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魔導警察ゴーレム  作者: 恵乃氏
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愉快なバディのビル消失:Second

「魔力反応が出なかった、だと」

 耳を疑う。


 署に残った私たち二人、すなわち桐上・サリバールペアは、事件の詳細、および魔物のデータベースを漁っていたのだが。

「そう来たか……つまり、魔物自体の能力で、起こされた事件だとでも?」

「しかないじゃん?」

「……そんなことが、なぁ」

 もはや人ごととでもいうかのような会話だが、冗談で済まない状況である。

 穴も使わず、ビルを綺麗さっぱり消し去る魔物?

 そんなやつが事件を起こした?

「冗談であってくれ、と言いたいな」

「弱音を吐いてる暇はないよ、桐上隊長。最悪、戦闘も想定できる」

「っは〜……ひどい事件も増えたもんだ。よし、状況確認をしよう。サリバール」



「はいはい、了解」

「とは言っても、なんせわからないことが多すぎるから、サファたちの報告を待たないと、何も言えないのだけれども」

 多少なりともあるのだろう?、と尋ねる。

「聞いて驚かないでよ?僕たちに情報が届く、およそ30分前、通報が入った」

「以上」

「これで終わりだよ、隊長。目撃者も誰もいないんだ。ご丁寧に防犯カメラも壊されてて、その前にも何も映らず。めんどくさいねぇ」

 めんどくさい、じゃ済まないだろう。

 情報は以上でも、状況は異常なのであった。


「そんなシャレを言っても、なにも好転しないんだけどね」

「わかってる、少しぐらい逃げさせろ、現実から」

 頭を抱える。

 いかんせん、考えなければいけないものが多すぎた。

「魔物がなにか、まず人間なのか、犯人は誰か、なぜ誰も見てなかったのか、魔物に対策に、サファの対策……」

「最後のは明らかに今じゃないよね」

「なに?最優先事項だろう」

 噂をすればなんとやら。

 その時ちょうど、けたたましく電話が鳴った。


「……サファか?サファだろうな。やかましい」

「やかましいって、サファもまだなにも言ってないだろうに」

「はい、もしも……」

『桐上隊長!?桐上隊長ですよね!すごいですよ!なんにもない!」

「うるさいっ!」

 鼓膜が破れるかと思うほどの爆音が、耳を貫いた。これだからこいつとの電話はいやなのだ。いっそのこと、耳栓でもしてやろうか。

「あと、現場ではしゃぐな、まったくもう」

『だって、真っ平らなんですもん。隊長の胸みたいに』

「ああ!?」

 こいつ今、なんて言いやがった?

 とんでもなく失礼なことを抜かしやがったな?

