愉快なバディのビル消失:Fourth
コツ、コツ、コツ。
閉じられた空間に響く音と、真っ暗闇が、不気味さを加速させる下水道。
意外と、下水道は長く続き、確認に余計な時間を費やした。
でも、途中で気がついた。
ほんの数分しか歩いていないのに、後ろの気配が完全に消えてることに。
ふと、後ろを振り返る。
暗闇を照らすように、電灯代わりに先を光らせる魔道警棒を向けた。
しかし、人影が一切見えない。
「……あれ?」
綺麗さっぱり、ついてきてたはずの警官は、一人もいなかった。
前触れもなく、消えていた。
「うそ……これって」
……いる。
何か、いる。
「はぁ、ふう……連絡してる暇はなさそう……うちだけでなんとかしなきゃ」
もう一度、深く呼吸……展開!
『connected magicchip……VEDO』
「ザン・アンブ・ヴェドルゴ‼︎」
暗闇に溶け込むような、真っ黒な刃が、魔道警棒から迸る!
呼応するかのように……下水が渦巻く感覚。
直感……!
「しま……っっ!ボル・ブラボ・カレスド!」
真上に向けて、解き放つ!
腹に響く衝撃と……鈍痛!?
「か、は?」
何が起こったかもわからないまま、地上まで突き上がる……地上のコンクリに背中を叩きつけられた。
刃を展開したまま、警棒が転がる。
黒い刃が、地面を焼く。
痛む体を無理やり動かし、せめてと頭だけ持ち上げた。
視界に入ったのは。
「黒い……スライム」
存在が、大きく感じられた。
いや、大きかった。
巨大だった。
よく見るスライムなんかより、人間なんかより、もっと言ってしまえば、平均的な住宅よりも大きいスライムが、ビルとビルの間、大通りを覆い尽くすように、立ち塞がっていた。
圧巻の気迫が、ほんの少し、動く。
それだけなのに、ただそれだけなのに。
悪寒が……っ!
(だめ……殺されちゃう……!体は動かない。何本か折れてる……せめて動いて、うちの、魔力!)
「シェネ……カレスド!」
コンクリから、鎖が伸びる……!
伸びて伸びて……剣の方へ!
(せめて、届いて……しまえば!)
じゃらじゃらと、届けと、渡れと、願って、そしてーー!
志半ばで、鎖は、踏みつけられる。
「その力、ぜひ欲しい……」
人間に、踏みつけられる。
「……な」
そして、命令されたかのように、止まったのだ。
一直線に、そこを目指していたはずの、鎖が。
「禁忌、と呼ばれる魔法を知っているか」
鎖を踏みつけた人間は、重く口を開く。
それは、ひょろっとした、背の高い男だった。
到底、鎖を止めるような筋肉がついているとは思えない……だけど、彼の背後に浮かぶそれが、証明している。
青く輝く、魔法陣。
「魔導変換・リジェバネル……その、最適化だ。俺の魔法を、好きに呼んでくれたな。劣化だと?違う。根本からの、間違いがすぎる。これは抽出だ。ただ、必要な部分だけ、取り出した。劣化じゃない、これが、魔法自身の望む、最も美しい姿だ……ほら、くらってみろ
ゼリル、ガンナ」
全身が、硬直した。
まるで、神経の一本一本を、糸で縫い付けられたようで。
男が、人形を操るように、手を振り上げる。
その動き一つで、無理やりにも体が動き始めた。
ぎしぎしと悲鳴を上げる体で、一歩、また、一歩。
歩くたびに、激痛が流れるが、男に操られる体では、口を開くことすら許されない。
合図のように、男が指を鳴らす。
ぱちん
その音で、体全体が男へとスライドした。
名前もわからない男と触れ合うぐらいまで近づいた時、それは、ひとつ、言った。
「俺の名前を覚えておけ……サカキバラ。サカキバラ・ギルト。もし、この声をお前以外のだれかが聞いているのであれば、今から貴様らの仲間を殺す俺を、恨むなよ。恨むなら、貴様ら自身を恨め」
サカキバラ、そう名乗った男の手に、純白のチップが握られていた。
