼︎
「サファ、今だ!」
瞬いて。
消滅、再燃。
穿つ、百閃!
「スライム、流星パーーンチッッ‼︎‼︎」
砕ける、音。
放つ流星は。
百発、百中!
……残ったのは、モーブの残骸、ひらめくチリだけ。
「っやっ……たぁ、勝ちまし、た……」
バタン!
ぶっ倒れたサファとのつながりが薄くなる。
どうやら、相当無茶をさせていたらしい。
前回も、今回も。
……労ってやりたいが。
そんなことを考えているうちに、どんどん意識が薄くなる。
意識が消える、最後の瞬間。
早希の、お疲れさま、の声が聞こえた。
お前も死ぬほど疲れてるくせに。
今回はここまで
すっごい長くなって、投稿までの期間が空きました。
それはさておき、魔法が多くなって私も処理をしきれなくなってきたので、いい加減整理したやつをあげようと思ってます。そのうち、ね。