 私も女なのだ。気にしないわけがなかろう。

「このガキ……覚えとけよ、チビが」

『ああーっ!言いやがりましたね、この上司!いいですもん、桐上隊長よりは胸ありますもん!!』

「なんだと貴様ァッ!!スキル使ってぶん殴ってやろうかッ!!」

「そこの子供二人、やめなさい」

 咎める声。

 そこには、冷ややかな目でこちらを睨む、獣人がいた。

 というか、子どもって。


『……そうだ。聞きたかったことがあるんです』

 急に仕事に戻るサファ。

 向こうでスペランツァに怒鳴られでもしたのだろうか、いまにも泣きそうな様子であった。

『目撃者が一人もいなかったって、それどころか、ビルが消えた時周りに誰もいなかったって、本当ですか?』

「周りに誰もいなかった?」

 聞いてないぞ、とサリバールに視線を送る。

 サリバールの目が泳いだ。

「っち、あいつ、さては忘れてやがったか……で、詳しく」

『んと、えーっと……スペランツァ、どういうことですか?』

『禁忌魔法……が使われた可能性がある……ということ』

「……そう、なるよな」


 さて、ここで解説だ。

 禁忌魔法とは、その名の通り、使うことが禁忌とされる魔法のことだ。

 違法の魔法と大きく異なることは、戦争の前から、禁止されている、という点。

 言ってしまえば、冒険者ギルドなどと言った暴力団じみた組織が闊歩する世界でも禁止されるような、危険な魔法である。

 例を挙げれば、消去魔法「デリーシェン」、意識改変「ゼリルガンナ」、そして……異世界融合「オープン」。

 最後の一つは言わずもがな、穴をあける魔法である。比較的新しく、災厄クラスが揃う禁忌の中でもトップクラスの危険な魔法だ。

 穴をあけること、それ自体は、この世界ではまさに非常識。

 しかし、なぜ我々警察は、「オープン」を使えているのか。

 それは、「オープン」が禁止されていないから。

 ほかの禁忌は禁止されているにもかかわらず、たった一つ、これだけが禁止されていない。

 行使できる魔物が少ないのもあるが、それ以上に大きいのは……現日本を支配する、あの世界にとって、戦争の反省などというしょうもないことより、利便性が重んじられる、馬鹿げた思想だろうか。


「今回の場合、考えられる禁忌は?」

 サリバールに尋ねる。

「禁忌であったことを前提とするなら……「ゼリルガンナ」の劣化が可能性が高いかな」

「意識改変の劣化、それで人払い。そういうことか。ゼリルガンナは人を根本から書き換える分、術者の負荷が大きい……だが確かに、人払い程度まで、近寄りたくない、と思わせる程度まで落とし込んでしまえば、目撃情報が出なくなる範囲をすっぽり覆う禁忌でも、あるいは、か」

「サファ巡査、聞こえる?サリバールだよ。少し、辺りを見渡して欲しい。そこに、大きな絵が描けるようなスペースはあるかい?」

『スペース?……ああ、そういうことですか。魔法陣を描くスペース、ってことですね。でも……すいません、ちょっと見当たりません』

 大きな術式を展開する際、魔法陣により魔力消費量を軽減する手法がある。

 欠点としては、魔法陣から個人が特定されやすいことだった。

 ただ、レベル2以上の魔法が基本使用禁止なこのご時世、魔法陣の存在が異質なのだけども。

「ほかに、隠せるような場所は?」

『ここだと……ほかのビルの壁、は考えにくいですから、えっと……なんかありますか?スペランツァ』

『マンホール……があるぐらい?』

「わかった。一応、中まで探しておいてくれ。それとサファ。リビングメイルの無制限使用を許可する」

『わかりました!バッチリ任せてください!』

「ああ。万が一の時は頼んだぞ」

 電話が切れる。


 一瞬、物音が消えた部屋で、考えを巡らせる。

 禁忌が使われた時点で、やる気とはただ一つ。

 被害をこれ以上増やさないこと、つまり、これ以上禁忌を使わせないことだ。

 禁忌は魔力消費が大きい分、もう一度使えるようになるまで回復するのに、時間がかかる。

 被害が拡大しなくとも、穴で逃げられれば完全に手が出せなくなる。

「おい、今の被害は」

「まだ詳しくはわからないけれど、ウン百人。あのビル、ゴーレムコアの設計の大手らしいね。社員以外にも、外部の人も消えてる。というか多分……死んでる。交渉に来た人とか、水道会社とか、清掃業者とか……深夜に消えたことを考えれば、おかしいぐらいに人が出入りしてる」

「そうか、深夜か……まるで、日本だな」

「ん?どうかした?」

「いいや、クラックの時を思い出しただけだ……私も出よう。お前はここに残れ。サポート、任せるぞ」

 拳銃を、くるくると回した。


 なんだ、結局、この国は変わらないのか。

 そうか、なら。

 この日本のやり方で、この日本の生き方で、やらせてもらう。

 禁忌を使うバカには、日本の警察の、暴力で。

 徹底的に、罪を飲ませるだけさ。


今回はここまで

特に書くこともないので、早く寝ましょう

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