何にも染まらないような、完全な白。
息を飲む。
今この男は殺す、と言った。
このチップから、全てを察していた。
覚悟もできていたはずだった。
でも……まだ、やっぱり。
怖かった。
助けを願わずに、いられなかった。
誰か、誰か助けてと、心の中で叫ぶ。
瞬間
「ナクル・カレスドリ‼︎」
インパクト‼︎
ドレスを纏った人間が飛び込んでくる。全く似ていないのに、ほんの一瞬、ゴーレムと見間違うドレスをまとった、その女性。
見慣れた姿と違うけれど、すぐにわかった。
「サファ……!」
声が出た。
魔法が、解けていた。
感じる浮遊感と、地面が剥がれ、男とともに地面から離れている状況で、遅まきながら現状を理解する。
空中へ浮かび上がっていた。
でも、もう。
心配することはない……だって、信じられる仲間がいるんだから。
「サファ……サファっ!ありがとう……ごめんね、迷惑かけて」
受け止められて、やっと安心したのか、口から言葉が止めどなく溢れる。
「……大丈夫です。助けを呼ぶ声が聞こえたら、すぐにとんでいきますから。だからあとは、任せてください」
サファが、うちを片手で抱えたまま進む。
スライムの方へ。
三歩進んだあたりで、スライムが身を震わせる。
己を奮い立たせるように。
いつでも襲い掛かれるように。
でも、サファはそれを。
「スライム如きが、わたしに勝てるとお思いで?」
一言で黙らせた……スライムの感じる、恐れ、痺れ。その全てが、自分にすら伝わってくる。
これが、サファ・クラウン・フェイア。
うちの……バディ。
「スペランツァ、この警棒、お借りしますね」
いつのまにか、サファの手には得物が握られていた。うちが生成した、黒い剣。
その剣で、動かない相手に、躊躇無く。
「っ……ら、あぁっ‼︎」
一、閃‼︎
空間も、秩序も、もちろんスライムも、綺麗に切れた。
真っ二つに。
音も、途切れたようにも感じる……いや、一筋、細く、声が聞こえる。
「リ、ジェ、ク……トォォォ!」
サカキバラの、声。
サファを背後から切り裂こうとする彼の鋭い黒き爪、その不穏な輝きが殺到する!
「サファ……後ろ……!」
「遅かったですねえ」
呑気に言う。
直後、
がギンッ!
金属同士が接触するような音が。
「た〜いちょ」
「ああ、待たせたな」
そう、桐上隊長が、サファとは違ったドレスをまとい、物騒な剣を携えて、その剣で、サカキバラの爪を止めていた。
「リジェクトが、通用しない……!?」
「リビングメイルが、全て魔法で生まれると思うなよ
……愛を捧ぐ者!」
桐上隊長がサカキバラを蹴り上げた。
正大に男は吹き飛び、それでもなんとか着地する。
「……どうやら、私はあいつとの方が相性がいいらしい。そっちは任せるが、大丈夫か?」
「隊長こそ、調子に乗ってユニコーンのボコボコにされたくせに、大丈夫なんですか?」
「ばか、あの状況じゃどうにもならんだろ。ユニコーン・モーブ七体相手で、かつ手錠を守りながら、なんてな。大体、お前、スペランツァ抱えたまま戦うのか」
「隊長とは違うので」
「後で覚えとけよ」
「ひい、あのスライムまだ動いてる……チップ、何枚入ってるんでしょうね」
「どうでもいい。お互い、敵を殲滅するだけだ」
「……わかってますとも」
「ああ、いくぞ」
二人で、同じ動作をとる。
互いのデバイスに差し込まれたチップを一度抜き、再び挿し直す。
『reset……G O L E M‼︎』
『reset……B R A V E』
サファの前には、大きな魔法陣が展開し……その中から、魔物のゴーレムが、ゆっくり出現した。
桐上隊長は、剣と化したデバイスが、デバイスを覆うように、光の剣を作り出す。
「……GO!」
「いえっさー!」
今回はここまで




